第8話 大統領の危惧
イーティ・ティの指導の下、補給ロボットたちが懸命に作業をしていたとき、大塚博士は大統領から官邸に来るように呼び出しを受けていた。
部屋に入った大塚博士がまず目にしたのは、豪華な椅子にゆったりと腰を掛けたジェーピーエヌの大統領の姿であった。白髪の髪をきれいになでつけ、襟の高いシャツがいやが上にもオシャレ感を漂わせていて、戦争とはまったく無縁の姿だ。
「これは、これは、博士。いそがしいところを、無理を言って申し訳ないが・・・。しかし、これは時間の無駄だな・・・。前置きはさておき、本題に入ろう。博士、改造計画はどうなっているのだ?」
博士は大統領に椅子を勧められると、腰を下ろしながらも大統領に抱いている卑屈さと反発心を隠すかのように背筋を凜と伸ばした。
「はい、大統領。補給用ロボットのイーティ・ティをリーダーに、現在着々と進めているところです。今はまだ進捗率としては二十パーセントほどですが、今後イーティ・ティ以外のロボットたちも作業に慣れてくれば、かなりの作業スピードアップが期待できるものと思われます。」
と力強く、また自信のほどを見せていたが、
「閣下、ご心配には及びません。」
と、卑屈さもにじませていた。胸を張る大塚博士の報告を黙って聞いていた大統領だったが、オシャレ感とは似合わない、どこか憂鬱そうな表情を浮かべると、
「そうか、まだ二十パーセントか?! 君が上手くいっていると言うのであれば問題はないと思うが、少し遅くはないか?」
と、頰ずえを付いたままでほほえみの中に冷たさを秘めた目で博士を見つめた。大統領の言葉に大塚博士は思わず椅子から立ち上がると、語気を強めてさらに言葉を続ける。
「いえ大統領、その考えはあらためてください、改造そのものが大変な作業工程を伴うものですので、イーティ・ティをはじめとして補給ロボットはよくやってくれていると私は思っています。」
大統領は頰ずえをはずすと、かすかだが意味不明の笑みを浮かべ、
「そうか・・・。君がそこまで言うのなら、君を信じよう。ところで・・・、イーティ・ティというロボットは大丈夫なのかね?」
博士は、大統領の言っていることが理解できない。
「大丈夫と、言いますと・・・。」
「特に何かあったというわけではないのだが、私のまわりの者がイーティ・ティというロボットは計り知れないほど優秀だと騒いでいる。そこでだ、これは単なる私の危惧だが、経験上優秀なものほど何をするか分からないと思った訳なのだよ。」
「はっはっ、大統領。それは、いらぬ心配というものです。イーティ・ティはロボットの中のロボット! ロボットの天才なのです。だからこそ、私が指名したのです。また彼は自分がロボットである事を自覚している数少ないロボットなのですよ、それほどのロボットが何をするというのでしょうか?」
大統領は聞きながら袖に手をやるとカフスボタンをもてあそぶとともに大塚博士を見ていたが、感情を隠したその目の奥には何かがあった。そして、
「博士! 天才だからこそ、私は心配なのだよ。私の気持ちも、分かってもらえるかね?」
と有無を言わせぬ迫力を垣間見せた。迫力に
「大統領!? 大統領の危惧はよく分かりましたが、大統領もご存じのようにロボットは人間の、つまり私たちの命令には絶対服従、命令に忠実な機械なのです。」
大塚博士の言葉が終わらないうちに大統領は座っていた椅子をけっるように立ちあがると、
「そこだよ、博士?! 君と私の考えの相違は、そこなんだよ。並みのロボットならいざ知らずイーティ・ティは賢すぎる、賢すぎるんだよ!」
大統領の言葉に、大塚博士は困惑していた。「大統領は、どうしたというのだろう? この危機的状況を打開できるのはイーティ・ティしかいないというのに。それにロボットである事を自覚しているイーティ・ティは、絶対に反逆しない」、そうは思いながらもすぐには口を開かずしばらく考え込んでいたが、
「それでは、大統領。こうしては・・・、いかがでしょうか?!」
と言いながらも、不本意な考えに言葉を濁した。
「と、言うと?!」
先をうながす大統領に、大塚博士は眉間にしわを寄せて服従するように両手を体の下で合わせると、
「イーティ・ティに、監視ロボットをつけるのです。私としては要らぬ心配、危惧で気が進まないのですが、大統領がそこまで心配なされるのでしたら、私としてはかまいませんが・・・。」
大統領は大塚博士の決断に安堵したのか、
「おお、博士! そうしてくれるか、頼んだぞ。」
と言うと、こわばっていた顔をやっと緩めていた。
「やはりロボットは、人間には信頼されていなかったのだ。所詮、彼らは使い捨ての消耗品か!」、博士は大統領を見ながら思っていた。
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