A04
旅を始めて、かなり三人と仲良くなって。
彼女たちそれぞれが超大国の姫である、ということを知った、そんな頃だった。
辺境の地の山奥で、あの出来事が起こったのは。
ドゴォ!
吹き飛ばされたファレンが地面に叩き付けられる。
どう見ても大ダメージ。
しかし当のファレンは何でもないようにサッと立ち上がった。
「ファレンさん!」
「大丈夫、これぐらい平気! ったくもう、何なのよコイツ!」
「……何だろ……」
三人が揃って『そいつ』を睨み付ける。
ファレンを吹き飛ばしたその相手は、まるで巨大な黒いゴムの塊に手足が生えたかのよう。
見た目は怖くも何ともないが、とにかく四メートル以上あるサイズの巨体と、長い手足による攻撃が厄介だ。
攻撃・防御ともにケタ違いのファレンでさえ大したダメージを与えられないようだ。
もっとも、ファレンの方もダメージは受けてないみたいだが。
「大抵どっかに急所があるもんだけど、こう真っ黒じゃ、どこ狙っていいかわかんないわね」
「小さな魔法では埒が明かないですし、わたくしが殲滅魔法で一帯を薙ぎ払いましょう」
「……そしたら……お宝も、吹き飛ぶ」
サリサがぽつりと呟く。
そう、僕たちがこの辺鄙な山奥へ来たのは、大陸の伝説に残る幻の武器を探すためだった。
正直なところ、冗談半分で訪れてみただけなのだが、途中からやたら強力なモンスターが次々と出現しまくり、最後にこの黒ゴム怪物が現れたというわけ。
「そんなお宝なんてホントにあるのかしら――って言っても、この状況だと信憑性出て来たわね」
「……なんとなく、匂う……かも」
「サリサさんは獣並みですわね。それでは、とにかくわたくしとファレンさんで時間稼ぎを」
ファレンとクメルパが再び黒ゴムと戦闘に。
ファレンの打撃は相性が悪い、クメルパはお宝を巻き込まないよう強力な魔法が使えない。
それでも二人とも何なく敵と渡り合い続けているが、いずれジリ貧になるのは避けられない。
残された僕とサリサは現状を見ながら考える。
「ん……」
「サリサ、どう?」
「何か……古い匂いがある……とは思うけど……」
微妙に眉を寄せて、考えるような仕草をするサリサ。
「そりゃ、さすがに細かい場所まではわかんないよね……」
「うん……ヨシトは……何か、ない?」
「僕? いや、そう言われてもなあ」
何か役には立ちたいけど、僕にできることなんて何もないし。
「あ。ねえサリサ、お宝ってそのまま地面に埋まってるのかな?」
「……その、まま?」
「宝箱みたいなのに入ってるとか、もっと言えば伝説の武器なんだからさ、古代の神殿とか遺跡みたいな場所に奉られてるみたいな」
なんとなく、ゲーム的なイメージを言ってみただけなのだけれど。
「……遺跡。それ……いいアイディア……」
「そうかな? でも、この辺りに人工物なんて何もなさそうだけど」
「たぶん……地面の底……」
「あ、そりゃそうか、遺跡だからね」
どうしようか、今から遺跡発掘するとか?
さすがにそんな時間は……なんて考えていたら。
「ええい鬱陶しい!
珍しいクメルパの叫び声が聞こえたと同時、ゴゴゴゴ、と足元が揺れ始めた。
すると、黒ゴムが立っている周囲の地面が隆起して……えっ?
