第17話 追跡

 地下道で博士を追っていたイーティ・エックス10だったが、地下道を知り尽くした博士には勝てず縦横無尽に入り組んだ通路の途中で博士の姿を見失っていた。

 イーティ・エックス10をいた大塚博士はあわてふためいて自分のオフィスに飛び込むと、噴き出る汗をぬぐおうともせずに肩で息をしながら机に置かれた大統領との直通電話をつかんでいた。そして、音声反応の受話器につなぐよう指示を出そうとしたが、

「・・・。」

 思うところがあるのか、ためらったように受話器を置いていた。

 「待てよ・・・。このまま大統領に連絡したら・・・、どうなる?! 大統領のことだから、なぜイーティ・エックス10がおかしくなったのか当然に調査するだろう。仮に原因がつかめたとして、それだけで済むかな?」

 高ぶった気持ちが収まったのか博士は腕組みをするとうなりながら、

「それが問題だ! 下手をすると、改造を進言しプログラミングをした私の責任が問われるかもしれないぞ・・・。いや、下手をするどころかあの性格だ、当然に私も攻められる、間違いない?!」と、心でたまらないように叫びながら「これは、可能性どころじゃないぞ。まずい、なまじ言って我が身を追い詰める・・・? ダメだ、ダメだ! では、どうすればいいのか?!」

 両手で頭をかきむしりながら、再び高ぶった神経を何とか落ち着かせようと部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。

 その頃、迷路で博士を見失ったイーティ・エックス10は、どうすればいいのか自分では判断できずに、行動を起こすこともままならない状態で立ち尽くしていた。そこに見たこともないロボットたちが通路の向こうからやって来ると、

「おい、お前。何をしている!」

と、イーティ・エックス10は声をかけていた。

 ちょうど、その時である。補給庫でイーティ・ティとイーティ・ゼット1000に別れを告げ地下通路を歩いていた下院議員山下は、定期巡回していた大統領直属の偵察ロボットが通路で立ち尽くしているイーティ・エックス10を詰め所に連行しようとしているのを目にしたのだ。山下は一目でイーティ・エックス10だと分ると、

「ちょっと待ってくれないか!」

と言っていた。

 山下の制止に分隊長の腕章をつけたロボットは、チップを埋め込んだ山下のバッチを目にすると

「議員、いかがされました?」

と、首をかしげるようにして問うていた。山下はとっさに、

「僕はそのロボットを知っているのだが、いったいぜんたいどうしたというのかな・・・?」

 分隊長の腕章をつけたロボットはイーティ・エックス10の腕をつかんだまま、

「議員。このものは補給ロボットなのですが、どういう訳かこの通路に侵入していたのです。ここは、人間と我々以外は立ち入り禁止地区です。」

と強く言っていた。山下はとぼけたように、

「そうか・・・。じつは僕も先ほどまで補給庫に用向きがあっていたんだが忘れ物があって、そのロボットにオフィスまで取りに行ってくれるようお願いしていたんだ。」

 それを聞いた分隊長のロボットは「う、うん?」という雰囲気をしたが、山下はかまわず、

「それが、いつまで経っても戻ってこないので、仕方ないから自分で取りに帰っていたんだ。そうか・・・、ここで迷っていたのか?!」

「そうですか・・・、議員の使いで・・・? だが、規則は規則で守ってもらわなくては困ります。このロボットは規則により連行います。」

と突き放すように言ったが、何を思ったのか、

「分かりました、今回だけは許しましょう。それでは、議員が責任を持って補給庫まで連れて帰ってください!」

と言っていた。

「ああ、僕の頼みでこんなことになったのだから、僕が責任を持って補給庫に送り届けるよ。」

 山下が分隊長にわびを入れると、偵察ロボットたちは足音高く去って行った。山下はイーティ・エックス10の腕を取ると、偵察ロボットたちの背中を見ながら逃げるように補給庫を目指していた。


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