第3節「隻眼ノ灰兎」 Episode3 "Sekigan gray hare"

13話 守人衆の仲間

Chapter13 "The Fellowship of Moribito"



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 口語伝承 "天地開闢カムイモシリ 叙事詩ユーカラ" 【三ノ記】

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 異形いぎょう傀儡くぐつを治めるため、八十神やそがみは平府《エデン》の原初ノ魂、月神つきがみの血を求めた。

 時空じくうの輪で赤く焦がされた素菟しろうさぎを救った末神すえがみが月神を得た。

 他の八十神はこれをみ嫌い、末神を冥府ネザーワールドに遠ざけると、月神を競って禍ノ神まがのかみと化した。


 浄土アモールはこれを哀れみ、末神に力を与えた。

 末神と月神は禍ノ神と百の異形の傀儡らと対峙たいじした。

 この戦いは天を揺るがし、カオスをもめっした。


 幾千年に渡る長い戦いの末、大地ガエアは禍ノ神らを永遠に奈落ならくに封じると、末神 "大国主尊おおくにぬしのみこと" と 月神 "神后シンコウ" に "地上界の国作り" を命じた。


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      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 朝陽に輝くセーヌ河。

 その土手にくつろいでいる人影があった。


「アーサー、彼らは何者?」

 「ん?知らないけど… 良い人達だよね。」

 逆光の中でも、引きつっているメイの顔がはっきり見えた。


 ぱんぱん

「じゃあね」

 メイがスカートのホコリを払いながら立ち上がろうとする。

 その前を、腕組みした妖精イネがすっと立ちふさがった。

「うきょっ、どこへ行くっていうのかな~?」

「うふふっ、あなたは何が起きているのか知りたくないの?」

「何でもいいが、腹が減ってヤガる…」

「そうね、まずは腹ごしらえね。」

 妖精、美蛇魔女、人狼、灰兎…明らかに人でない姿が並んでいた。


「昨日貰ったパンがあるんだ。会場に戻る前に僕のアパートで朝食でもどうです?」

 アーサーは、守人たちを作り物だと信じているようだった。


(パン…? あっ、放り出された時?)

 人ではない姿の者達より、メイは、パンの入手先の方が気がかりだった。






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 ガツガツ、パリパリ

 守人もりとはが、見るからに硬そうなパンのかたまりをナイフで切り取り、カフェボールの薄いワインに浸して喉の奥に流し込む。

「アンリの家を襲いヤガッた絡繰りの話、そこから説明すっか?」

 守人はアーサーに空のボールを突き出し、オカワリを要求する仕草しぐさを見せる。


 もう無いよ、というジェスチャーをしながらアーサーが答える。

「う~ん、あの時は暗くてね。あんまり良く見えていないんだ… 3人のペスト医師のような先生がアンリさんの家から出てきたんだ。異様な感じがして、大きかったし…凄く怖かった。

 でもね、その直後に出くわした守人の方がずっと怖かったかな。」

「うふふっ、守人のおかげで黒焦げにされずに助かって良かったわね。あら、焦げてるところも美味しい!」

 太乙タイイツは楽しそうにパンのかけらに手を伸ばす。


「その夜、誰も住んでいなかったのに全焼した。」

 メイが呟く。


「そうね、証拠を消すために燃やされたんだわ。メイ、よ~く聞いて。そのペスト医師は人ではなく、いにしえ傀儡くぐつ。どうして傀儡が動き出したのか、そこを突き止めたいの。モグモグ…」


 灰兎ミコが雑草のようなサラダを頬張ると、太乙が話を続ける。

「神の意志で魂が宿されて、はじめて傀儡は動き出すの。たましいがないとただのかたまり。でも、そのかたまりが動き出した、ってことなの。」

(人じゃない、ってどういうこと? 神の意思って?)

 いぶかしんでいるメイを横切り、空のジャム瓶をなめていたイネが泣きそうな顔で灰兎ミコを覗き込む。

「もしかして…また…私のせいなの?」


「モグモグ… だ、大丈夫… そうねぇ~、あっ、クサギは関係ないって言ってたから。うんうん、平気、平気。」

「うきょっ!クサギ様~」


「ちょ、ちょっと~怖がらせないでよ。あの時、偉い枢機卿すうききょう様もいらしてたからね、心配ないって。」

 アーサーが自分のサラダをミコに分け与えながら口を尖らる。

「僕らの修道院がね、枢機卿様を迎える準備で大変な騒ぎになっていたんだ。仕事帰りに手伝いに行って…遠くからだったけど、その偉い枢機卿様、ちゃんと見たんだよ。」

「統一ドイツ連邦のヤゾメ枢機卿。」

 メイが付け加える。

「そうそう、そんな名前だった…?」


「そうね、やはりヤゾメね。話が繋がったわ。」

 灰兎ミコが大きくうなずく。


「くっ、ヤゾメは人の臓器を集めて傀儡を動かす実験をしていた。くっ、クサギの読みどおりだっだ。」

 天井から早口でこもった声が聞こえる。

(いっ、いつの間に?)

 メイが身構えながら天井の隅に目を向けると、そこには、切れ長のツリ目、小さく尖ったような鼻、羽毛に覆われた透き通るような肌に銀色の髪、銀色に美しく輝く翼をまとって無垢な表情を浮かべる神々こうごうしい少女の姿があった。


 ただ、手足を踏ん張って天井に張り付いている子供のような小柄な姿に威厳は感じられなかった…


「うふふっ、メイ、従魁ジュウカイはさっきっからそこに居たわよ。あら、小吉ショウキチも間に合ったのね。」


「うん、久しぶりだモンな。アンリの設計図、大体わかったんだモン。」

窓から差し込むひだまり。

その中から、ふさふさの羊の姿が少しづつ浮かび上がってきた。


「うきょっ!みんな集まった~」

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