第3話 大塚博士との対面

 イーティ・ティは、人間と会った記憶がない。生産ラインで機械的に生まれてきたのだから、当然と言えば当然のことだったが・・・。

 見た事のない物体があらわれると、自分は君たちを開発した「人間」で「博士」だと言っていた。「聞いた事はあるが、人間とはこんな物か?」とイーティ・ティが考えていると、「博士」と自分で言っている物体は椅子に腰掛けていた。

 立ったままイーティ・ティは目の前に座っている博士を見ていると、不思議な気持ちが湧いてくるのだ。「どうして? どこかで会ったような気が、どこで・・・。バカな、そんなことは有りえないし、考えること自体が合理性を欠いている」、すべての気持ちを振りはらうようにイーティ・ティは制御回路にフルに電流を流すと、博士を見つめ直した。

 目の前に座った人間、博士の鼻腔の上の表皮には、あて板のような小さなセルロイドかプラスチックが乗せられていて、それが左右の輪っかとつながれていた。輪っか、その黒い輪っかには分厚い、たぶんプラスチックか石英だろうと思われる板がはめられていたのだ。

 「あれは、何だろうか? もしかして、レンズの上に板?! 板の用途は何だ、自分たちの目とはずいぶん違うな」と、博士を眺めながらあらためてイーティ・ティは思っていた。また、板の下の方に灰色というか白くて細い繊維状のものが密集しているが「あれは、いったい何だろう?」と観察していると、その繊維状のものをかき分けるように空気が振動して音が出ていた。

「イーティ・ティ君・・・、いやイーダブルティ、これも言いにくいな?! おお、そうだ。ナンバーワン、これがいい。君は、どう思うかね?」

 尋ねられたイーティ・ティは、「博士」が何を言おうとしているのか理解出来ない。再び「博士」は首をひねると、

「う~ん、どう言えば伝えることが出来るか・・・。初めて人間と会って、君が戸惑うのはよく分かる。しかし、君たちがアルファベットや数字で呼び合うように、人間は名前で呼び合うのだ。これは、分かってもらえるかな?」

 イーティ・ティは博士の尋ねに、その件については理解できたと微かにうなずいてみせた。それを見た博士は、意思の疎通が問題なく出来たと思うとせきを切ったように空気を振動させていた。

「君に対して、私は何ら情報を、つまり予備知識を与えていなかったのは私の手落ちと言えばそれまでなのだが・・・。まあ、それは追い追い学習してもらうとして、私が君たちをつくったのは断じて戦争をさせるためではないと言うことを、私の良心に誓って伝えておきたい。」

 「予備知識? 手落ち? 追い追い学習?」、いったい何だとイーティ・ティが思っていると、一息ついた博士がグラスに注いである水を口に含んだ。「良心? それにあの液体は何だ?」、予備知識のないイーティ・ティにとって、ほとんどが初めてであって疑問符だらけであった。

 博士はそんな事お構いなしで、自分の気持ちを奮い立たせるようにして続ける。

「人類に貢献するために、私は君たちをつくったのだ。ところが、期待に反し国民が選んだ一部の指導者たちは、本当に悲しいことだが大多数の人びとの意思とは関係なく戦争を始めたのだよ。そのために戦わされている君たちには大変申し訳なく・・・、こんな頭ならいくら下げてもいいのだが・・・、これが真実なのだ。」

 そう言って博士は、イーティ・ティの前で深く頭を垂れた。

「ナンバーワン、君なら分かってもらえると思う・・・。」

 イーティ・ティは博士の言わんとすることだけは分かったのだが、何をどう考え、どうすればいいのかは分からなかった。

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