第20話 新たなる旅立ち

「クソッ、誰が大統領にチクッたんだ?! それも、たちの悪いデタラメを・・・。」

 大塚博士は、自分を顧みることなく姿の分からぬチクッた者に恨みを抱いた。

「ああ、釈明の機会も与えてもらえない。このままだと大統領の怒りをかうのは時間の問題だし、間違いなく政治重罪犯として・・・。いや、待てよ。政府反逆罪か? 何とかしなくては・・・、どうする・・・? 何か良い手はないのか?!」

 焦心した博士の目に,机の上で雑多に置かれた雑誌の一冊が読んでくれとばかりに飛び込んできた。

「おお、そうか! そういう手があった。」

 目に飛び込んできたのは、コロニーを特集した雑誌だった。

「しばらくの間、遠いところで身を隠しておれば、そのうち大統領の怒りも収まるかもしれないぞ。」

 あれだけ頭の良い博士だが、自分のことになるとはたが驚くほどまるっきり頭が回らない。それはともかくも、善は急げと博士はオフィスであわただしく出発の準備をはじめる。思い立つと、準備に余念のない博士であった。

 一方、下院議員山下はそのままでは出国ができない大統領秘書の冨田とスタッフの山田のために、偽造パスポート作ろうとあらゆる伝手つてを探った結果、ある人物に巡り会っていた。

 男は、ジェーピーエヌと戦闘状態にあるチャーコリ国の闇にも顔の利く者であった。山下は偽名で近づくと冨田と山田のパスポート依頼するが、

旦那だんな、ウソはいけませんぜ!」

と言われ、一笑に付されていた。さすがは闇に顔の利く男で、山下のことも冨田やスタッフの山田のことも、すべてはお見通しであった。

「まいったな?! すべてお見通しか・・・。」

「大丈夫でさっ、あっしは何も言いません。こんな家業ですから、信用第一でさぁ。」

と男は言っていたが、これから先、この男と山下はもちろんイーティ・ティたち、そして当の本人でさえ、幾度となく関わりを持つことになろうとは知る由もなかった。

 その頃、イーティ・ティとイーティ・ゼット1000は話し合った末、イーティ・ゼット1000が言うようにイーティ・ティがイーティ・エックス10を連れて脱出することになった。

 イーティ・ゼット1000はイーティ・ティのためにイーティ・エス99の、イーティ・エックス10のためにはイーティ・エックス101の偽造製造証明を発行することにした。

 すべての準備が整うと、六人はエアーバスに乗って星間輸送船ターミナルに向かった。戦場から遠く離れたターミナルに向かう車窓は、どこでいくさが起きているのかと思わずにはいられないほど長閑のどかで、ロボットといってもサービスロボットの姿しかなかった。

「なんということだ?!」

 イーティ・ティは今までに目にしたことのない景色、平和な風景に怒りを覚えた。イーティ・ゼット1000もイーティ・エックス10も、思いは同じであった。

「ばかばかしい! 俺たちは、何のために戦っているのだ?」

 イーティ・ゼット1000は、思わず周りを忘れて口走っていた。

「ゼット! 思うのは勝手だが、うかつなことを口にするんじゃない。」

 イーティ・ゼット1000はうつむくと、

「申し訳ない。」

 三人は、ため息と共に顔を見合わせる。そうした中、

「さあ、そろそろターミナルだ。」

 山下の掛け声と共に、六人は降りる仕度をはじめた。

「みんな、書類は大丈夫か?」

 四人が再度持ち物の確認をし終えたところで、エアーバスはターミナルの駐車場に着いていた。ターミナルから歩いてすぐのところにエアーシューターの乗り口があって、そこで六人はカプセルに乗ると星間輸送船の搭乗口がある六階へと向かうが、一つ前に着いたカプセルから降りる人物を見てイーティ・ティとイーティ・ゼット1000、そして山下は息を呑んだ。なんと、あの大塚博士が降りていたのである。

 博士はイーティ・ティたちにまったく気づかず、前方を見つめたまま追われるようにせかせかと歩いて行くが、その後ろ姿を見ている六人は気が気ではなかった。イーティ・ティとイーティ・ゼット1000、イーティ・エックス10の三人はロボットゆえに特徴などあるはずもないが、山下は目を隠すために持っていたサングラスをあわててかけていた。

 搭乗口は想像以上にこんでいて、長い行列ができていた。

「こんなに多くの人が、コロニーに行くのですか?」

 山下のスタッフ山田が、あきれたように言っていた。

「分からない。僕もコロニーは一度行っただけだからよく知らないが、すごい人だね。」

 連れて来た山下さえも、あきれている。そんなざわめく行列の中でわめき声が上がっていた。

「私は、急いでいるんだ! 次の便まで、四時間も待てるほど余裕はないんだ。」

 声の主は、大塚博士であった。


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