第18話 下院議員山下の策略

 監視ロボットから逃れ補給庫に舞い戻った山下は、イーティ・ティとイーティ・ゼット1000を目ざとく見つけて、

「あぶなかったよ! 危うく偵察ロボットにイーティ・エックス10が職務質問され連行されそうになったが、何とか連れ戻すことができた。」

と言っていた。

「偵察ロボット?!」

 イーティ・ティもイーティ・ゼット1000も、何のことか分からない。

「そうか、君たちは知らないのか?! じつは、あの地下道は君たち補給ロボットも戦闘ロボットも入ることが許されていないんだ。つまりそれは・・・、それこそ君たちも想像をたくましくして一度は考えたこともあるだろうが、人間がロボットの反乱を警戒してのことなんだ。」

「・・・。」

 イーティ・ティは何も言わなかったが、

「何と、姑息こそくなことを!」

と、イーティ・ゼット1000はうなった。山下はゼット1000の言葉を肯定するように首を縦に振って苦笑いをすると、

「そのために地下道は大統領直轄の偵察ロボットが定期巡回して、自分たち以外のロボットが侵入していないか常に調べている。」

「そこに、イーティ・エックス10が運悪く居合わせたわけですか?!」

「そういう事だ。」

 言いながら下院議員山下は、連れて来たイーティ・エックス10を二人に預けた。

 預けられたイーティ・エックス10は、以前の標的イーティ・ティを見ても何の反応も示さない。ましてや、自分を改造した当のイーティ・ゼット1000を見ても表情一つ変えなかった。それどころかターゲットとしてプログラムされた大塚博士はどこかと、キョトキョト辺りを見回しながら・・・、太古に勤め人という職業があってサラリーマンという種族の習性をうかがわせるかのように、自分の責務がまっとうできないことに落ち着きを失っていた。

 落ち着かないイーティ・エックス10を見ているイーティ・ゼット1000の手には、イーティ・エス99のものだった感情ユニットが握られていた。

 なぜ握られていたのか?! イーティ・ティもイーティ・ゼット1000も想像すらできないところで大塚博士の陰謀を阻止してくれた山下の働きのおかげ・・・、幸運にも暗殺は未遂に終わってイーティ・ティは難を逃れたが、悲しいことに影武者のイーティ・エス99は凶弾に倒れ亡くなった時、二人は次なる作戦を考えていたのである。

 それはイーティ・エックス10を元の状態に戻す・・・、しかし新たに感情ユニットを調達すれば大統領や博士にもくろみがバレるため、イーティ・エス99の感情ユニットを装着しようと話をしていたのである。

 イーティ・ゼット1000は落ち着きのないイーティ・エックス10の背中に手を当てると、まるで落ち着かせるようにして叩きながら表皮の一部分、動力回路のカバーを覆っている箇所をレーザーメスで切開していた。

 そして素早くカバーをはずすと、電流のバイパス装置をつないで判断回路を停止させ、今度は空いたままになっている感情ユニットのあるべき場所にイーティ・エス99のものだったユニットを装着していた。

たいしたものだ。どうして、こんなに手際いいんだ・・・?!」

 山下が驚いたような声を上げると、イーティ・ティももっともだというようにうなずいていた。

 後は、山下が持っているボックスを再度当ててホストコンピューターと接続しデーターを得れば、イーティ・エックス10は以前の状態、イーティ・ティを狙う前の状態に戻すことはできるのだが、なぜかイーティ・ゼット1000は手を止めていた。

「どうしたんだね?!」

 ボックスを手渡した山下が、何をためらっているのかと怪訝な顔をしてイーティ・ゼット1000に尋ねていた。

「ちょっと・・・、今後のことを考えていたものですから・・・。」

「今後の事というと?」

「ええ、大塚博士の確保もやはり必要ですが、影武者のエス99が亡くなった今、イーティ・ティを守るには私ひとりでは無理があります。そこで、エックス10にティのボディガードをしてもらったらとも考えているのですが・・・?」

 それを聞いたイーティ・ティは、

「いや、僕はもういいよ。」

と言うと、イーティ・ゼット1000はすかさず、

「そうはいかない。」

と強く言っていた。山下は二人の話を聞いていたが、

「なるほど。ゼット1000、それは名案だ。」

とは言ったものの続けて

「だが・・・、大塚博士をエックス10が追っている時に、ティが狙われたら守りようがない。二つのことを同時にエックス10に要求するのは、それこそできない相談だよ・・・。」

「確かに、そうですね。では、ティのガードを優先します。」

 イーティ・ゼット1000はイーティ・ティと山下の返事を待つことなくそう言うと、ホストコンピューターから通常の作動状態に加えて警護機能をイーティ・エックス10にダウンロードしていた。

 その様子をじっと見守っていた下院議員山下だが、彼もイーティ・ゼット1000同様、先々のことを考えていた。そしてイーティ・エックス10の記憶が入れ替わって通常の状態に戻ったのを確認すると、山下は二人に今後どうするか自分の考えを語り始めた。

「大塚博士はいいとしても・・・。」

 それを聞いた途端、イーティ・ティが納得いかない顔をすると、

「ハッハッハ。ティ、君の気持ちはよく分かるが大塚博士の件は大丈夫だよ。このような事態になって、私が大統領にイーティ・エックス10のその後の経緯、暗殺は成功したようだがプログラミングに不都合が生じたと話せば、大統領は私と大塚博士と、どちらを信じると思うかな? たぶん、私だ!」

 そこで一度言葉を切るが、

「そして君のことは・・・、イーティ・エス99が身代わりになっていたなどとは大塚博士から大統領は聞いていないと思う。大塚博士ものぞいていたが成功したのか失敗したのか、誰が撃たれたのか確信がないので報告していないはずだ。そんな状態で、大塚博士が大統領に言えば我が手で自分の首を絞めるようなものだよ。」

 山下は確信を持っていうと、さらに言葉を続けていた。


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