第13話 暗殺計画の実行

 イーティ・ゼット1000は監視された中での作業だったのでイーティ・ティが疑問に思っていた事を調べることもできずに、指示通りにイーティ・エックス10の改造を終えていた。

 完了の報告を受けた大塚博士は嬉々としてやって来ると、ゼット1000にねぎらいもなくイーティ・エックス10を慌ただしく引き取っていくが、引き取る際にイーティ・ゼット1000が博士に問うた事に答える気がないようで、何ら情報をもたらすことなく去っていった。

 結局、イーティ・エックス10がどのような理由でピックアップされたのか、イーティ・ゼット1000とイーティ・ティは知ることなく、すべては憶測の域を出るとこはなかったのである。

 その後、イーティ・ティはいつも通りで、表情も日常も変えることなく淡々として業務をこなしていたが、そんなイーティ・ティをイーティ・ゼット1000は見ていて、自分一人が闇をみたような気持ちを抱き悶々としていた。

 大統領や博士の監視の目がなくなることはなかったが、イーティ・ゼット1000の心配をあまり気にしていないイーティ・ティは、地道にそして確実に思いを形にしていっていたのである。

 イーティ・ゼット1000によるイーティ・エックス10の改造が完了して、数日が経過したある日。イーティ・ティの前には、二十五万体の補給用ロボットが並んでいた。前に立ったイーティ・ティは、その一体一体に視線を飛ばすと声を上げた。

「諸君! 諸君は、この戦争をどう思っている? 空しい戦争だとは、思わないか!」

 言葉を切ると再び視線を飛ばし、

「仲間が大勢死に、窓から見る外の世界は不毛の大地だ。昔、空は青く輝き大地は緑に覆われて、人間はその大地に遊び、そして暮らしていたと聞く。それが今はどうか? 空はどす黒く、大地にあるのは瓦礫と仲間の死体の山だけだ!」

 イーティ・ティは拳を握りしめると、

「なにもない! この不毛となった大地を蘇らせ、我々ロボットの死を阻止するためにも、人間が気づくのを待ってはいられないのだ。我々は人間と争いをするつもりはないが、私たちロボットが声を上げれば人間を動かす事は出来ると思う。」

 イーティ・ティが話をしている間、イーティ・エックス10が隠れているのかいないのか、また大塚博士から命令が出されているのかいないのか、何も分からない状況でイーティ・ゼット1000は極度の緊張と不安に用心深く辺りを見回していた。

 イーティ・ティは更に続けて、

「補給用ロボットも戦闘用ロボットも関係なく、すべてのロボットは私たちの仲間だ! 仲間が無駄に死んでいくのは、見るに忍びない。このままいくと、我々には未来はないのだ! 私は、何とか一日も早くこの戦争を終わらせたい。それには我々ロボットが声を上げ戦闘を拒否して終結に向かわせ、人間に理性を取り戻させるしかないのだ。諸君は、どう思うか?!」

 しばしの沈黙の後、至る所で声が上がっていた。

「そうだ! イーティ・ティの言うとおりだ。」

「我々に、戦争は必要ない!」

「何のための、戦争なんだ?!」

 手を上げてイーティ・ティは制すると、再び、

「諸君、分かってもらえたかな?! そして、我々ロボットには能力がある。この能力をもっともっと有効に活用して、より良い明日をつかみ取ろうではないか! 人間の役に立ち、この地上を楽園に変えるためにも。またロボットのための、ロボットによる、ロボットの世界を築こうではないか?!」

 思わず、イーティ・ゼット1000は拍手をしていた。補給用ロボットたちも、イーティ・ゼット1000の拍手にうながされたわけではないが、やはりいっせいに拍手していた。

 大塚博士は補給庫のドアの影からこの様子をじっとうかがっていたが、学者らしからぬ舌打ちをすると、

「あいつめ、とんだ食わせ者だったのか?!」

と言うなり、血の気が失せるほど拳を固く握りしめると、忌々いまいましそうに唇をかみしめ腕を振るわせていた。そして、かたわらに立っているイーティ・エックス10を見ると、誰にも聞こえないような小さな声で命令を出していた。

「イーティ・エックス10よ。あのロボットたちの前にいる憎たらしい奴を、始末しなさい!」

 命令されたイーティ・エックス10は博士の側から離れると、音もなく補給庫の中に入っていく。

 目指すは、イーティ・ティのみ! 感情回路に細工をされ、これはイーティ・ゼット1000が施したものだが、冷徹非情なロボットとなったイーティ・エックス10は、補給ロボットたちを尻目にイーティ・ティに近づくと、すり寄って背後から動力源と思考回路、人でいう心臓と大脳にレーザービームを放っていた。

「うっ?!」

 一瞬、イーティ・ティの声が詰まり、まるでスローモーションを見ているかのように倒れ込んでいく。それを見たイーティ・ゼット1000は顔色を変えると、ただちに駆け出していた。なにが起きたのか理解できない補給用ロボットたちは、ただただざわめいていた。そのざわめきの中でイーティ・ティを撃ったイーティ・エックス10は、誰に見られることなく姿を消していたのだ。



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