第16話 矯正
下院議員山下の押し当てていた小さなボックスは、ジェーピーエヌのロボット工学研究所のホストコンピューターと暗号化された特殊な電波で結ばれていたのだ。そして、ボックスは山下のスタッフがホストコンピューターに入り込み作り直したデーターを、イーティ・エックス10に送信するためのものであった。
スタッフが改ざんしたデーターというのは、大塚博士がイーティ・エックス10に命令するために自ら作ったデーターを書き換えたもので、命令内容にあったターゲットのイーティ・ティを大塚博士に、そして抹殺指令を捕獲指令に書き換えていたのだ。
下院議員山下によってボックスを押し当てられ直立した姿勢になったイーティ・エックス10は、データを取り込んだのか山下がボックスを離した途端、辺りを鋭く見回して距離としてはかなりの距離だったが、遠くの物陰でこちらを窺っていた博士を目ざとく見つけると走り出していた。
それを見た大塚博士は怪訝な顔をするが、すぐに何かがおかしいと感じたのか、入ってきたドアとイーティ・エックス10をあわただしく見比べて、逃げるべきか留まるべきかと及び腰になっていた。しかし、時間は待ってはくれなかった。
迫り来るイーティ・エックス10を再度見ると、動揺をあらわにした博士は補給庫から地下道への脱出用の分厚い扉を開けっ放したまま、「ひー」という悲鳴と共に一目散に走り出していたのだ。
「なぜだ?! どうしたというのだ、エックス10?」逃げながらも、博士の頭はフル回転する。
「あいつは、誰だ?! くそぅ、背中しか見ることができなかったぞ・・・。覚えておれ、必ずや正体を暴いてやる! 暴いた暁には、しばいてやるぞ。いや、そんな生ぬるいことじゃダメだ。絶対に、殺す!」、様変わりしたイーティ・エックス10から逃れるために、必死で脚を動かし続けながらも博士の口は動き続けた。わめき散らす博士だが、イーティ・エックス10は着実に博士の背後に迫っていたのだ。
補給庫に響いた博士のわめき声に、何事かと口をつぐんだイーティ・ティとイーティ・ゼット1000だが、すぐさま見も知らぬ人間が立っているのに気づくと、改めて驚いていた。
「うん?! あなたは・・・。」
イーティ・ティは遠慮がちに声をかけるが、イーティ・ゼット1000は身構えた。問われた山下は、イーティ・ティとイーティ・ゼット1000を交互に見ていたが、
「私は、下院議員の山下だ。あなた方が戸惑うというか驚くのも無理はないかと思うが・・・。」
山下は二人に気づかいながら、
「今のを、見ていましたか?! まあ、見ての通りだが・・・。なにゆえ大塚博士が逃げ出したのか、イーティ・エックス10がどうして追ったのか・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
事情の分からないイーティ・ティとイーティ・ゼット1000は、答えようがなかった。山下は、そんな二人をあまり気にもせずに、
「お二人に説明する必要がありますが、すべての事情をお話しするためにも、申し訳ないが人目に付かず、また話がもれることのない場所に案内して欲しい。」
と、言葉を選ばず言っていた。
イーティ・ティとイーティ・ゼット1000は顔を見合わせると、「どうしたものか?」と目で話をしていたが、以前使った小部屋に山下を案内することにした。
司令室の巨大な窓が目に入った山下は、驚いたような顔をしていた。そして、窓から地を這う戦闘用ロボットたちを見たのか、目をふせていた。ふたりは小部屋に山下を案内すると、ドアを素早くイーティ・ティがロックする。山下はもの珍しそうに部屋の中を見ていたが、
「さて、どこから話そうか?!」
と、少し考え込んだ。
イーティ・ティとイーティ・ゼット1000は立ったままで、といってもロボットなので座る必要もなかったが・・・、この部屋には製造ラインを兼ねた補給庫ということで人間をまったく考えていないため、椅子などは置く必要がなかったのだ。
「山下議員、大変申し訳ないのですが、椅子は置いていないので立ったままでお話しをお聞かせください。」
別にいやな顔をするわけでもなく山下はイーティ・ティにうながされ、今までのことを一部始終こと細かく二人に説明していた。
「そうだったのですか?!」
イーティ・ティは言いながら、宙に目をさまよわせている。そんなイーティ・ティをよそに、イーティ・ゼット1000は山下の話に素直に喜んでいた。
「ティ、よかったじゃないか! 一人でも、君を理解してくれる人がいるなら。」
二人の様子を見ていた山下だが、
「じつは・・・。」
と言って、イーティ・ティにある提案をしたのである。
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