第15話 下院議員、山下

 イーティ・ティとイーティ・ゼット1000がいる物陰にイーティ・エックス10は近づくと、柱に身を寄せて隠し持っていたレーザー・ビームガンを取りだしていた。

 イーティ・エックス10が、拳銃で言えば引き金、レーザー・ビームガンのボタンに手をかけた時である。イーティ・エックス10の背後に、忍び足で近づく者がいた。

 近づいた者の名は、下院議員山下。山下は手のひらに収まるほどの小さなボックスを隠し持つと、機会をうかがっていたのだ。

 山下の政治理念は、和平であった。こんな小さな星で何を争うのか、という思いを強く抱いていたのである。その彼に、少し前の事だったが彼の理念に密かに賛同する大統領の秘書から重大な情報がもたらされていた。その情報を元に、彼のスタッフがジェーピーエヌ・ロボット工学研究所のホストコンピューターに侵入しデーターを解析した結果、驚くべき事実を山下は知ることになったのだ。

 その事実とは、戦闘維持のための補給ロボットの改造計画、その改造計画を推進し成果を上げながらも暗殺指令が出されたイーティ・ティの存在であった。

 山下は議会をまったく無視し独裁的な行いをする大統領と、その大統領に呼応するかのように、以前は議会の場や学舎の中でロボットは人間以上に信頼できる存在とあれだけ重要なパートナーとして取り扱っていた大塚博士があろうことかロボットの抹殺を指示したという、手のひらを返したとしか思えない言動に両名に対して深い疑いを抱かざるをえなかったのである。

 山下は味方の誰も傷つけたくないので、一人で大塚博士の行動を監視していたが、監視の中でデーターには出てこなかったイーティ・エックス10というロボットの存在をつかむ事になった。大統領と大塚博士、大塚博士とイーティ・ティ、大塚博士とイーティ・エックス10、イーティ・ティとイーティ・エックス10。さまざまな観点から点と線を解析していくうちに、山下はおぼろげながらもその全容を知ることとなったのである。

 下院議員の山下は、イーティ・ティが何を考え何をしようとしているのか知りようもなかったが、その身近に協力者の存在が見え隠れし、なおかつ補給ロボットたちの信頼も絶大と言うことは解析の中で読み取ることができていた。

 大統領の独裁という現状を考えると、どういう方法をとるかは別としてしいたげられたイーティ・ティを何としても守るべきなのか、それとも大統領からの弾圧にイーティ・ティが抹殺されるのを見て見ぬふりするのか?! 知ってからの山下は、悶々とした日々を過ごす事となった。

 苦悩の結果、山下が下した結論。それは、この国のためにどうしてもイーティ・ティを残すべきだというものであった。山下はドロドロとした利害や思惑とはほど遠い清廉潔白な政治家で理念はこの星の和平にあったし、解析で見えてきたイーティ・ティも山下と同じく世界の和平を考えていたからである。

 大統領や大塚博士に比べると、はるかに無力な存在の山下だったが自分の理念に従い、またこの星の平和のためになら、すべてを失っても悔いはないというところまで覚悟を決めていた。

 ただ、山下はイーティ・エックス10という命令されればロボットであろうが人間であろうが見境なく殺す、冷酷非情な殺人機械から情報をもたらした大統領の秘書やデーターを解析した自分のスタッフが標的になるのを非常に心配していた。そして、その心配があるからこそ、危険を承知でえて一人で大塚博士とイーティ・エックス10の尾行を続け、この場所にたどり着いていたのだ。

 柱に身を寄せたイーティ・エックス10だが、どうした訳かボタンに指をかけたまま押そうとしない。

 「どうしたんだ?!」、不審に思った山下がイーティ・エックス10の肩越しに前をのぞくと、偶然にもイーティ・ゼット1000がイーティ・ティを隠した格好になっていてイーティ・エックス10は撃てなかったのである。イーティ・ゼット1000が体を動かすのを待っているのだろうか、イーティ・エックス10はふたりに意識を向けたまま側まで来ていた山下にはまったく気がついていなかった。

 それを幸いと山下は手のひらに隠し持っていたボックスを、イーティ・エックス10の、人間でいえば頸椎けいつい辺りに押しつけた。イーティ・ティとイーティ・ゼット1000のみ意識が集中していたイーティ・エックス10は、ボックスが押し合ってられると、狙いを定めるために少し前屈みになっていた体を途端に直立した姿勢に変えて、山下を振り向いていた。

 その瞬間、思わず「やられる!」とたじろいだ下院議員の山下だが、振り向いたイーティ・エックス10にひるむことなくボックスを押し当て続けた。



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