そのよんてんご.一男去って、また一男

「はあ……」

 切ない。私のあらゆる部分が切なくて愛おしい。

 能木さんの言うことももっともで、大人気なかったと反省しております。

 けれどせずにはいられなかった。私はどうしても由仁さんをオトしたいのです。

 同じ亜人間でありながら、普通の人間のように振舞える彼が、妬ましい。

 自分にできなかったことができる。これほど嫉妬をかきたてるモノはありません。

 男の方を全て手中に収めるのがリリスの生き方。いまさら、曲げられるものでしょうか。

 ああでも切ない、切ないのです。このままでは私、我慢できなくなります。

 飽くなき性欲は本能。抑えたところで、人は空気を吸わなければ死ぬ運命。

 それと何が違うというのでしょう。私にとって、交わることは呼吸。

「すいません。明日葉です」

「どうぞ、お入りください」

 彼はあくまで由仁さんを釣るためのエサ。でも、盗み食いをしてしまいそう。

 すっかり色香に惑わされて彼の瞳はまどろんでいる。他の方に比べればずいぶんと長持ちしたほうですけど。やはり普通の人間では、私を振り切れない。

 不満があるとすれば必ず求められてしまうこと。いささか、面白みにかけます。

 だからこそ、自分を維持できる由仁さんが、ああ、欲しいのです。

「あの、会長。俺」

「りりさと呼んでください、一途さん」

 あまねく女子生徒を“びっち”と呼んで拒絶してきた彼でも、この通り。

 ふらふらと危なげな足取りで私に近づいてくる。頭の中は私の裸身でいっぱい、でしょう?

「りりさ……」

 彼の指がシャツのボタンにかかる。どうしましょう、ここは我慢するべきか、どうか。

 由仁さんを楽しむまで快楽を残しておきたい気持ちがあります、でも、だめ。

 私は血に抗えない。堪えることはできない。もう貪ってしまいしょう。

 だって、欲しているのは彼ですもの。不可抗力、そう言い聞かせてきました。

「きてください、一途さん」

「あ、あぁ」

 切り札をオトしてしまえば由仁さんたちに勝ち目はありません。

 彼がいてこそ集客に期待できるのですから。負かしてしまえば、ふふ、簡単。

 脱がされるのと同時に、脱がしていく。シャツの前が開いて……あら、これは。

 ピンク色の髪をした可愛らしい女の子がプリントしたTシャツ。

 これは“あにめ”というもののキャラクターでしょうか。

 まさかこのようなものを着ている方だとは思いませんでした。戸惑って指先が止まる。

 たったそれだけのことで、彼は、正気に戻ってしまった。なぜ?

「なんだよ、由仁の言ってた亜人間ってのは……本当じゃねえか!」

「えっと、一途さん?」

「俺の名前を呼ぶんじゃねえ、このクソビッチが!」

 面と向かって男の方に罵られたのはいつぶりでしょうか。これはこれで、そそられます。

 手を払いのけられてしまいました。色香は効いているはずなのに、どうして。

 彼は確かに普通の人間。抗えるはずもないでしょう?

 まどろんでいた瞳に強い光が宿りました。はっきりとした意志を感じます。

「クソッ、頭がクラクラする。媚薬でも盛ったのか? ふざけんなよ。コレを見て引くようなやつはこっちから願い下げた。危く嫁を裏切るところだったぜ。二度と近づくな、いいな!」

 何が起きているのか理解する前に彼は出て行ってしまいました。

 でもこれだけは聞き逃せません。亜人間、と確かに言っていた。由仁さんは話したのですね。

 それを受け入れた。だから自我を保てたというのでしょうか。

「ふふ、ふふふ。ふふふふふふふふふ、あははははははっ」

 普通の人間でも私に惑わされないで済むのですね。これは面白い発見です。

 ますます昂ってきてしまいました。一途さんの心を立ち直らせたのは彼。

 ああ、なんて素晴らしいのでしょう。こうも心躍る相手ははじめてです。

 二人に拒まれたせいで私のココはもう限界。ああぁっ、ダメ、我慢しなくちゃ。

 そうだ。由仁さんをオトしたら、一途さんもこちら側に引き摺りこみましょう。

 三人でするのは経験がありませんがきっと楽しくなります。

 だから、ごめんなさい由仁さん。何をしてもあなたを頂きます。お待ちください。

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