厄介事の火種モノ

 ここは味方となる貴族様陣営の一つ、ライン侯爵様の陣営と言われる場所。


 あれからすぐにと、日が暮れてから移動すること一刻と少し、自分が何故に貴族様という偉い人の前にいなければならないのだろうか。


 いや、解ってはいますよ?副長さんに同道する恰好になっているというのと、確実に"天災"の管理者として、捕まえた敵大将様とご一緒につれだされてきたんですけどね。


 まぁ、侯爵様へすぐに行かなければならない理由としては、資金援助をしてもらっている為、切られたくないという現実的かつ利己的な説得といわれる説明を道中され、ぶっちゃければ自分の所属する傭兵団のパトロン様なんですって、ライン侯爵様というのは。今、知ったよ。


 その為、傭兵段の手柄=ライン侯爵様の手柄という公式が成り立たない訳もでもないんじゃないかと考えたのだが・・・



 今回はちょっとだけ従来とは異なるという



 この戦争の仕掛け人ともいえる問題児となているのは東西を二分する公爵様のご子息が発端で、なんでもお互いが家督が上だとか何とかで言い合いになり、最初の頃はちょっとした小競り合いみたいなものだったのが、国内のお互いの公爵様達のつながりのある侯爵やら伯爵やら子爵やらを巻き添え…もとい、引き連れての壮大な喧嘩に発展したのがいまの状況とかなんとか。


 それなのに、ぽっと出のなおかつ家督やら血筋やら全く関係もない、ただ兵数を補う程度の感覚で参加する形になった自分たちが所属する傭兵団が、相手の大将ふん捕まえてきてしまっているという結果となっている。



公爵のあのバカ息子アレが自分で手柄を挙げると息巻いているという状況を作り上げたのにこれか・・・厄介なことをしてくれたな、本当に・・・」



 なかなかダンディかつ、眼光が鋭い御人の口から発せられた低い声で、謁見が始まりました。


 なお、捕まえた方はそうそうに受け渡され、他の場所に移送済みらしい。

 そして、このお方がライン公爵様だそうです。が、雰囲気は最悪といったところ。


 状況を確認するという事で、副長と会話している内容を自分なりにまとめてみると、



 こちらの陣営の公爵様が意気揚々と指揮して自分で手柄を立てようとしており、振り回されている諸侯たちも被害を極力抑えるためにと敵味方関係なく気づかれない様に公爵の本体同士で衝突させて痛み分けという落とし処のお膳立てを企てていた最中に、そんなお膳立てをすっ飛ばして相手の大将捕まえたのがこちらの陣営の、さらに公爵様が実際に指揮している本命の本隊ではなく、その家つながりもも薄い下っ端のさらにさらにその末端ともいえる雇われ人(つまり自分たち)が、横から御膳たちという段取りを全無視してかっさらってる状態になったと。




 いうなれば、出来上がってた舞台脚本で進んでいた演劇の最中、観客が勝手に舞台に上がって無茶苦茶にしたと。


 そりゃ各陣営の面子つぶしてますわ・・・




 自分たちの傭兵団も、なぜか一翼を抑えるのみで、いつもの様に遊撃的な動きしかしなかったわけで、そして、"天災"を"遊ばせている"だけでよかったと。

 ただ、暴走しちゃったけどね・・・



 大体の流れはわかったけれど、今度はいかにしてお互いの面子を保ちながら状況を改善できるかと、謁見という形からそのまま会議みたいな雰囲気になり、あーでもない、こーでもないと、ライン侯爵さまたちのブレインと会議が始まっています。



 正直いえば、自分がこの場所にいるのは場違いじゃないかなと思ったりするんですけど



「なんだ?大将を戻してやり直すのか?」


 あの、"天災"さん?仮定案の状況一つに乗っかる様にしれっと何を口走ってるんですか?


「そうそう簡単に出来る訳がなかろうが!!」


 うぉ、怖ぇぇ・・・けど、その怒声ともいえる威圧になんとも思わないまま、キョトンとしてる"天災"の胆力もすごいわ


 まぁ、怒鳴ってくるのもわからなくはない。なにせ相手側の色々な方たちの面子もつぶしますし、それにそれだけではすまされず、貴族様たちの権威バランスが崩れてしまうとかなんとか・・・って、そこまでいくの?


