第二十四話 繋ぎとしての話って蛇足感にまみれてるよね


 ハッキリと断言するが、ジークにはアスタロトを倒せるほどの膂力はない。

 一応はリリスを倒しに魔王城の最上階まで到達した勇者の身ではあるのだが、それはジークのスキルとも呼ぶべき愛らしさや年齢あってのものだ。仮にガチの戦闘目的で(ジークとしては戦っているつもりだったのはさておき)魔王城を突破しようとしていたら、最初の門番の段階で返り討ちになっていただろう。


 勇者とはいってもまだ8歳の子供。

 勇者としての特別な資質や膂力に恵まれているわけではない。

 それが、ジークという少年なのだ。



「……んぅ……?」

 そのジークが起き上がるのを、カミオは憔悴しきった顔で見ているしかなかった。

 まだ完全に意識が覚醒していないのか、目の前のアスタロトに気付いた様子もない。それどころか、気を失う前に自分がどこに居たのか覚えているのかすら怪しいものだ。

 カミオは何とか動こうと力を入れる。だが、アスタロトから受けた一撃の影響によって身体は言うことを聞いてくれそうになかった。もし動けたとしても、カミオが倒れている場所からジークまでは中途半端に離れている。これではジークの元に辿り着くより先にアスタロトが手をかけてしまうだろう。

 何とも情けない話ではあるのだが、今のカミオに出来るのは、この惨状を見届けるという、当事者にもなり得ない程度のことでしかないのだ。

「……ジークッ……」

 ボロボロの声は、きっと少年までは届かない。

 けれど。

 自分でも理由が分からないままに、カミオはジークの名を呼んでいた。


 微かな希望だろうと奇跡が起きるのを期待するかのように。




 そして、アスタロトはジッと、目の前で起き上がろうとしている少年を見つめていた。

 主君であるベルゼブブを裏切り、殺し、そしてもう一つだけ殺さなければならない存在。

 これから自分が殺すことになるであろう少年――ジークを。

「…………」

 ジークが目を覚ましたのを確認したアスタロトは、一度だけ天使の翼を殺害対象へと向ける。

 ベルゼブブを殺し、カミオを一撃で吹き飛ばした天使の翼。

 人間がこれを受ければ、直撃せずとも余波だけで致命傷となってしまう代物。

 ベルゼブブを倒した時のように、剣の形へと変形した翼の切っ先がジークへと向けられた。

 だが。

「……ふぅ。やはりダメですか」

 ひと言だけ呟いたアスタロトは、嘆息気味に天使の翼を自らの内にしまい込むと、これから自分に気が付くであろう少年をジッと見据える。

 感慨などという下らない精神のブレに左右されたのではない。というよりも、熾天使としてのアスタロトはそのような感情を抱く精神など持ち合わせていない。

 個人の感情よりも全体の調和を優先する。

 常に全体を見ているからこそ、己すら矮小な存在だと知り、己が感情を優先させることは決してない。

 傍目から見れば残虐非道、見る者によっては神にも等しき救いの手。

 天使とはそういう存在なのだ。

 だからこそ、熾天使アスタロトは一切の迷いを抱くことなくジークを殺害することができる。


 そして、ついに。


 アスタロトはジークへと手を伸ばした。

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Lv.0超最弱勇者(8歳)とスーパーショタコン魔王様 辻端かおる @tsuzibata

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