第61話 ストップ高の経験

私はオリンピックが東京に決定したときの為に、東急建設の株を100株買っていた。

前述したように、東京に決定しなかったときの暴落を恐れてたくさん買う勇気はなかった。

どこか東京にはならないと思っていたのかもしれない。

賭けに乗らずに儲けそこなった格好だ。

たった100株ではあるが東京に開催が決まって、翌日の東急建設の株は予想通りのストップ高まで値上がりした。


東急建設が240円の時に株を買った。

そこから一ヶ月後にオリンピックが東京に決まったと発表されたのである。

その翌日の株価は240円から一気にストップ高の320円まで上がった。

ちなみに240円の値幅の上限は80円までなので320円となる。


ここで判断が迫られる。

ストップ高を出した場合、売った方がいいのか、もっと値上がりするのを期待して保有し続けるかだ。


大抵の場合は業績が良いと発表があった企業などがストップ高まで跳ね上がる。

そうすると翌日は値上がったからと売る人が続出して株価は下がる場合が多い。

でも企業の業績や新商品発表が本物の場合は、一度下がってもどんどん上がっていって、ストップ高だからとすぐに売らない方が儲かることもある。

そもそもストップ高を出すということは、ストップ高の株価以上の価値が会社にあると判断されるからだ。

どこかの気まぐれなお金持ちが理由もなく、この会社の株でも買い占めようかなと思うことなどないのであるから。


だからストップ高になると判断に迷ってしまう。

私の場合、ストップ高になってもプラス額が3万円以下だったら売らないでおく。

はした金で悩むのもばかばかしいし、企業の今後の成長を期待して。


これが3万円を超えるくらいになると一度売っておいて、また安くなったら買い戻せばいいかと考えて売ることもある。

でもいつもこの判断で失敗しているような気がする。

売った株はその後値上がって「あの時売らなければ良かった」と思い、売らずにいた株はそこから下降を続け「あの時売っておけば良かった」と思うからだ。

株をやっている人は共感してもらえる、あるある話であった。


東急建設の場合は業績好調とは違い、オリンピックで建設ラッシュという明確な理由がある。

更なるストップ高が期待できる。

ではいつまで続くか考えなくてはいけない。

ただポンコツ頭の私ではまったく未来が分からない。

そういう時は欲張らずに、翌日のストップ高の400円に設定して売り注文を出しておこうと思った。


そして見事に翌日もストップ高を記録して400円で売ることができた。


『400円―240円×100株』で1万6千円の儲けとなった。


儲かったから良しではあるが、せっかくのチャンスを逃した感はぬぐえない。

そうそう潰れる会社でもなかったんだから、せめて1000株買っておけばと後悔はあった。


その後の東急建設はなんと6日連続でストップ高が続いた。

240円でスタートした株価は、320円、400円、480円と上がり続けた。


480円出した日に少し売りが先行して423円でその日の取引は終わったが、翌日からまた503円、603円、703円と上がり続けた。

一週間で約3倍になったのである。


庶民であっても長年株をやっている人であったら、240円というお手頃価格のときに4000株は買えたであろう。

703円までの上昇は予測できなかったとしても、600円までは期待できた。

つまり『600円―240円×4000株』で144万円は簡単に儲けることができたように思う。


私のびびりな性格が災いした、大金を出すことが怖かったことによる後の祭りエピソードであった。

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