第12話 影武者

 大統領の腹の内が大塚博士を通じて見え、なおかつ博士から直接命令を下されたイーティ・ゼット1000は、ロボットらしからぬ疑いと嫌悪という感情を抱くが、それ以上にイーティ・ティから与えられたゆるぎない信念の中で、今までにないフットワークで動く決意をしていた。

 「周りからは悟られることなく、すぐにでもイーティ・ティと話をしなくては・・・」アンドロイドAの存在は当然だが、大統領の考えが分かった今、誰がどこで見張っているか分からない。

 気をもむイーティ・ゼット1000は、博士のもとを去ると一刻も早くイーティ・ティに会って状況を伝えるため補給庫内を足早に歩いていたが、人でいうところの思いは通じるというか、偶然にもイーティ・ティに出会うことができたのだ。

 イーティ・ティを見たイーティ・ゼット1000は、

「ティ!」

と言うなり、柱の陰に招く。そして人間でいうところの「気」、またテレパシーというか量子もつれ現象を発生させないよう会話を控えると、壁に掛けてあった小さなボードを手に取りメッセージを書いていた。

 「君は、狙われている!」、書かれたメッセージを見たイーティ・ティは怪訝な顔をすると、

「う、うん? ゼット、藪から棒に・・・。これはどういうことなんだ?!」

と、つぶやくように尋ねていた。イーティ・ティは、少しの間だが姿を消していたイーティ・ゼット1000に何があって何を言おうとしているのか、想像すらできない。

 イーティ・ゼット1000はイーティ・ティに、会話のための電流をだしてはダメだと分からせようとして人でいう目配せと口にあたる部分を手で押さえるマネをすると、あとは根気よく筆談で大塚博士から命令されたイーティ・エックス10の改造計画を伝えていた。そして、その改造は必ずやイーティ・ティにも影響を及ぼすはずだという自分の考えも忘れずに伝えたのである。

 イーティ・ゼット1000のただならぬ様子と、書かれたメッセージを見ながらも今ひとつ納得できないイーティ・ティであったが、何がどうなんだという思いは後回しにすると、外部に対して音も電波も遮断されている小部屋の電磁ロックを解除していた。

 イーティ・ティがドアを開けると、あわてたように、そして素早くイーティ・ゼット1000がドアを閉める。そうしてから、

「この部屋は?」

と尋ねていた。

 尋ねられたイーティ・ティは思わず腕組みをすると、

「君が何を言いたいのか、よく分からないが・・・。」

と言いながらイーティ・ゼット1000を見やり、

「この部屋なら、音も電波も決して外にもれないから大丈夫だよ。」

と言っていた。

 それを聞いたイーティ・ゼット1000は、溜まっていたものをすべてはき出すかのようにイーティ・ティに訴える。

「ティ、本当に君は狙われている!」

 ロボットであるイーティ・ティの顔に表情はないが小首をかしげると、

「ゼット、ちょっと待ってくれ。僕には何のことか、まったく分からない。君のメッセージは読んだが、何故に僕が狙われなくてはならないのだ?」

と、キツネにつままれたような顔をして言った。

 イーティ・ゼット1000はれたような顔をすると、

「ティ! 君も分かっている事だが、原因は感情ユニットをはずさなかったことに端を発しているんだ。アンドロイドAのモニターを確認した博士が、あろうことか大統領にその事実を報告した。」

「報告?! しかし、その件がそれほど問題になるとは、僕には考えられないのだが・・・。ユニットを外そうが遮断しようが、大した差ないからね。」

と言いながらも、しばらく小さな部屋を歩き回っていた。イーティ・ゼット1000はイーティ・ティに、

「これは僕の憶測だが、君の考えや行動が危険だと判断したときには君を閉じ込めるか、最悪の場合は抹殺するに違いないと考えているんだ。」

「なるほどね、えらく物騒な話しだ?! 当然、僕の耳には入らない話しだが・・・。それはそうとして、何故にエックス10なんだ?」

「それは、僕にも分からないよ。だが、モデルの完成度からいってエックス10も僕もあまり変わらないから、それで選ばれたとしか思えない。」

「そう言われれば、そうかもしれないが。今ひとつ、に落ちないんだ?」

「君が僕を選んだように、彼らには彼らの考えがあるのかも?」

「うん、確かにそうとも考えられるが・・・。ゼット、大塚博士にその辺りのことを確認できないかな?」

「ティ、それだけは許して欲しい。それに、改造していれば分かるかもしれないじゃないか。」

「そうか?! 君が改造するのだから、特に聞く必要もないか・・・。」

「ティ、彼らは権力を持っている。我々ロボットを生かすも殺すも、彼ら次第なんだ。すべては、闇から闇ということだ。」

 イーティ・ティは驚いたような顔をすると、イーティ・ゼット1000をまじまじと見ていた。

「君は、優秀だなっ!」

「ありがとう。でも、これは君のおかげだ。」

「そうかな?」

と言うと思案顔になり、

「ゼット。突然のことなので、もう少し考えたいが・・・。」

 その言葉にイーティ・ゼット1000は、れた顔をすると、

「ティ! 君が考えるのは自由だが、僕にはやることがあるんだ。博士から言われたエックス10の改造に早急に取りかからないといけないし、それに君のダミーを作らないといけないんだ!」

「僕の、ダミー?」

「そうだよ、君のダミーさ!」

「どうしてなんだ?」

「どうしてかって?! 決まってるじゃないか。いずれ、君は命を狙われる!」

「僕の命を? 大統領か、博士が?!」

「そういう事だ。」

「まあ、二人の真意を聞かなくても、あらましは理解できるが・・・。」

「それはそうとして、ティ・・・。いろいろなことがありすぎて僕には待てないんだが、君は以前あることを考えていると言ってたね。それを、今すぐ教えてくれないか。」

 イーティ・ゼット1000にせつかれたイーティ・ティは渋っていたが、仕方なく話しはじめた。

「尊厳のことは分かってもらえたと思うが、その上で・・・、その時は君には言えなかったのだが。僕は、この戦争に正直言って辟易へきえきしているんだ。そこで、戦争をめる手段として、反戦活動をしようと考えている。感情を抹殺された戦闘用ロボットは無理としても、自軍の補給ロボットや敵軍の補給用ロボットに説いて回ろうと考えているのだ。」

 聞いていたイーティ・ゼット1000は、途端に軽く手を広げると、

「それは、時間がかかるし、大変むつかしい問題だ・・・?」

と言うなり、黙り込んでしまった。しかし、しばらくして沈黙を破ると、

「だけど、やってみる価値はあるか・・・?」

と言いながら、イーティ・ティの手を握っていた。そして、

「ティ、僕は君の味方だ。力になれることは必ずなるが・・・、その前にリーダーとしての君を守らなくてはならない。君のダミーだ、ダミーを早く用意しなければ・・・!」

と、叫ぶように言っていた。





 

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