第6話 策略
冷静に考えてみた。ここまでのことは、あまりにも良くできているような気がした。俺は、死んでいても可笑しくなかった。違和感。なにか、とんでもないなにかがある。気にも留めなかったが、ズレみたいなものがある。美王が俺の名前を知っていたこと。子供たちがキャンプファイアを早々に消してくれたこと。カルルさんが助けてくれたこと。裏がある。直感だが、警戒すべきではないか。
「どうしました?そんなに難しい顔をして」
「あ、いえ、少々考え事を」
今の時点ではなにもわからない。進むしかない。
山の頂上にある建物が怪しいというので、現在登山中。それなりに体力はある方だと思っていたが、なかなかキツい。
「あなたは…大丈夫ですか?」
疲れが表面に出ているらしい。空気もモヤっとしている。
「どこにいくんです?」
「すみません、それは、言えないのです」
「なぜ?」突っ込んで聞いてみた。重要事項だから。
「そんなに知りたいですか、別に支障はありませんよ」
「それでも、です。何が待っているのかわからないのは、不安すぎます」
「…世界の秘密に大きく関わりますから。これは、一般人が踏み込んでいいところじゃない。それを知ったら、私のようになりますよ」
そういって、見せてくれた。背中に刻まれた、痛々しい傷。どこか文字のようにも見える、奇妙で、恐ろしいもの。夏にすら似合わない、嫌な涼しさを感じる。
「私は学者でね、昔、禁断に踏み込んでしまったんです。代償としてはあまりに大きいし、秘密は、分かち合えない。ひどい話だと思いませんか?」
カルルさんの苦笑いが、とても辛い。これ以上はよそう。
「着きましたね。源太さんはここにいます」
いつのまにやら目の前には城。城?いやいやなんだこれ。ゲームか。魔王の城か。趣味が悪い、子供みたいなデザイン。色も紫っぽくて、怖さを出したいのか知らんが、奇妙すぎる。
「これに入るんですか?ついていけそうにないんですが」
これから始まる過酷に、ではなく、始まりそうな謎のノリに。
「さぁ、いこう。美王も待っていますから。それに、外観はふざけていますが中は…と、まぁ、気を引き締めてください」
また隠し事か。ここまで来て、何を隠すんだか。まぁ、俺ももう腹を決めた。あいつを、助けなきゃならないし、な。重い扉が開いた。
中には…祭壇?
「カルル、只今戻りました。ゲイザール様、生け贄もお持ちしています、早速、儀式を始めましょう」
あれ、なんで親父とカルルさんが普通に話しているんだ?ってか、ゲイザールってなんだよ。生け贄って…まさか!
「ご苦労。しかし、お前も性格が悪い。何も、育ての親に殺させることはないだろうに。まぁいい、そのガキを捕まえろ!」
「なんでっ!」数人に取り押さえられる。
「これより、美王様の復活の儀式を始める!さぁ、前へ」
美王!そんな、何をするんだ!
「お前もだ、早く美王様のもとへいけ」
二人祭壇の中央へ。美王の復活、生け贄…って、いつのまにファンタジー!?じゃなくて、このままだと死ぬ…さっきとはうって変わって全く笑えない…。状況を整理しよう。俺は美王を助けに来た。しかし、危険なのは俺。むしろ美王は大切な存在なようだから、まず死なないだろう。だからいまは、一人逃げるのを許してくれ!よし、まず隙を作るぞ…適当に、
「大魔法・ファインゼル!」聞いたこともねぇ魔法の名前を叫ぶことで混乱させて、その隙に逃げる!って発想がファンタジーになってる、ヤバイ…。
「大魔法だと!?構えろ、油断するな!」
あれ、なんか信じられちゃってる!ラッキー!急いで扉を開けて逆戻り。しかし、目の前は崖。さっきは崖を上ったのか、いやそんな記憶はない。なんなんだいったい。完全に漫画だ!
「追え、いかして帰すな!」
来る…ここは、一か八か!跳べぇぇぇぇぇ!!!!!
…
意識が…遠のいていく…
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