計略事を練る者たち
時は数刻前へと遡る───
「シナリオの変更が発生したようだ」
月明りしか照らしていない人という存在が自然と生息しているとは思えない深い木々に覆われた場所の中、小さな蝋燭の光に照らし出されている人物達がいた。
両者ともに深く外套と羽織り、なおかつ顔には覆面姿がいたりする。
それらは、お互いの顔がはっきりわからない形とし、それぞれの立場や身分を明らかにしないという表れでもあった。
「して、どの様な内容に?」
「西軍の大将を生け捕った東軍の勝利という形に落ち着く方向でだ」
「ふむ・・・」
「それは、我々(西軍)としては受け入れがたい状況であるのだが?」
「しかしだ、それは我々(東軍)としても同様ではあるがな」
「そうそう、東軍・・・ライン侯が連れてきた傭兵団が勝手に行動した結果だというが?」
「なに?あのライン候が?」
「それは何とも……老いて耄碌でもしたか」
「やはり傭兵団、教養も知性も持ち得ていない"ならず者"でしかないという訳だ」
「雷候ライン侯をもってしても、御する事かなわずというのも、面白い話だがの」
「しかり、しかり」
周囲からは笑いともとれる声が聞こえてくる。
雷侯ラインとは、ライン侯爵の異名であり、戦陣に立てばその機動力をもってしての遊撃指揮に絶大な能力を持っていた。
しかも、相手にとっての「脆弱」となる部分と時期がわかるのか、まるでそこに道筋があったかの様な場所を縦横無尽に通過し、攪乱、挟撃などの卓越した戦術指揮能力を大陸に名を馳せるくらいであった。
その機動力、まさに雷のごとくと、いつしか彼の侯爵を雷侯と呼ばれるまでになったのだが・・・
その雷侯ですら御せる物でもなかった、といわれる"ならず者"たちに手を焼いたという話は、彼らにとっては可笑しく面白い内容でもあった。
だが、そんな可笑しく面白い話の記憶はすぐに消え去ってしまう。
「だが、今はその様な事を言っている場合ではなかろう」
「ですな」
「このままでは、東軍の
「そう、そこだ。」
「あの
「だが、
「当初の痛み分けという線引きへの修正はどうなんだ」
「それも、今となっては不可能だろう?」
そう、当初では痛み分けでお互いが引き分けという状況にするのが目的であった。
そうする事で、お互いの大将が増長する種を増やさないという事で意見が一致していたからであった。
しかし、事ここにいたっては、そういう状況になりえない恰好へと変貌していた。
何しろ、彼らの思惑とは違う方向へと台本が進んでしまっていたからだ。
「例の計画を実行する、しかないか・・・」
「アレか・・・」
「アレは最終手段だろう?」
「だが、この状況を少しでも改善させる為には、強硬な手段をとらざる得ないだろう」
「私はアレには賛成はしていないはずだが?」
「何も貴公に手助けしてほしいとは言っておらんだろう」
「だが、反対もしておらんかったな?」
「しかり、しかり」
夜の虫の音が鳴り響く中、まるでそこだけが異様な空気を作り上げ、それは、お互いがお互い、傷をつかない程度に探り合っているという状況ともいえた。
だが、その静かなる喧嘩を破る一言が発せられた。
その一言は、まるでダムが決壊するかの如く、次々とつづく者があらわれる
「して、どの様な方向に変更だ?」
「我々としても、こんな戦争ゴッコを長く付き合えるほどの余裕はないぞ?」
「ゴッコ遊びはお家でやってほしいものだ。」
「しかり、しかり」
「それは同意だな。これ以上の消費は付き合い以上の対価が無ければ割に合わんからな」
「なれば、元凶には早々に退いてもらうべきだろう」
「実際には両者がいる時が望ましいだろう」
「それならば、
「ふむ・・・起爆符なぞどうだ?」
起爆符
それは呪詛により魔力を特殊な符へと封印したものであり、その内容は爆発、または衝撃などの破壊的エネルギーを内容しているものである。
