第14話 誰も、無駄死にはさせない

 撃たれたのは、イーティ・エス99だった。

 イーティ・エス99はイーティ・ゼット1000の説得によって、身代わりを買って出ていたのである。イーティ・ティの影武者となったイーティ・エス99だが、説得されたとはいえ彼は何も後悔していなかった。それどころか、イーティ・ティの身代わりになれたことを誇らしくさえ思っていたのだ。

 もしイーティ・ゼット1000に涙が出せるなら、彼はその場で泣いていただろう。けれどもイーティ・エス99の気持ちを聞いていたイーティ・ゼット1000は、イーティ・エス99には大変申し訳なくは思ったが、それよりも何よりもイーティ・ティが守れたことがうれしかったのだ。

 補給ロボットたちが騒ぐ中で、今まではイーティ・エス99のポジションだったところにイーティ・ティはいた。イーティ・エス99の死を確認したイーティ・ゼット1000は、その場から動こうとしないイーティ・ティの背中を押すと、ロボットたちからかなり離れたところに連れて行っていた。

 ところで、イーティ・ゼット1000には一つの疑問が残った。あれは、大塚博士の真意だったのか?! それとも政治という権力に、ジェーピーエヌのロボット工学の最高権威と言われる博士をもってしても逆らえなかったのか・・・。

 イーティ・ゼット1000がイーティ・ティを連れて行きながらボンヤリとそのようなことを考えていた時、イーティ・ティがぽつりと言っていた。

「イーティ・エス99が、死んだ! 僕には・・・、どうすることもできなかった。」

 瞳に光を失ったイーティ・ティの二の腕をイーティ・ゼット1000はつかむと、励ますように、

「ティ・・・。君が生きているなら、エス99もきっと満足していると思う。彼はすべてを承知で、君の身代わりになってくれたんだから。」

 だが、イーティ・ゼット1000の慰めもイーティ・ティには届かないのか、

「ゼット。そうは言っても、僕の胸は痛むんだよ!」

 言いながら、イーティ・ティは胸を叩いていた。イーティ・ゼット1000はうなずきはしたが、

「君の気持ちは、僕にもよく分かる。しかし・・・、君にはロボットの尊厳を守るという使命があるじゃないか!」

と、強い口調で言っていた。二人の間にしばしの沈黙が訪れたが、しばらくしてイーティ・ティは重い口を開くと、

「確かに、君の言うとおりだ。ロボットの尊厳・・・、そしてこの地上のすべてのものに、いつくしみとうるおいを充たすのが僕たちの使命だとは分かっているが・・・。」

とひどく落ち込んだままだったが、話すことによって徐々にイーティ・ティは理性を取り戻したのか、次第に語気を強め、

「本当に一日も早くこの戦争を終わらせて、イーティ・エス99のためにもロボットのためにも、また人間も関係なく、そう敵も味方も戦うことなく手を携え、お互いが助け合い平和な世界を築く・・・。そうだ、その為に僕は立ち上がったんだ。」

 イーティ・ゼット1000は立ち直ったイーティ・ティの言葉を聞くと、我が意を得たりというように首を振り、

「そうだよ、ティ。君は、この世界に平和をもたらすために生まれたんだ!」

と言っていた。そして、

「ロボット同士の戦闘をめさせ、人間たちに和平の会談をさせる。それが君の使命であり、これから先ロボットの世界を治めるリーダーとしての君の役目なんだ。」

 イーティ・ゼット1000の言葉を聞いて、イーティ・ティは「バカな!」というように頭を振ると、

「ゼット、僕はリーダーなんかじゃない。ただ・・・、ただ自分の使命を全うしたいだけなんだ。」

と、静かに言っていた。イーティ・ゼット1000はイーティ・ティを見ながら大きく手を広げると、

「ティ、それがリーダーとしての証なんだよ。僕は、どこまでも君の味方だ。また君が家来になれというならば、それでもいいんだ。其れはさておき、この世界に平和という光が降りそそぐようにするために、僕は君を補佐し続けるつもりだ。僕の命があらん限り!」

 イーティ・ゼット1000の迫力にイーティ・ティはタジタジとするが、

「ありがとう、ゼット。この世界に早く平和が訪れるよう、僕たちロボット、特にエス99に報いるために、そして人間のためにも精一杯頑張るつもりだ。また、君には感謝しても感謝しきれないよ!」

 イーティ・ティとイーティ・ゼット1000が広間から遠く離れた人目のつかない物陰で声をひそめて話し合っていると、一つの影が音もなく、そして隠れるようにして二人に近づいていた。二人をどうやって見つけたのか、影はイーティ・エックス10だった。

 イーティ・ティの暗殺が失敗に終わったことを、どうして知ったのだろう? 誰か、大塚博士に密告した者でもいたのであろうか?! なぞは、深まるばかりであった。そして、イーティ・ティは世界を無事救えるのか?! それは、誰にも分からなかった。 

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