14話 傀儡の絡繰り

Chapter14 "trick of Puppet"



「僕はそろそろ仕事に行くね。ごゆっくりどうぞ。」

 手際よく食器を片付けながら、アーサーは着替えも終わっていた。

「うきょっ! 一緒に見に行く~!」

「そうね、イネ、護衛が必要ね。姿を見られないようにね、頼んだわよ。」

 ガタッ

「メイは駄目。」

 灰兎ミコは椅子を引いて立ち上がろうとしたメイを制する。


「くっ、昨日、襲ってきたフランス兵以外にヘルフリートの兵がいた。今もそこで2人、見張っている。」

 窓から見える遠くのアパートの屋上。

 従魁ジュウカイの細長く美しい指が示す先に、黒服の近衛兵このえへいの姿がかすかに見えた。


「うふふっ、見られてるって素敵ね。ヘルフリートって?」

 太乙タイイツが嬉しそうに近衛兵の居るアパートに向かって手を振る。

「元教皇親衛隊師範きょうこうしんえいたいしはん、ってヤツだ。ゴロツキ連中だが、なかなかやりヤガる。まっ、俺様にはかなわねェがな。」

 守人もりとは着ている黒い近衛服を自慢気に指差す。どうやら奪い取った服のようだ。


「そうね、少し前まではヤゾメを利用して権力を握ろうとしていた小物だったけど、今はナムチの副官っていうの? ナムチの謀略ぼうりゃく華麗かれいに実行する点で、頭も切れるし、厄介やっかいな奴ね。」

「そうだモンな、ミコが尻尾をつかめないんだモンな。」

「あら、ヘルちゃんって凄いのね。うふふっ」


「くっ、彼は問題ではない。ヤゾメが持っている奈落ならくのかけらの方が問題だ。」

 従魁はけわしい表情を浮かべながら、上品に水のようなワインの残りを飲み干す。

「そうね、でも、傀儡くぐつを動かしている仕組みが分からないと…」


 従魁はテーブルに身を乗り出すと皆の顔を見ながら話し始めた。

「くっ、簡単な方法だった。奈落のかけらから八十神の呪念痕じゅねんこん、十二天将のかい遺伝いでん情報だな、それを女の体の中で細胞分裂中さいぼうぶんれつちゅう受精卵じゅせいらん注入ちゅうにゅうして情報を書きえる。すると、数日で傀のコアが育つ。コアは女の体を突き破って出てくるが、後は勝手に増殖する。

 くっ、当然、そのままじゃ、異形のかたまりにしかならない。だが、そのかたまりに、生きたままの人の臓器やけん、筋肉を貼り付けるとどうなる?

 くっ、たましいのかけらがそのままかたまりに張り付く。後は赤ん坊を服従させるのと同じだ…

 くっ、おぞましいが、奴らは既に数体の傀儡くぐつを創り出している。」



「そ、そんなことが… 小吉ぃ、可能なの?」

 さすがの灰兎ミコも眉をひそめて小吉に助けを求めるように問いかける。


 コクッとうなずく小吉。


「魂を貼り付ける…張り付いた魂…」

 メイが反応した。


「うふふっ、メイは体と魂が別物だって分かっている…のね?」

 太乙が少しさみしそうな顔を見せた。

「そうね、動物や他の生物は本能って呼ばれるプログラムで動いているだけで、魂は宿っていないの。ただ、魂のかけらが移ることは良くあるから、傀儡くぐつの仕組みも似たようなものってことね。」

(確かに、知っている)

 メイは多くの伝染病患者を看取みとってきた。その中で体感していた。


「くっ、アガルタで大吉を見ただろう。あれが本来の魂の姿だ。地上で存在するには傀が必要なんだ。」

 従魁が自分の体を指差す。


「不完全でも八十神は十二天将の傀だモン。」

「そうね、その遺伝情報を持つ絡繰りとなると、地上最強の存在ってことね。」

「うふふっ、大昔だけど、私たち、ボロ負けだったものね。」


『地上界で相手をするには厳しい相手、というだけのことだ。』

「あら、クサギちゃん! うふふっ、元気だった?」

 灰兎ミコの懐中時計から、|クサギのホログラムが現れた。

 大きく丸く目を見開いて驚くメイ。

 アーサーがその目を見たら、きっと驚いただろう。


 守人衆もりびとしゅうとの出会いで、メイに感情が戻りはじめているようだった。

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