第二話:天の御使い
Kさんが学生時代、霧生ヶ谷の外縁堀を歩いていた時のことである。
明け方からもやっていた霧は初夏の日差しに追いやられ、今はさわやかな薫風が体をなぶっている。
その、一陣の風にぶるりと首筋を舐める冷気を感じ、Kさんは空を見上げた。
すると、空からふわりふわりと天使のように邪気のない満面の笑顔で同い年ほどの女性が舞い降りてくるではないか。
あまりにも幸福に満ち満ちた天使の笑顔に、釣られてKさんがはにかむと、その女性が手をはたはたと振ってくれた。Kさんはそれに手を振りかえす。
不思議だ、とは思わなかったという。
ごしゃっ!
もの凄い音がした。
はっとKさんが足元を見やる。
奇妙な角度に折れ曲がりねじくれた女性が倒れ伏していた。
飛び降り自殺?!
あたりを見回したKさん。植樹されているスズカケノキの若木以外に周囲のどこにも飛び降りれそうなビルや横断歩道が見当たらない。
もう一度それを見やる。
何か名状しがたいものでも目撃して瞼を限界まで見開かせ、
その瞬間の狂気をそのまま凍てつかせた、
霜柱で蒼ざめた氷結した亡骸だった。
笑顔など、浮かべていなかった。
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