第10話 裏切り
大塚博士はイーティ・ティと面談して、ほどなくそのイーティ・ティから作業完了の報告を受けていた。
「さすがは、イーティ・ティだ!」報告にたいそう喜んだ博士だったが、大統領に正式に報告するには、もう一つの作業が残っていた。それは、アンドロイドAのモニターを確認することであった。
完了を聞いた博士にとってモニターの確認など、もうどうでもよいことで気乗りのしないことだったが、それでも万が一というか、有りえないことだが何か問題が発生したときは自分の立場を失うことになる。ここはいやが上でも石橋を叩いて渡らなければ、大統領の性格からして大丈夫ということは決してなく、非常に危険なことであった。
気が乗らないままモニターを眺めていた博士だったが、「う、うん?!」と声にならない声を上げると、視線がモニターに吸い込まれて思わず体を乗り出していた。吸い込まれたまま目は点となり顔面は硬直して、それはまるで昔あった信号機のように青ざめたり赤くなったりを繰り返すと、唐突に悪寒が襲ってきた時のように全身を震わせていた。
「なっ、なんということだ?!」
モニターに映ったイーティ・ティたちは忙しく立ち働いていたが、どういう事か感情ユニットを外さず、ユニット同士をつないでいる部分に手を加えただけの、改造をしていたのである。
これは重大な約束違反、裏切り行為であった。やはり、大統領の危惧は当たっていたのか?! 疑心暗鬼と怒りが心を駆けめぐり、博士の胸の内を焼き焦がした。しばらくの間は、声を出すこともできない。たがが外れたまま、どうにもできなくなった博士は叫んでいた。
「なんということだ?!」
博士は落ち着きをどこかに忘れたように、そして大昔に地上にいたとされるクマのように、当てもなく部屋の中を歩き回る。
「これは夢だ、それも悪夢だ?! 絶対に、何かの間違いだ・・・?」
しかし、いくらお経のごとく繰り返し唱えたとしても博士の願いを聞き届ける者などいるはずもなく、無情にもモニターに映っていることのみが真実であった。
「落ちつけ・・・、落ちつけ! イーティ・ティに限って、このような間違いを犯すことはないはず・・・? すると、イーティ・ゼット1000か?! いやいや、それだとやはりイーティ・ティの人選ミスになる。ああ、やはり悪夢だ・・・、そうだ! 幻なのだ・・・、すべてが幻なんだ。しかし、しかし・・・? これでは、理由にならん。たぶん彼には・・・、彼には何らかの考えがあってしたことだろう・・・。そう、そうに違いない。彼は・・・。」
大塚博士の独り言が、モニター室に響き渡っていた。
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