起動してから数秒で発動し、また記す呪詛内容によって威力も調整できる優れものでもあったが、その特殊な符というものが、とても高価な物でもあるため、一部の人間の手にしか入らないものでもあり、今回の様な「ごっこ」レベルでは使用される事は稀な物でもあった。
「しかし、それだけでは心もとないな」
「確かに、威力を最大にまで上げたとて、至近で発動しなければ意味をなさないからな」
「ならば、この転移魔晶石で邪魔を排除するか」
転移魔晶石
二つで一つとなる魔晶石の一つで、失われた遺産とも比喩される物である。
それは高次元魔法ともいえる物で、転送元の魔晶石から転送先の魔晶石へと一定の範囲内の物を転移させる事ができる代物である。
ただ、これは使い捨てのものであり、通称ダンジョンと呼ばれる遺跡から稀に出土される物でもあり、その性能も千差万別であり、距離や転送質量によっては高額かつ巨大になる代物であった。
「飛ばすという訳か、だが、それは対となる場所にしか無理だろう?その大きさでは距離は稼げないだろう」
「なに、なぜあの戦場を選んだのか知らんのか?」
「ん?どういうことだ?」
「あの地下には、廃れたダンジョンがあるのじゃよ」
「ん?この地の周辺ダンジョンなど、みな管理下におかれているのだろ?」
「その管理下から外れたダンジョンと言ったら?」
「・・・!?"ハズレ"・・・か」
「ふむ・・・なるほど」
ダンジョンとは、たいていは各領において存在していたりするものであり、その構造や内容などは千差万別でもある。
また、そのダンジョンから氾濫などを抑制する必要性と問題性が発生する為、各領主に対して、状況管理する義務が発生したのである。
だが、ダンジョンから出土する宝や宝石類、果ては武具などは、地上文明においては高等な遺産として扱われる物も多く、その為、一部の領主では管理下から外れたダンジョンとして、発掘出土を繰り返すという手法がとられたりもしていた。
いわば独占という形で、である。
そうして、独占する事を主とし、王国への報告義務が発生する管理から"ハズレ"たダンジョンとされ、知っている者たちにとっては"ハズレ"と呼称されてもいた。
しかし、それでもダンジョンはダンジョンなのである。
ダンジョンの中には、獰猛といわれる魔物が徘徊する場所でもある。そのためそれなりの地力がない領主にとっては、"ハズレ"の存在を抱え込む体力もないために、王国への協力要請をも兼ねる管理報告を行い対処するしか無いのが実情であった。
いうなれば、"ハズレ"が存在土地があるということは、地力や体力などを持ち得た人物がその地の領主でもなければ、"ハズレ"を存続する能力が無いということの証左でもあり、権力という名の暗部的な力の誇示にもつながってもいた。
また、"ハズレ"には、別の側面があった。
それは、処理をするにはうってつけの場ともいえるのであり、"ハズレ"には表には出てこない、裏のそういった別の役割を持たせている者が、少なからず存在もしていた。
「だが、それでも"もしも"という事態があるだろう?」
「そうだな、今回の件なぞ、まったくもってその通りだ」
「ならば、予防策対として転移先にあの人物を手配しておこう」
「あの人物?」
「タダ飯喰らいだ」
「ああ、タダ飯喰らいか、それならば問題はないな」
「なんだ、タダ飯喰らいはお前の所に行ってたか」
「少しは働いてもらわないと困るからな」
「しかり、しかり」
十数人が円陣を組む中、話がまとまりだすとそれぞれがそれぞれの仔細が決まる頃には、その場に人影は一つもなく消え去り、ただただ暗闇が存在するのみであった。
ただ、その場所には、蝋燭の炎に焼かれた虫の遺骸だけが、何かが合った事だけを残していた。
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