第11話 ゼット 裏切りのための裏切り

 もう、それは絶叫と言うほかなかった。その絶叫を繰り返したあげく、一度は腰を下ろした博士だったが、やにわに立ち上がり後ろ手に手を組むと再びたまらないように部屋中を歩き回る。

「そうか・・・、そういう事だったのか?! 確かに・・・、ユニットをとっても取らなくとも、回路を遮断すれば同じことか?! 結果から見れば大した違いはないというよりも・・・、はずすだけ手間がかかる。うむ、そういう事だったのか、ナンバーワンも考えたものだ。ただ残念なのは・・・、なぜ私に相談しなかった?」

 しかし、いくら博士が希望的に肯定しても、命令違反に違いはなかった。

「どうすれば・・・、いいのだ?」

 天井を見つめた大塚博士の脳裏に、科学者らしからぬ考えがわき上がっていた。博士は、その考えを否定することなく案として大統領に報告することにしたのだ。

 博士の報告を聞いた大統領は、

「それで君は、どうしようというのかな?」

「大統領の危惧が、すべて正しかったとは私には思えません。イーティ・ティにはイーティ・ティなりの考えがあってのことだと私は思っていますが、命令違反が事実であることに相違ありません。これは・・・、私なりの苦肉の策と思っていただきたいのですが・・・。」

 博士の提案と言い訳を聞きながら大統領は我が意を得たりという顔をすると、余計なことは一切言わずに博士のプランを承諾していた。

 さっそく博士はイーティ・ティに内密で、相棒であるイーティ・ゼット1000を呼ぶと、

「イーティ・ゼット1000、イーティ・ティとはうまくやっているかね?」

「はい、博士。その点は、ご心配には及びません。うまくやっています。」

「そうか、それは良かった・・・。本来はイーティ・ティに頼むというのが筋だと思うのだが、私が見ていても改造計画での君の活躍は本当に素晴らしかった。イーティ・ティに勝るとも劣らぬ君の能力を、ムダとは言わないがイーティ・ティの影で埋もれさすのはもったいないと思っている。そこでだ、君の能力を最大限活かすためにも・・・。」

 イーティ・ゼット1000に、博士が下した命令。それは、イーティ・ティやイーティ・ゼット1000の仲間であるイーティ・エックス10の改造のことだった。

 改造の概要は、感情ユニットを摘出するでもなく切断するでもなくユニットの一部の回路は残すが、それはあくまでも判断力をサポートするためのものであって、要らぬ感情、悲しみとか親しみは意識できないように遮断し、その上で命令には絶対服従の状態にした戦闘用ロボットに改造するという事であった。

 それが何を意味するのか、イーティ・ゼット1000に分からぬはずはなかった。勇猛果敢で、なおかつ人間の命令には絶対服従の戦士を作れと言うのである。

 人間の意のままになるロボット、そしてロボットにとっては冷徹冷酷な殺人マシン。

 たぶん、改造されたイーティ・エックス10は命令に背くロボットは容赦なく抹殺するだろうと、イーティ・ゼット1000は論理的に結論を下していた。ロボットにとって無理難題とも言える博士の命令に、

「分かりましたが。」

と機械的に返事をしたイーティ・ゼット1000だったが、返事をした時点ですでにある考えが頭に浮かんでいたのだ。


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