01

 さて。

 ちょっと現状を確認しておこう。


・ここはビッグバンで誕生したばかりの宇宙空間

・俺はそこの神様代理

・ここでの俺は全知全能(実際は全知の方は怪しい)

・何でも思い通りになるが、クオリティは思考力・想像力にかなり依存する

・この生活がいつまで続くのかは不明


「改めてメチャクチャだな……」


 さっきまでごく普通に高校生活を送ってたって言うのに。

 なんて日だ!

 ……って、このギャグが産まれるまでには、あと約138億年ほどかかるわけだ。ひどい話だな、おい。


 さてと。

 悩んでも帰れるわけじゃないし、ひとまず前向きに行こう。

 宇宙空間で生きていられるぐらいだし、たぶん飲まず食わず寝ずでも死なないんだろうけど、このままじゃ暇すぎる。

 あの神様の奴が言っていた知的生命体の繁栄とかはどうでもいいけど、俺自身の快適な生活のためにはあれこれ創らねばなるまい。


「とりあえず居場所だな、うん」


 こんな寂しい場所にいつまでもプカプカ浮いていられないので、俺の部屋を思い浮かべる。元の、というか地球にいたときの家の部屋。


「……どうだ!」


 ガン、ガン、ガン、と、床、壁、壁……といった感じで俺を囲むように部屋が形成されていく。

 おお、いいんじゃねーの!?

 と、ちょっと期待したのだが。


「っかしいな……」


 確かに壁や床といった部屋そのものは割と上手く創れた気がする。

 しかし机と椅子はなんだかぐにゃぐにゃに曲がってる感じだし、ベッドは白い板みたいな感じになってしまった。

 その前に、机もベッドも部屋の中をフワフワと浮いてしまっている。

 そうか、重力が必要なのか。

 あーもう、くっそややこしいな。

 ゲームならこういうのは自動で設定してくれるだろうに。


「けど重力ってどうすりゃいいんだ?」


 惑星がないとダメなんだっけ? じゃあ星を創るところからやらなきゃダメってことなのか?

 いや、でも神である俺にはそういうマトモな物理法則を超える能力があるはずだ。なんせ全能の存在なんだからな。

 重力重力、と頭の中で重力の存在を念じてみる。部屋中の全ての物体が、床に引き寄せられるイメージ。天井が上、床が下という、上下という概念の現実化。


「…………」


 ずっとフワフワ浮いていた俺の身体が静かに床に着地する。久々の立つという感覚が足に感じられる。

 やがてズン、とベッドが床に落ち、机と椅子も落ちてきた。

 念じて設置場所を調整し、形状も少しずつリアルに思い出しながら修正して、とりあえず俺の部屋っぽい空間が無事に完成した。

 まあ、本棚とか机の小物とかはないんだけど。必要な物があったらそのつど出現させればいいだろう。


「はー」


 ごろりとベッドに寝転がる。ちょっとだけ元の生活空間に戻れたみたいでホッとする。

 まあドアを開ければ暗黒空間が広がってるんだけどね。

 しかしこんな調子でどうなることやら。

 だいたい、神の野郎がいなくなるのが早すぎるんだよチクショウ。

 普通、ライトノベルで異世界に来た主人公には説明役の仲間とか師匠とかが傍にいるもんだろ?

 自分以外誰もいないなんて、聞いたこともないっつーの。

 このまま一万年ぐらい神が帰って来なかったらどうしよう。

 気が狂うんじゃないかな、俺。


「地球を創り出すなんていつになることやら、なあ……」


 元の宇宙が懐かしい。

 ああ、ウチのクラスの桜井さん。今頃どうしてるだろう。俺のことなんか別に何とも思ってないだろうけど、こんなことなら全力で仲良くなろうとしておくんだった。


「ん?」


 と、そこで俺はふと気付く。

 そーいや神様の奴が言っていた。アダムとイヴを創ったとか何とか。

 だとしたらつまり。


「創り出せるんじゃないのか……? この場所に、桜井さんを……」

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