「サリサ、これヤバくない?」
「……逃げる」
ガシ、と僕を掴んで走り出すサリサ。
どうやらクメルパはあんまりちまちましたことを続けるとキレるらしい。
半分サリサに抱えられながら見ていると、黒ゴムが地面ごと空中に飛び上がり(それもちょっとしたビルぐらいの高さまで!)、かと思うと今度は物凄い勢いで落下し地面に激突した。
魔法っていうか天変地異のレベルじゃないかな、これ。
「ちょっとクメルパ、危ないじゃないのよ!」
「ついうっかり。お恥ずかしいですわ。でも威力は弱くしましたから」
今ので弱かったの? 無茶苦茶だなあ。
隆起して宙に飛び、さらに黒ゴムが降ってきたせいで地面がかなり
「こうやってクメルパの魔法で地面を掘ってもらったら探せるかな、遺跡」
「……むしろ……今ので……吹き飛んだ、かも」
あ、確かに。
お宝を巻き込まないとか言ってたのに、完全に広範囲魔法なんか使っちゃうんだからなあ。
「なんであんただけそんな大技使ってんのよ。こうなったらあたしもちょっと本気出すからね――せぇぇぇぇい!」
クメルパに触発されたのか、ファレンが物凄いスピードで黒ゴムに飛びかかる。
空中から地面に落とされ、ゆっくりと立ち上がろうとしていた黒ゴムは、ドゴォ! とファレンの一撃で再び地面に這いつくばった。
衝撃でビシビシビシ、と地面に亀裂が走る。
……ちょっと待って、ファレンもお宝に気を遣って本気出してなかったの?
「……お宝、たぶん……そのうち……壊れる」
「うん、そうだろうね……」
このままあの二人が攻撃し続けたら、お宝どころか周囲の地形が変わりそうだ。
正直、伝説の武器とかなくても全然問題ないよね。うん。
「ファレンさん、暴力の権化のような真似はしない方がよろしいかと。いくら性格の通りだとはいえ」
「あんたが先にあんな魔法使ったんでしょうが!」
こんな状況で言い争わなくても……元気だなあ。
「ていうか今ので死んだんじゃないのかな、あいつ」
「……まだ」
サリサが呟く。
その言葉通り、地面に半分埋まるような感じで這いつくばっていた黒ゴムは、次第にぴくぴくと動き始めた。
でもさすがにもう瀕死だよな、と思っていたら。
ズバァン!
いきなり黒ゴムが立ち上がり、自分が埋まっていた地面を持ち上げるようにして土砂を撒き散らした。
かなりの重量であろう土の塊が、ファレンとクメルパの上へと降っていく。
「だいたいあんたはねえ……ってあれ?」
「あら?」
「ファレン! クメルパ! ……って、こっち来た!?」
土を投げた黒ゴムは、今度はファレンたちじゃなくこちらへ向かって歩いてきた。
ずるいぞ、今さら狙いを変えるなんて!
「うわわわ、サ、サリサっ」
「……下がってて」
僕をその場に残しサリサが駆け出す。
ギャラララ、と金属音がしたかと思うと、どこに隠し持っていたのか数十本のナイフが黒ゴムへと向かって飛んでいく。
同時にサリサ自身もハンマーのようなもので飛びかかり、黒ゴムの頭部にズガッと一撃。
「…………」
おかしいな、伝説の武器ってもうサリサが持ってるんだったっけ?
やれやれ。何のことはない、彼女たちは三人が三人とも化け物だ。
これはもうこのまま倒しちゃう感じかな。でもやたらタフだもんなあ、あの黒ゴム。
「よいしょっと。あ、ちょっとサリサ! あたしが本気出すって言ってるのに」
「中途半端な威力の魔法はどうも好みませんわね」
降ってきた土など何でもなかったらしく、ファレンとクメルパがサリサに続き戦闘に参加して、地面がますます揺れる。
色んな意味で怖いなあ、これ。
「うわっ、と」
ふいに、戦闘現場から
おいおい僕は普通の人間だぞ! 当たったら死ぬって!
「もっと離れとこ……」
もう少し遠くに移動しようとした、そのときだった。
岩に、何か模様のようなものが刻まれていると気付いたのは。
そして落下した衝撃でなのか、ビシッと岩に亀裂が走り、そして。
その亀裂の奥、岩の中に何かが埋まっているように見えて。
「……剣?」
それは、鈍い輝きだった。
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