最悪×最高=出会い 2
「........カラス金って?」
「一日経つごとに利息が一割増えていくってことだよ」
僕の乾いた喉が緊張のあまりゴクリと一回動く。
「........それって違法じゃない?」
「違法じゃないよ。お金は双方が承知ならどんな条件でも貸せる」
「........そうなのか」
目の前にいる可憐なハーフエルフの女の子が、闇金まがいなことをしていることに情報パニックが起きている。返す言葉などとっさに思いつかない。
口ごもる僕の様子にティエルは、笑いもせず、怒るわけでもなく、ただまっすぐに僕の目を直視する。
「私は混血種、穢れの象徴。だから強く生きないと、この世界に捨てられる」
世界に捨てられる。それがどんな意味をもっているか、彼女の優しくない声色で明確に理解した。それは生きれないということ。強くないと生きれないということ。
日本で本当の現実というものを薄めて生きてきた僕の過去。
日本より過酷な世界で本当の現実と向き合って生きてきたティエルの過去。
ティエルと僕では、人としての強さが違いすぎる。........もどかしい。
「じゃあ、せめて僕も目を背けず一緒に」
弱い僕が、強い彼女に返す言葉。吹けば飛ぶようなか細い声で放たれる。
「うん、一緒に」
微笑みで僕に安心感を与えるティエル。先頭を切って彼女は酒場へと入っていく。僕はその後を恐る恐る付いていくばかり。
酒場内は雰囲気が良くなかった。無法地帯とまではいかないが、そこにいる客層が不良というよりギャングのような出で立ちで、とっさに僕は目線を下にした。
ティエルは店の右端のテーブル席にいる四人組の一人に声をかける。
「おじさん、今日約束の期限だよ」
話かけられた中年男の印象は強面でアウトローな風貌。他の三人も負けないほどの威圧感があり僕は直視できない。種族は断定はできないが四人共エルフだろう。
「あぁ? 誰あんた?」
ドスが効いた声で威嚇するようにティエルを睨みつける。
「あなたに十万トルをカラス金で貸した者だけど」
仕草一つ一つで圧をかける中年男の目を、ティエルは瞬き一つせず凝視する。
「そんなの知らないけど? ってかお前ハーフエルフでしょ? そんなのが純血種であるエルフに口聞いて言い訳?」
嘲笑を混じえ、中年男は卓上に視線を戻す。
エルフ四人が囲んでいる卓上には酒の入ったガラス瓶にトランプのようなカードが散らばっている。ここにティエルが来るまでギャンブルをしていたのだろう。
「口聞かなきゃ、貸したものを回収できないでしょ?」
小娘風情は眼中にないと、中年男は集めたカードを配る仲間の一人をイカサマされないよう注視する。
「じゃあ回収しなけりゃいいだろ? 金欲しけりゃ身売りでもすれば?」
全く表情を変えず、ティエルは中年男の横顔をじぃーと直視し続ける。
僕はその様子を『危険だから直視はやめろ!』と思いつつも恐怖で黙るしかない。
「じゃあもう返す気ないんだね?」
「いや、もう十万トル貸してくれたらマジで明日返すわ」
「ふぅん。じゃあ私とおもしろいゲームしようか?」
「はぁ? なにそれ? 儲かるの?」
「罰ゲーム」
言うと同時に、ティエルは椅子に座っている中年男の顔を蹴りで薙ぎはらう。
唖然し立ち尽くす僕。瞬時に椅子から立ち上がる三人のエルフ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
後ろに勢いよく倒れた中年男は鼻を押さえ、叩きつけられたハエのように悶えている。
ティエルはサイボーグのように顔色を一切変えず、立ち上がった三人のエルフに視線を向ける。
「この男に関係ないならなにもしないでもらっていいですか? 鼻って折る時にグニャってして気持ち悪いし、三人で来るとなると私はナイフを振り回すことになるんで」
この時、呆然としながら、考えもまとまらないまま、僕は確かに感じた。
........ティエルが一瞬で場を制圧した? 酒場にいる誰もが彼女を直視せず黙った。
中年男と一緒に卓を囲っていた三人は、満潮が干潮になるように酒場から静かに足早に立ち去っていく。
ティエルはエルフ達がいなくなった卓に、ポケットから三枚コインを取り出し置くと、鼻を押さえ悶えている中年男の服の襟を掴み、店の外へと引きずりながら運ぼうとする。
が、これには流石に中年男も抵抗しようと、鼻を押さえていた血だらけの両手で後ろにいるティエル目掛け腕を振り回す。
何発かそれがティエルの腕にヒットすると、しびれを切らしたように彼女は襟から指を放し、
「もうめんどくさい」
中年男のいた卓から酒瓶を手に取り、悶える彼の腕目掛けて思いっきり叩き落とす。今まで聞いたことのない鈍い音に、散弾のように飛び散るガラスの破裂音が店内に鳴り響き、「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁあぁあぁぁああ」と中年男の絶叫が酒場に充満する。
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