第4話 拳
目が覚めた。さっきまでの世界は夢だったらしい。それもそうだ、あんな展開はあり得ない。あんな現象起こり得ない。夢の人物は誰だったのだろうか。なんて考えてみたりしてしまう。あの子は、誰だったんだろう。なんてことを考えていると、視界に不自然な光が入ってきた。目が冴えてしまったので、少しテントからでて風に当たりつつ、なんの光か確認しよう。誰が何をしているのだろうか。
「親父!酔いつぶれていたかと思っていたが…なにか抱えているな。仕方ない、手伝ってやろうかな」
親父に近づき、声をかけようとしたとき、一瞬息が詰まった。声などでない。まだ夢の中にいるのかと錯覚するようなものを抱えている。
「美王!?どういうことだ!?」
それに気づいた瞬間、怒りの渦が心に巻き起こる。こんなに腹立たしいことはあとにも先にもないと思った。あの笑顔が失われたことが、なんとも哀しかった。すると、親父に気付かれる。ばつの悪そうな顔をして、そそくさと逃げていく。
「おい!まてよ!」親父の肩をつかむと、意外と素直に足を止めた。
「何をしてんだよ、こんな夜中に!」
「おめぇこそなんだ、こっちの事情も知らねぇで」
「明らかにおかしいだろ!良いから美王を離せ!」
「おめぇには関係ねぇだろ、なぜそんなに怒ってやがる」
俺ははっとした。なぜこんなにも怒りが込み上げてくるのか、自分にもよくわからない。考えてみれば、美王は今日出会ったばかりの、友達とも言えないような関係だ。しかし、胸の奥に痛みをかんじる。
「俺とおめぇの長ーい付き合いに免じて、ここはおとなしく帰っちゃくれねぇか。というか、おめぇには関係ねぇだろ。まだ寝てな」
「じゃあ美王を置いてけよ!」
「ガキが口出しすんじゃねぇ。戻って寝てな」
糸が切れる音がした。もう制御できない。
「ふざけるなああぁぁぁぁ!!!」
俺の手は強く握られ、親父の顔面にまよいなく突き刺さった。鈍い音と共に、親父が仰け反った。…あ。やってしまった、これはマズイ。いや、やってしまったことは最早仕方ないとしか言いようがない。ここはせめて、美王を連れて戻ろうとした。
「畜生が!なんてことしやがる!」
「こっちの台詞だ!か弱い女の子に手を出すんじゃねぇ!」
「カッコつけよって!そんなに嫌なら、ワシを殺して見ろ!」
いや、無理だ。あの人は強すぎる。というか俺が弱いのだ、さっきのは勢いでやっただけで、ひるませる自信もなかった奇跡の一発だ。全速力で逃げる。これが最善策。しかし、肝心の美王が既にいない。親父の後ろだ。あの子のために親を殴ったのだが、それはなんだったのか。必要以上に焦っていると、親父の鉄拳を食らった。後頭部を強打された。
「いっ…てぇよ…」
意識が遠のく。強すぎ。
「すまねぇな、こうするしかなかったんだ…」
山の妙に開けた場所に寝かされた。去っていく親父の姿を最後に、俺の視界は黒に染まった。
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