 もう自分にとってみればわけわからない世界ですよ



「そうなのか?飯屋?」


 というか"天災"さん、自分に聞き返さないでね?今も副長に目で何とかしろと訴えられていますからね?


 ここはちょっと外にでて黙っていた方が良いのですよ?そう、お口は閉じておこうね?ね?






――――――――――――――――――――――――――――――


 自分、なんで公爵家の部隊衣装来てるんですかね・・・?しかも着慣れない軽装鎧の姿で。


 "天災"さんにも同じ様に部隊鎧を着せられています。ただ、どこをどうみても胸の部分と外套しかはわされていない恰好なんですけど、着ている着せられているというより、被っているという表現が正しいかもしれない。


 つい先日の夜半に決まった事とはいえば、


 自分たちの班が仰せつかった指名として、何故か斥候役として相手陣地深くに強行していたことになっており、何故か偶然にも拉致できそうだったので強襲し、連れ出した後は追手を巻きながら移動していたために時間がかかった。


 という事になった。


 もちろん、相手側にも「そういう事」であったという通達が根回しされていたりする徹底ぶりときている。



 個人的な意見としていうなら、無茶ぶりで変更された舞台脚本で無理ありすぎませんか?


 結局、落としどころとして、こちらが勝利したという事で脚本を進める事になったそうで・・・脚本家の人の心労は解らなくもないので、心中お察しいたしておきます。




「なぁ飯屋、これ脱いでいいか?邪魔すぎるぞ」



 そんなこんなを自分の頭の中で整理していたら、"天災"が今にもその衣装を脱ごうとしています。


 ちょっとまって!?さっき説明したでしょ!?もう忘れたの!?



「ちょっと着ててください!おねがいします!でないと、ご飯なしですよ?!」


 そう言いおわると、脱ごうとした動作がぴたりと止まり、


「そ、そうか、わかった。」

「それと、お口は閉じておいてくださいね?あと、謁見する大将は偉い人なので、傷つけたらだめですよ?守るぐらいで丁度よいんですから?でないとご飯抜きですよ?わかりました?」

「(コクコク)」



 とりあえず、お口を防ぐことも動作に制限もかけれたか・・・な?暴走しないでよ?お願いだからね・・・?



 そうこうしているうちに、公爵部隊の部隊長さんと一緒に謁見に参る形となった。

 ほんと、なんで自分がこんな所にいるんだろうか・・・

 



 そうして、公爵様(ご子息)との面会が始まったのだが・・・




********


「見たか?オレ様の方が有能者集めれるぐらいすごいと解っただろ?」

「いや違うな!あんな一人のポッと出の奴しかいないお前の方がダメダメだろ?しかも味方まで分別なくぶっとばしてたとかいうじゃねーか?オツムの足りない奴しかいねーんじゃねーの?」

「なら、お前はオツムの足りない奴につかまった、もっとオツムの足りない奴だろうが」

「あっ?んだと?!そんな奴を制御できない無能が何いってやがる?」

「ハン!負け犬に何言われてもいたくねーわ!!」



 とまぁ先ほどから、最初はお互いの家が素晴らしいだの、見た目がどうのから始まり、その後はもう、口から泡ツバ飛ばしながらの罵りあい合戦が行われています。



 うん、醜い争いすぎるわ。


 そりゃ周りの人たちも巻き添え喰らいたくないと思ったりするのも理解できます。



 貴族様でも結局こういう人たちもいたりするんだろうが、下手に巨大な権力を持たせていると、その周囲への被害規模がハンパなくデカくなるから、お互いの陣営が手打ちとなる案を探るの、解る気がします。



 そんな罵りあいが時間としては半刻?一刻?

 どこからあんだけ相手を罵る言葉がでてくるのか、不思議でならない。



 いや、もうこんなくだらない事に時間だけが過ぎ去っていく事に、ふと"天災"さんが気になったので見上げてみると、なんか眉間に皴よせては"気にくわない"という表情をしています。



 あ、これ爆発する前兆とそっくり、かなり危ないかもしれない。




 さて、どうしてなだめようかと思った矢先、突然自分が"天災"さんに襟首掴まれたかと思えば、罵り合いをしている二人目がけて飛んでいた。


 へっ?何で?


