第二章 現実

第5話 喪失

 頭には痛みが残っているが、一応生き延びたらしい。しかし、ここがどこだかわからない。なぜか俺は、かなり豪華なベッドに入っている。何年振りだろうか、こんな快適なベッドは。体を優しく包み込んでくれて…寝心地がよすぎる。家の布団は硬いし薄い。

 数分幸せに浸っていたが、しばらくして、何故自分がここにいるのか気になった。すると、扉が開き、生暖かい空気が流れ込んできた。同時に入ってきたのは、一人の男。細身で整った顔立ちだ。俺と違って、かなりモテそうなルックスが羨ましい。着ている服もとてもクールな白。ご贅沢なさってるようで。いいなぁ。

「おはようございます。気がついたようで何より」

「あ、えっと、どちら様?」

「私はカルルと申します」

「翔太です。えっと、助けてくれてありがとうございます」

「例など要りませんよ。私は、あなたの大切な人を、守りきれなかったのですから…」

たしかに、この場には俺とカルルさんしかいない。…洸太は!?美王は!?いったい何があったと言うのだ。

「ゲ…源太さんは、美王をつれてどこかへ消えました。二人を追っていますが、まだどこにいるかはわかりません。それ以外の人は…全員殺されたようです」

言葉を失った。大切な家族を失ったという事実は、すぐに飲み込めるものではない。そして、親父の行動。あれにはなんの意味があったのか。とても腹が立つ。親父に、そして自分の弱さに。ふざけるな。洸太を…美王を…返せよ。

涙を浮かべ、どこえともなく叫ぶ。カッコ悪いとわかっていながら、これしか自分の感情を抑える方法がなかった。その後は俺もカルルさんもうつむいてしばらく何も言わなかったが、カルルさんが先に、小さく口を開いた。

「気持ちの整理はまだつかないと思います。しかし、それでも、あなたにお願いしたいことがあるのです」

その内容は、簡単なものだと感じた。そして、すぐに受け入れた。

「私と共に、美王を助けていただきたい」

それは、俺の願いでもあった。

 暗い森へと入るらしい。付いて来て補佐してほしいというが、俺になにができるか、わからなかった。少年漫画のようなカッコよく強い自分じゃないことはわかっていた。急に不安になってきた。しかし、いまは、彼の後に続くしかない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る