4話 尽期のはじまり

Chapter4 "the beginning of the God world"



「ひっ、ひぃぇえ? うさっ、うさぎぃぃ?  ほ、本物? な、なにこれ?…」


(子供? どういうこと? それより、ここは一体?)

 灰兎ミコは、怯えている克彦かつひこに向けた銃口を下ろした。

 ライフルが一瞬光ったかと思うと、ふっくら顔の着物姿の妖精イネに戻る。


「多分、ここは違う世界…」

 灰兎ミコの肩に腰掛けた妖精イネは、眉間みけんにしわを寄せて呟く。

 後ろにたばねた黒々くろぐろとしたストレートヘアー、朱色の張袴はりばかま、淡い色彩で重ねたあはせうちきの上に黄色の細長ほそなが、まるでドラマに出てくる平安時代の姫…

 胸元からり出た白い小袖こそでが、琴乃ことのに負けず劣らずのグラマラスなバストを想像させる。


 灰兎ミコは安堵したように優しい笑みを浮かべる。

「そうね。 まるでまがとりでみたいな景色だし。クサギんとこに戻って確認が必要ね。」

「うきょっ! クサギ様ぁ~」

 妖精イネ満面まんめんの笑みで小躍こおどりする。






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 パラパラ…

 残っている教室の天井からコンクリート片が崩れ落ちてくる。


「誰なんですか? 封人ふひとるんですか?」

 ガレキの上に闘将のごとく立つ 千翠つばさは、その小さな体から驚くほど大きな怒声どせいを発した。


 メイはそれには答えず、ナイフを腰のフォルダに収める。

 立ち上がりながら周囲を見渡すと、独り言のように問いかけた。

「ここは日ノ国?」


 「はぁ? 何言ってんのおばさん! 有り得なくない?」


(あはははっ… 千翠、マジ、戦闘モードだ。

 昔っから切れると止まんないからなぁ…

  えっ、千翠!

  まさかの赤パンティ?

 いやいや、でも、見えそうで見えないっつ~の?

 おばさんの方が色っぺぇぇ…つ~か…)


「封人! どこ見てんの! この人、知って・ん・の?」


(はいっ!? なっ、なんで、俺に?)

 全てを見透かされた封人はバツの悪そうな眼を泳がせる。


ウォン、ウォン、ウォン、ウォン!

 ピーポー、ピーポー、ピーポー


 けたたましいサイレンとともに無数のパトカー、救急車が向かってくる。

 キキーッ!

 その列を引きちぎるかのように飛び込んで割り入る自衛隊のジープ。


 危険を察したメイは、封人の胸ぐらをつかんで引き寄せると高圧的こうあつてきに言い放った。


「一緒に来て」






      △ ▼ ▽ ▲ △


「あのぉ~! しつも~ん! 質問があるんです、けどぉおお!」

 ブォン、ウォォ~ン

 封人の大声も、車の脇をすり抜けて疾走するバイクでは届かない。


「なんで俺だけ後ろ向きなんすか? っーか、怖いですぅう!

 しかもぉ、危ないですってぇえ!」


 封人は正座せいざ姿のまま、テールランプの上に後ろ向きで縛られていた。

「そうね、あんだけ触りまくりゃそうなるわよ。その辺はナムチっぽいかもね。」

 運転するメイの後ろでアンティーク調の懐中時計かいちゅうどけいをいじりながら灰兎ミコが楽しそうに応える。


「よしっと、繋がった。 このまま西に向かって。 まだ相当距離があるわね。イネ、今日中に着きたいの。もっと飛ばせる?」

「うきょっ!!」

 双眼そうがんのヘッドライトがハート型に変化すると、踊るように加速していく。

「ぐぎゃぁぁぁ~  怖いって~!!!!!」

 2人と1羽を載せたバイクは、猛スピードで車の脇をすり抜けると高速のはるか先に消えていった。






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      エピローグ

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 西日の差し始めたパーキングエリア。

 少女が目をまん丸にして、母親の手を懸命けんめいに引っ張る。

『ねぇ、ママ、ママ、あれ!あれ! 可愛いよ!』

 あれ、新しいご当地キャラ? リアル~

 すっげぇ、なんの番宣? 知ってる?

 外人のコスプレってやっぱイイよね、やべぇ、超カッコいいし…


 メイと灰兎ミコが向かう先に人集ひとだかりが待ち受ける。

 向けられる携帯カメラに警戒しながらメイがささやく。

「この人たち、みんな性別がおかしい。」

「そうね、確かに子供のうすいし、周りはまがの砦みたいな家ばかり続いてる… 一体、ここは…」

「ねぇねぇ、ミコりん、あれ! 美味しそう! 食べた~い!」


 おぉォォ、すげぇ!!!!

  カッワァウィイー! キャーこっちぃ! 来て来てぇ!!


 妖精イネがソフトクリームに吸い寄せられて飛んで行く先々で歓声かんせいが上がる。


 その頃、駐車場の脇では、白目をむいて口から泡を吹く廃人はいじん、封人少年が放置されていた。






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(次回)第壱章「いにしえ絡繰りからくり

    SeasonⅠ "An ancient Droids"

     第1節「起源はじまり記憶きおく」 

     Episode.1 "Memory of Origin"


 日本海に面した鳥取市 "白兎神社はくとじんじゃ" に向かう2人と1羽と1妖精。

 そこに待つ蒼白そうはくの美青年 "クサギ" と "月将げっしょう" と呼ばれる太古の神々。

 現代に現れた異形の兜、間近に迫った人類の終焉しゅうえん

 謎解きの物語が始まる。

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