第4話 大塚博士の依頼

 博士はASIMOに似たイーティ・ティをいとおしく見つめると、膝をさらに寄せて顔がくっつきそうな距離で話を続ける。

「このようなお願いを君にするのは・・・、無理難題を言っているようなもので、大変申し訳ないと思っている。」

 そこで言葉を切ると、グラスに注いだ水を再び口に含んでいた。「なにゆえに、あの液体を口にするのか?」、見ているイーティ・ティには理解出来ないが、博士にとっては当たり前の事なのだろう気にもせず言葉を続けた。

「まず最初に言っておきたいのは、君には理解も判断も出来ないと思うが、ナンバーワン、仮に君を人間に例えれば生理学上突然変異と呼ばれるものに該当するのだよ。」

 「突然変異?」、イーティ・ティは聞いたことのない言葉に戸惑う。だが博士はお構いなしで、

「突然変異という概念は後でちゃんと説明するが、ただし君はロボットだ。生理学上ではなく、生産ラインで物理的に何かがあったとしか思えないのだよ。」

 頼もしそうにイーティ・ティを見つめていた博士は言葉を切ると、どの程度まで理解できているのか確かめるように鼻の上の板越しにイーティ・ティの瞳をのぞき込んでいた。

 しかし、イーティ・ティがなにも答えないので不満そうな顔になったが、すぐに気持ちを切り替えたのか続けていた。

「製造された何十万、何百万の中の一体であることは君も分かっていると思うが、何百万のロボットすべてを調べたとしても、君と同等のロボットを見つけることは出来ないし、たとえ君を分解したとしても、どうして君のようなロボットが出来たのか原因がつかめるとは私は考えていないのだ。君は、製造ラインが生んだ一つの奇跡、天才ロボットなのだ。」

 「天才?」、何と訳の分からないことを滔滔とうとうとしゃべる「人間」だろうと、イーティ・ティの回路は結論づけていた。そんなことは一切いっさい判断しようとしないのか博士は、

「そこでロボットの中のロボット、天才に私はお願いがあるのだ。一部のくだらぬ指導者がまいた種とは言え君も知っての通り、我が国はひどい苦戦を強いられている。」

 話しが核心に近づいてきたのか博士は妙に力みだすと、

「そこでだ、後方支援部隊五十万体のうちの半分、二十五万体を君に改造してもらいたいのだ。」

 グラスに残っていた液体を博士は喉を鳴らして一気に飲み干すと、

「君には、君たち後方支援部隊の隊員すべてに備わっている感情回路・・・。改造予定の戦闘用二十五万体の隊員について、すべて遮断、すなわち撤去すると共に判断回路の一部も遮断して欲しいのだ。どうだろうか?」

 イーティ・ティの瞳が、瞬間的に光っていた。「人間とは、なんて不条理な生き物なのだろうか?!」と、瞳の光は物語っていた。

「君には仲間の一部を指導・育成して、迅速に改造計画を推進してもらいたいのだ。時間がない、戦闘部隊二十五万体が増強されなければ我が国は危機に瀕する事は目に見ている!」

 「感情回路の撤去?! 判断回路まで・・・」、感情を持ち判断できるイーティ・ティではあったが、ロボットゆえに人間の命令には逆らえなかった。逆らえない事を最初から知っていた博士は、イーティ・ティを無視したように続ける。

「君が分かっているかどうかは分からないが、戦闘用ロボットに感情など必要ない。その上、必要のない判断力は戦闘上、ロボットとして性能発揮に支障を来すことになる。どうかな、ナンバーワン。理解できていると思うが・・・。」

 これは命令だと言わんばかりの、有無を言わせない博士の言葉であった。


 

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