第67話 インサイダー取引

最初に証券会社に口座を作るとき、会社名を記入する欄があった。

私はそこで書く手が一瞬止まった。

世界で活躍しているような大企業に勤めているのであれば鼻高々に記入できるだろうが、そうではない私なので、どうしてわざわざ勤めている会社を教えなくてはいけないのかと思ったからだ。

もしかしたら勤務先に株をやっていることを報告されるのかと、くだらない妄想を思ってみたりもする。

もちろんそんなことはない。

会社名の記入はインサイダー取引防止の観点が大きいのだろう。


インサイダー取引とは、会社の内部情報を知って、これが発表されたら儲かるだろうということで株を買うことだ。

逆の場合の、会社の悪い情報を事前に知って、発表前に株を売ってしまうこともこれに該当する。

インサイダー取引をすると懲役刑になる場合もあるので要注意となる。


新商品の開発が成功した内部情報を入手して、これで株価が何倍にも跳ね上がるとか、会社が倒産するから株が大暴落するというような情報なら分かりやすいのだが、どれが規制の対象となるか分からないのが怖い。

ある日突然役所から「確認したいから来てほしい」と呼び出されたらたまったものではない。


私が働いている会社でも『来年新店舗をオープンする』という情報が内々に決まった。

やはり店舗拡大をすることは株価が上がるように思う。

この場合はインサイダー取引にあたるのだろうか。


社内報でも売上の経過や、大ヒット商品が発生したことが掲載されている。

社内報は外部の人が見られない。

これを見ての判断は該当するのだろうか。

もっと細かくいえば、本社会議とかの場合はもっと早く会社の状況を知ることができる。

いったいどこからがインサイダー取引となるのかまったく分からない。


厳密にいえばこれら全てアウトになるのであろうが、一般人が数千株を買って数十万円儲けたところまでチェックされないような気がする。

そういう不純なことをつい考えてしまいがちになるが、チェックされないからと言って本当に実行に移すのは良くないと思う。

数十万円程度で、後ろめたさを背負わされるのは割に合わない。

かといって数千万円とか儲けてしまっては、本当に目を付けられて逮捕されるかもしれない。

だから自社株とかは定期的な購入をする場合以外は手を出さない方が無難なような気がする。

私も自社株や取引先でお世話になっている企業の株は買わないようにしている。

末端社員の私が知るわけもないことなのに、たまたま自社株を買った瞬間に新製品完成が発表とかになって疑われるということが起きても不思議はないからだ。


またこれは家族も対象となる。

夫の会社だからと株を買ってみたら、夫から情報を得たのではないかと疑われることもあるそうだ。

このインサイダー取引を規制することは、市場が健全な株式投資を行う上で大切なことであるから賛同する。

これがなければ内部情報を知る者だけが大儲けをしてしまい、株を買うのがばからしく感じるだろう。

『李下に冠を正さず』という諺があるように、誤解を受けるような行動は最初からやらないに越したことがない。

自社株を買うときは急激に増減しない方が無難なようだ。


自社株の購入に反対してみたが、インサイダー取引に当たらないような定期的な自社株購入は推奨したい。

会社によっては持株会が組織されて購入金額の何%か出してくれたりもするので、普通に買うよりもお得だ。

それに会社の業績アップが株価に反映されるので仕事のやりがいも高まる。

昇給とかは時間がかかるが、株価の上昇は数日もかからないのだ。


それよりも一番のモチベーションアップに繋がるのは、株主ということで上司や社長よりも偉いんだぞと思えることではないだろうか。

仕事で嫌なことがあっても「もっと大量に保有して、いつかこいつらをクビにしてやる」と冗談でも思えることはストレス解消に繋がると思う。

もちろん実際は社長とかの方が株の保有数が桁違いに多くて、クビにさせることはできないであろう。

あくまでも内心で密かに思うだけに留めておいてもらいたい。

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