第20話 咲夜の陰謀
桔梗とカレンが第一部隊に行っている頃、咲夜のもとに
彼は第二コロニーの役人で、次期第二コロニーの代表者候補の一人でもある。
彼は以前から咲夜の後ろ盾を受けていたため、今回の選挙でも咲夜の力を借りようとお願いしに来ていたのだ。
「今回もお力添えの方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「そうじゃのぅ……条件次第といったところか」
「条件……ですか……」
どんな条件が提示されるのか不安になった大内は、唾液をごくりと飲み込んだ。
「わらわから出す条件は一つだけじゃ。パーソナルカードのデータの書き換えと、新規作成。おぬしならば造作もないことじゃろ?」
「……それだけですか?」
「もちろんじゃ」
あまりの単純な内容に大内は思わず首を傾げた。
「そんなことでしたら役所で正規の手順を踏んで下さればよろしいのでは? 何も私でなくても……」
「言い忘れておったが、内密にじゃ。あまり一目に触れてほしくはないのでな」
「パーソナルカードはそれ一枚で戸籍、口座といった全ての個人情報を集約しているものですよ。勝手に書き換えたことがバレれば私の方の首が飛ぶことになるんですから」
「その心配はいらん。そうなったらその責任は全て私が受けるつもりじゃ。それならおぬしも問題なかろう」
咲夜本人としては条件以上のことは望んでいない。
しかし、彼にとっては咲夜がこちらに対して好条件を出してくることが不気味で仕方なかった。
それでも、彼女を目の前にその提案を断る方が怖かったのか、彼女の案を受け入れることにした。
「……分かりました。その条件でお願いします」
「では、これを渡しておこうか」
咲夜は大内にデータの入ったメモリーカードを手渡した。
「わらわの分と他の二人の分がそこに入っておるから後は頼んだぞ」
「こちらもお願いしますよ」
「分かっておるわ。それで相手は誰じゃ?」
「元第一コロニーの代表者なのですが……」
「ふふっ、好都合じゃ」
「えっ?」
彼の想像を裏切り、咲夜はそれを楽しむかのように微笑んでいた。
「クソジジィめ、外堀から埋めるつもりで駒を送ってきたようじゃが、返り討ちにしてくれるわ」
咲夜はまるで勝ち誇ったかのような笑みがこぼれるのを扇子で隠すように口元を覆い、窓の外を眺めていた。
「気が変わった。おぬしの代わりに私が選挙に出よう」
「そんな! それじゃあ私は……」
「案ずるでない。当選した後はおぬしに全て任せる。その方がおぬしも好きにできるじゃろ?」
最初は不満に思っていた大内も、咲夜の名前を直接使えるということは好都合であった。
大内はそれを悟られないようにそれを承諾した。
彼の腹の中は咲夜もわかりきっていたのだが、それ以上に彼女は舞い上がっていたのだ。
「クソジジィの慌てふためく姿が楽しみじゃ。これもまた一興じゃな」
それから数日後。
この世界が未来の地球だと知った桔梗は、外の町並みを眺めていた。
今まで気にも留めなかったことにも新鮮さを感じていたのだろう。
「久しぶりに、外にでも出かけてみるか」
桔梗はすばやく布団の上で身支度を整えだした。
「なんか湿っぽいな……」
不思議に感じながらも桔梗は僅かな手荷物を持ち、出かけていった。
廊下を出て下のフロアに向かおうとしていると、ラティアが廊下を清掃していた。
しかし、その表情はどこか暗く、何かを悩んでいるように桔梗は感じていた。
「いつも精が出るな」
「桔梗様。お出かけですか?」
「ああ。それよりも元気がないように見えるけど、悩み事か?」
「そう……見えますか?」
「そう見えるな」
「そうですか……」
ラティアは窓を拭いていた手を止め、雑巾を窓の桟に置いた。
「どうすればいいのか分からなくなってしまったんです。このままの自分でいたくない、先に進みたいとも思ってもいるのですが、ラブラを裏切り、ゴンザレスさんを犠牲にした
ゴンザレスの寿命は僅かしか残されておらず、その命を無駄にしないためラティアに捧げたことを、ラティア本人も知っている。
自殺したゴンザレスから見つかった手紙を桔梗がラティアに手渡していたのだ。
しかし、そのことがラティアにとっては重荷となっていた。
こんな自分は幸せになるべき人間でないと、そんなことを考えていたのだ。
「
そんな思いを告げたラティアに桔梗は即答した。
「そんなわけないだろう。そもそもお前は罪人なんかじゃない」
「ですが
「だったらゴンザレスさんのためにもお前は幸せになる義務がある。違うか?」
「それは……」
「それにゴンザレスさんも言ってたんじゃないのか? 自分に正直になれって」
「――自分の気持ちに正直……」
その時、ラティアの心の中で何かが吹っ切れたように変化し始めていた。
「少し、考えてみます」
「あんまり一人で悩みこむんじゃないぞ。何かあったらいつでも頼ってくれ」
桔梗はラティアの肩に手をポンと置いてその場を立ち去る。
「それじゃあ俺は出かけてくるから」
「はい、行ってらっしゃいませ」
その後ラティアは桔梗の触れた肩をしばらく見つめていた。
ラティアが桔梗の自室で帰りを待ち侘びていると、深夜の十二時を迎えるところでようやく帰宅した。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。どうしたんだ? こんなところで」
「桔梗様。今までどちらに?」
「ちょっと散歩に行ってただけだよ。何かあったか?」
「いえ。少し心配になっただけですので」
ラティアは覚悟を決めたように桔梗に向けて口を開いた。
「桔梗様……
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