 と思うと同時に、"天災"の「壁!」という声で無意識に魔防壁の術を発動する。



 長く"天災"さんと組まされていた結果、とりあえず単純に行う事を決めておこうと予防策で作っておいた示し合分けたことで"壁"というのは、自分周辺に防御魔法による障壁をはるという事だった。


 人外すぎる"天災"だからこそ何気にわかる事があるらしく、飯屋が怪我したら飯食えなくなる!とかいう事でこちらが折れた形で決めたことだったが、今、まさにそれを行使し、魔防壁という障壁が出来上がったとほぼ同時だったか、口喧嘩してる二人に自分が体当たりする格好になってはいたが、その瞬間に防御壁に爆音と爆風による衝撃が起きていた。



 って、何!?なんなの!?状況がさっぱりわからないよ?!

 えっと、急ぎ防御結界陣を展開している中で、周囲状況を確認してみる。

 近く二人ぐらいの人の声で「結界陣?」とかいう言葉が聞こえるがそこは無視。



 砂煙みたいなのが少し晴れて周囲を見渡してみれば、天幕はみごとに吹き飛び"天災"を壁にするかの様に二人の貴族と自分が青い空の下にいる状況であった。


 というか、付き添いの人たちがいなくなって・・・る?いや、吹き飛ばされているといった感じで地面に転がって唸っているので、生命はたすかっているとは思っておきたい。



「おい!貴様!!何が起こった!?」

「そうだ!説明しろ!!」

「あの、自分も何が起こったのかサッパリで」



 まるで息の合った長年の相棒の様に公爵様(のご子息)達が、自分へと現状の状況を聞いてきますが自分だってサッパリです。


 "天災"の方を見てみると、周囲警戒してはいるみたいだが、いやしてるのか?あの爆風の中でもケロっとしてるというか、なんかまったく別の違和感が・・・あ、あれは何かすごく不安な時の表情だ。


 という事は、何かしら嫌なことでも・・・



「どうしよう・・・口開いたから、ごはんなくなった・・・どうしよう・・・」



 ってぇ、あ、そっち?

 いま気にするところソコ!?



 ま、まぁ、天災さんにとっては、死活問題かもしれないのは確かかもしれないけれど、いまそこじゃないだろうと思いつつ


「大丈夫だから、大丈夫だから、ね?あるから、ね?」

「ほんとに?大丈夫?」


と、なだめていた最中


「そ、そうだ!そこの大女!一体何があった!?」


 いきり立つ一人が、そう"天災"へと問い詰めてきていた。

 が、天災も天災で気にすることもなく先ほど起きたことを説明しだした



「なんか知らない"シュー"としたものが"ヒュ"ってきたから?」



 その説明と思われる回答が発せられた一瞬、「敵襲!」「坊ちゃんを護れ!」という周囲の声しか聞こえなくなるぐらいの静寂といわれる形容詞が「よんだ?」とでもいうぐらいで気軽にたずねてきてくれたとでもいうか・・・



 いや、うん、いまその静寂さんは帰ってくれていいと思いますよ?



「はぁ?もっとまともな返答を言え!!」


 おお、もう一人の方が、その帰宅していただいた静寂を破るかの様に問いていますが、


「あ、"シュー"じゃなくて"ジュ―"っとしたものだったかな?うん、それだ。それが"ヒュ"ってきたからだぞ」

「「ふざけるんじゃない!!」」



 お二人とも、見事にはもっていますね。


 けど、"天災"さんはまったくふざけてないと思いますよ?何しろキョトンとした顔で要領を得ない擬音での表現をもらえれば、そりゃねそうなるかもしれないが、天災さんにとっては平常なんですよね。


 あ、そろそろ助け船出さないと、顔がしかめっ面になってきてる、これはまずい・・・


 と、とりあえず、間に入って



「はいはいはいはい、落ち着いてください、自分が詳しく聞いて報告しますから、ね?ね?」



 こちらを睨んでくる視線があったが、確かに埒が明かないと判断したのか、二人ともが目で合図したのか、示し合わせたのか



「はやくしろ!」

「そうだそうだ!」



 と、同じ判断を下さしてきました。


 結局、説明するとしても、誰かがこの場所を襲撃したが、それを察知した天災が護るために動いたという事だけなので、それをやんわりとご説明させていただこうと、覚悟を決めます。




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