西の森
来るんじゃないよ?
私は恐怖の魔女さ、
知らないのかい
あぁまったく
無知とは恐ろしいね、
怖いもの知らずは
勇気なんかじゃないよ
おバカだね
いいかい、
よくお聞き
お前さんは
まだ若い
いのちを粗末にするんじゃない
解ったならば
いま来た道を
とっととお戻りよ
何故?
何故かだって!?
お前さんは
救いようのないおバカだ、
バカの相手は
めんどうさ!
それとも
お前、
――死にに来たのかい
あの魔女はいつも
ヒステリーに叫んでは
近寄る者皆遠ざけた。
哀しい優しい目を伏せて
赤い牙をむき出しに。
だからこそ問う、
『何故』。
何をそんなに
恐れているのだろう。
______
望んだわけじゃあない
ただ
持って生まれたんだ
強すぎる力を――
ものごころもつかない
赤ん坊の頃から
『破壊の魔女』と
恐れられた
触れるすべてが
たやすく壊れていく
お前に解るかい?
母親に
化け物と忌み嫌われた
幼子の心が
だが
こどもは皆
何だって壊すものだ
創るより
壊すほうが
遥かに簡単だ
視野が狭く
注意力が散漫で
力加減を知らない
『破壊の魔女』?
ただ
強い魔力を持って生まれた
それだけのことだ
何故恐れることがある
こどもの失敗を
見守るくらい
当然の親の務めであろう
______
虐げられた心は
世界を拒絶した
この迷いの森で
破壊の力を持ちながら
それをなさない魔女が一人
「感謝おし、お前たち人間は私に生かされているんだ」
「お前はただ、自分が傷付かないように守っているだけではないか」
忌々しい男が
森を抜けて
ここへ辿り着いた
己の力では
帰ることも出来ないくせに
命乞いすらしやしない
「お前に私の何が解る!」
「解らないね、解りたくもない。そんなに自分が被害者でそんなに自分が悲劇の主人公なのか?誰かがもたらした現実を恨むばかり、何故いつまでもそこから這い出て来ない!?」
疎まれし存在だからだ
私など
世界に不要で
生まれてしまったことこそ
罪なのだから
「くだらないな」
お前は愛された
私は愛されなかった
世界に
「お前から世界を愛そうともしない。違うか?」
何故
男は手を伸ばす…?
何故
男は立ち去らない
何故
男は私を叱るのだ
______
もう許してはくれまいか
私は
死ねもせず
世界にひっそりと
生き長らえた
罪を知りながら
償いとばかりに
この地に隠った
「お前が悪だったのか?」
善悪は数が決めるのだ
私の味方などいなかった
そう
悪は作られた
善良な市民によって
「冤罪、というのではないか。お前は何も悪くない。お前に罪はなく償いが必要ないなら。この森は不要なんだ」
だが
私に味方はいない
誰が
私の無実をはらすのだ
「お前が俺の手を取ればいい。拒絶ばかりの自分に打ち勝て。引きこもるための森は焼いてしまえばいい」
お前はただ
この森を抜けたいだけ
私を騙せると思うのか
「違うな。俺はお前を迎えに来た。お前の力を借りたい。その為に俺の力を貸す。必要なのはお前の意志だけだ」
お前は
私の味方になるのか
「お前は俺の仲間になれ」
______
たくさんの迫害
頼れる者はなく
いつも踏みにじられ
私は誰を信じることもなく
常に距離をとった
仲間など
出来るはずがない
私がそう仕向けた
だが
男はいう
そこから這い出て来い、と
手を伸ばし
微笑みながら
私はこの時
ようやく解った
あぁ
自分から変わらなければ
何も変えれはしないのだ
自分を一時慰めるくらいなら
いっそ壊してしまえば良かったのだ
弱さが余計に
たくさんのものを傷付けた
強さとは
男の持つ
信じて行う勇気なのだ
――私を信じて
お前は
ここまで来たのだな
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