そのさんてんご.淫らな横好き

 はあ、私ったらつい先走ってしまいました。

「んっ」

 由仁さんが走り去っていたドアを眺めながら、あてどもなく指が彷徨う。

 その気になれば誰だって男の方は私の前に跪く。

 何もひとりで解消することはないのです。けど、今は、ダメ。

「はぁっ」

 私の昂りを満足させられる普通の人間なんているわけがないもの。

 何人、何十人と試しても一瞬しか気持ちが続かない。

 だから亜人間である由仁さんを選んだのに、もう、恥ずかしがりやさん。

「あっ」

 でも私がいけないの。はじめて会ったときに色香が通じないのが分かった。

 普通の恋ってしたことがないから、どうやって惑わせばいいかわからなくて。

 結局いつも通り迫ってしまった。焦りすぎの女の子なんて嫌われて当然ね。

 おかげでこれまでにない興奮を感じさせてもらっちゃった。

 もしかしてこれが、恋かしら。

 楽しそうにしている由仁さんを知ると嫉妬してしまうのも、やっぱり?

 分からないけど私は諦めない。リリスの沽券にもかかわる。

 お母様に叱られてしまうわ。男をたぶらかせない女なんて、と。

 どんな手を使ってでも必ず跪かせてみせる。

 そうして明けることのない快楽へ一緒に飛び込むの。そう考えるだけで、私ッ。

「はぁあっ!」

「会長? どうかされましたか」

 想像に身を委ねるなんて子供の時以来かしら。つい声を出してしまったようです。

 いけない。普段は清楚に振舞うのも、所作のひとつ。襟元を正さなければ。

「いえ、なんでも。少し熱っぽいようです」

「お早めにお帰りになられては?」

「そうさせていただきますね。先ほどの件、準備のほうお願いします」

「了解しました。お大事に」

 ふふ、待っていてくださいね、由仁さん。

 今度は焦らず、じっくりと、攻め立ててみせます。お覚悟を。

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