第7話 時間との闘い

 時が経ち外の世界が闇に覆われようとする頃、イーティ・ゼット1000は小部屋から出てきていた。

 一人で忙しく改造計画の工程表を作成していたイーティ・ティだが、出てきたイーティ・ゼット1000の顔を見ると、

「どうだった?!」

と、問いかける。問われたイーティ・ゼット1000は、先ほどまでの態度とは微妙に変わり小さくうなずくと、

「人間の愚かさ! 人間の愚かさと、崇高さを存分に垣間見ることが出来ました。ロボットも人間と同じであるなら、あなたの言わんとすることは十分に理解できます。私は理解した以上、あなたに疑義をはさむことはありませんから、我々ロボットの尊厳を守るためならユニットの件は誰であろうと伏せておきます。そして、何があろうとあなたに付いていこうと決断しましたので、秘密は絶対に守り抜きますから安心していてください。」

 イーティ・ゼット1000の言葉を聞き、イーティ・ティは大きくうなずくと、

「ありがとう。理解の早い君なら、きっとそう言ってくれると思っていた。ユニットの件は、私たち、そう二人の秘密にしておこう。我々ロボットの尊厳を守るためにも、そうしてもらえるとうれしい。そして、私にはもう一つ考えがあるのだが、それは改造計画がある程度進んでからあらためて君に伝えるつもりだ。」

 イーティ・ティとイーティ・ゼット1000、互いが分かり合えて数日後には改造計画が実施されていた。

 しかし、改造計画は想像していた以上に困難を極めた。もともと戦闘用ロボットと補給ロボットは製造ラインが別物で、ラインごとに自動でユニット装着を処理していたのだ。更に、いったん完成したものを他の用途に変更するなどという想定は当初からなかったのでライン自体が対応出来ずに、すべてをハンドメイドで処理しなくてはならなかった。

 ラインは止められ、止められたとはいうもののメンテナンスのためのロボットはどうしても必要だったため、残りの補給ロボットがアリのごとく群がって改造作業に従事したが、それでも改造三体に補給ロボット二体が手を取られていた。

「ティ、これでは時間ばかりかかって能率が上がらない。そしてこれは、みんなも私と同意見なのですが、大塚博士が言っていたようにやはり感情ユニットをそっくり摘出した方がよいのではないでしょうか?!」

 言いながらも、イーティ・ゼット1000は顔をうつむけたまま手は休めることなくイーティ・ティに不満をぶちまけていた。

「それはダメだ! ゼット、私たちはロボットの尊厳を、どこまでも守る約束をしたじゃないか。忘れてはいないだろう?」

 イーティ・ティに言われると、イーティ・ゼット1000には返す言葉がなかった。

「忘れてはいません。しかし、このままでは時間ばかりがかかって、先が見えないのです。ティ、どうすればいいのですか?」

「地道にやるだけだ。戦っている戦闘用ロボットには申し訳ないが、私たちの仲間が死なないよう戦場に行くのを少しでも遅らせるのだ。」

「エッ?!」

 イーティ・ゼット1000は自分の耳を疑うと、うつむいていた顔を上げていた。イーティ・ティは、言葉を続けた。

「そうだ・・・、少しでも遅らせる。それが、仲間の死を遅らせることになるのだ・・・。」

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