3話 接触の感触

Chapter3 "feeling of the contact"



(ほんと、青く見える時ってヤバイ時が多いんだよね~

 正月、そこねたバスが事故った時もそうだし、春休みのあのコインロッカー爆発テロ、あれ、洒落しゃれんなんなかったしなぁ…

 赤だったらヤル気満々! ザ・本能!って感じで、ウェル、かっもーん…)


 ノートに書きかけの妙に巧い "下着姿の萌えない娘"。

 なまめかしいポーズのお尻にTバックの線を書き加えながら、ふと、封人ふひとは校庭の空に目を向ける。

 何やら騒がしく動いている白い影が見えてきた。


(ん? キラキラって??

 まさかのUFO? うっちゅうじ~ん♪

  プロペラかなぁ?

   じゃ、あり得ないか…

 あれっ? なんか飛びねてる?

  毛玉? げっ、なんか撃った?

   命中~! 吹っ飛んだ…

 すっげぇ… 映画みたいだな。

  おおおっ! 爆発だね。

   パチパチパチ…)



(ん? あれ?)



 一瞬、世界の全てが消えた…


空間には何もなく、光も温度も音も何も感じない。

人がいたところだけ、人魂のようなオレンジ色の火が漂い浮かんでいる感覚だけが感じられた。


(えっ?)


世界の全てが再び戻された。



空から半透明の球体が向かってくる。

(こっちにちてくる…っぽい?

  い、いつもの、幻…だよね?

  音も聞こえてきた?

 窓も、ビリビリ震えて・んじゃ・な・い・の?


 これ、マ ・ ジ ・ モ ・ ン !? )


 ガラ ガラ ガラ!

克彦かつひこ!逃げろ~! あれ落っこちてくんぞ!」

 封人は窓を全開にして身を乗り出して叫んだ。


白神しらがみくん!? どうしたの?  えっ、またテロ?」

 クラスメートの冷たい視線しせんが集まる。


(先生! アレ! ってか、みんな、見えてないの…?)



 ぶおぉぉぉぉぉぉん


 あらがう隙もなく衝撃波ショックウェーブが全身をすり抜けると体が宙に浮く。

 次の瞬間、凄まじい地響じひびきとともに校庭そのものがめくれ上がった。

 窓ガラスが砕け散り飛ぶ音、コンクリートの壁が裂ける音、金属のこすれ合う嫌な音…

 スローモーションの景色から遅れて頭の中に飛び込んでくる。

 立ち上る砂塵さじんが周りの景色から色をうばい去っていく。


 全てが灰色になった…






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ぐぐっ、  うあぁ~  グスン、グス

 エコーを最大にしたようなうめき声、泣き声のような音が聞こえる…

 耳が ぼわん ぼわん していてほとんど聞き取れない。

 目もシバシバして開けられない。

 体を動かそうとすると


(いっ、痛ってぇ…

 って? ん?

 あれっ? 痛くない…

 吹き飛ばされたんだよね?

 体中しびれてんのかなぁ、 感覚ないや…)


 ってことは…


 も、もしかして、 俺、終わったの?…






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 半球状はんきゅうじょうに大きくえぐられたサッカーグランド、ひしゃげて半壊した教室。

 吹き飛ばされた生徒達がほうけた顔で、一人また一人と立ち上がり始めた。

 土煙で真っ白な顔に、目だけがキョロキョロと動いている。



「メイ、無事?」

「ミコりん… どういうこと?」

(奴らは? 消えた? なぜ街に?)

 飛行船の破片らしきものも、傀儡くぐつの姿も一切見あたらない。

 上から眺めると、ただ竜巻が通り過ぎたあとのように見える。






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


封人!ふひと 封人! 大丈夫だよね? 生きてるよね! 封人ぉ!」

 階段を駆け上がってきた小柄な少女が、そこのあったはずの教室の前に立っていた。


 ミニスカートのすそを固く握りしめた手には、時を経たようなあおいミサンガがれている。

 器用に編みこんだセミロングの黒髪から汗が滴り、大きな目からこぼれ落ちそうな涙が紛れる。


(うう、、 ん? 千翠つばさの声?

 良かった… あいつ無事だったか…)


「ごほっ、 ごほ、 」

 「封人!?」


ホコリでむせた声に気付いたのか、上半身を起こすとガレキを慎重しんちょうに伝って降りてくる 千翠がかすかに見えた。

教室の後ろ半分が下のフロアまで抜け落ちていた。



(ん、ナムチの気?)

 メイが飛び起きる。

「あそこ!」

 「待って、 なんか違う…」

 灰兎ミコが言い終わる前に、メイはガレキの山をけ上がり、指差した三階の窓まで一気に進む。



 ふぅ~っ。

 千翠はガレキを乗り越え、封人の姿を確認するとホッとした表情を浮かべた。


 その時、どこからか声が響いてきた。


【増えすぎた人類、浄魂じょうこん輪廻りんね飽和ほうわした。気を付けて。魂の回収に、いにしえじゅかいが目を覚ますから。】


(えっ、誰? な、なに? )

 千翠が歩みをゆる めたその脇を黒い影が走り抜ける。


ザッ!


っ た !)

 メイは心の中でさけびながら、獲物えものの上にまたがり、首筋くびすじめがけてナイフを一直線に振り下ろす。


「きゃぁーあ!」

 全身真っ白でも、そのFカップで識別しきべつできる琴乃ことのちゃんが悲鳴ひめいを上げる。


 メイは動きを止めると、封人の顔をまじまじと見つめながらいかけた。


 「君は、 だ れ ? 」



(な、 なに、 この コスプレ おばさん…

   おっ、おっぱい見えそう… Σ【*゚д゚*】)

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