第2話

「制服でホテルはまずいか……」

 まず過ぎますよ!

 学校から最も近いサイゼリヤに入ったけど、あたしは先輩の言うことがほとんど頭に入らなかった。

 明太子スパをおごってもらって、先輩の部屋に行ったけど、えっちは断った。できなかった。 


 あたしが寮の自分の部屋に帰ると、亜矢ちゃんはまだ帰ってきていなかった。

 ピンポーン!

『320号室の狭山結花さん、お電話が入っております。至急電話口にいらしてください』

 中学生らしい幼い口調が告げた。

「はい、お電話替わりました」

『結花? あたし』

「透子」

『亜矢あたしん家にいるよ。今夜泊めるから。明日日曜だし。手続きよろしくね。行って来たら、って言わなきゃ良かったよ』

「え!?」

『はっきりした原因も言わずにうちに泊まってることにしてくれって言ったの、昼間の先輩と泊まってたからでしょ? あの頃何かおかしいなと思ってたんだ』

 鋭い。

『亜矢がもう一度あんたを信じられるように頑張って持っていくんだね』

「はー……い」


 翌日のお昼に亜矢ちゃんは帰ってきたけど、なんだか取り付く島がないという感じだ。

 何故だろう。

「不満あるならはっきり言ってよ」

 思い切って亜矢ちゃんにぶつかってみることにした。

「あのひと……先輩だよね?」

「うん」

「何かあったの?」

 さて何と答えるべきか。

「透子は、一度うちに泊まってることにしたことがある、たぶんさっきの先輩のところに泊まってたに違いない、きっとヤッてる、って言ってた」

 ……ほんとに鋭い。

「透子が言ったこと、あたってるの?」

「……うん」

 結局亜矢ちゃんに知られてしまった。

 あまり知られたくないと言えばなかったな。

「年中人のこと触ってて、他の人も触ってたんだ!?」

「……」

「出てって! 部屋変えてもらって!」

「え!?」

「あんたが出てかないならあたしが出てく!」

 亜矢ちゃんはこう叫ぶと、枕を持って部屋を出て行ってしまった。


 寮監に許可をもらって、去年の解散騒動の時のように(「少女十色」という作品集参照してください)、307号室の漫才コンビ「りえたんみおたん」とメンツを入れ替えた。あたしたちと同じ学年の畠中理恵と小山未央のコンビで、畠中理恵の方がうちらの320号室に来た。

「いつかの礼も込めて、亜矢のケアは未央がやってくれるだろうから」

「ごめん……」

「何があったん?」

「……」

 亜矢ちゃんまさか……嫉妬してないよね……? と妄想してしまう。

「何かセクハラ……それはよくあることか」

「オヤジと一緒にしないでほしいな」

「オヤジより悪いかもよ?}

 ……。

「セフレがいたのがバレた」

「え!?」

 りえたんは驚きの表情を浮かべた。

「うちらの3年先輩の上原沙希って先輩、知らない?」

「知らんなあ……」

「文化部じゃ知らないか。バスケの先輩だから」

「あっそ」

 シラッとしているりえたん。


 時間が来て、お風呂に行った。りえたんは自室にシャンプーや替えの下着やパジャマを取りに行く。

 彼女の部屋から亜矢ちゃんとみおたんが出てきた。

「お風呂?」

「うん」

「先に行ってるよ」

 りえたんみおたんの短いやり取りの後、くぐり抜けて本来の部屋に向かう亜矢ちゃん。

 頭を洗ってたら、亜矢ちゃんとみおたんが入ってきた。

 みおたんもナイスバディだけど。

 亜矢ちゃんについ目が行ってしまうのを必死で自制するあたしだった。


 帰ってきて。

「あんた誰が好きなん?」

 とりえたんに聞かれた。

「亜矢ちゃん」

 ほぼ即答する。

「それを果たして信じてもらえるかね?」

「亜矢ちゃんが実家返ってて寂しくて、先輩も彼女に振られて寂しかったってのがあるんだよね」

 その時、部屋をノックする者があった。

「はい」ドアを開ける。

「あたし」

「みおたん」

「代弁に来たよ」

「なに?」

「結花のこと、家族より信じてたのに裏切られた気分だって」

「信じてるって、うちら恋人ではないのに……」

 あたしは即答していた。

「亜矢が結花のこと好きって言ったら、先輩と切れる?」

「え!?」

 一瞬の間の後。

「亜矢!」

 5部屋分離れた火災報知機の前に、亜矢ちゃんはいた。


 自室で亜矢ちゃんふたりきりにされた。

 亜矢ちゃんを背中から抱きしめる。身長差があるから。

「あたし、亜矢ちゃんが好き。大好き」

「先輩と寝たって聞いて、すごく嫌だと思った。触るのはあたしだけだと思ってたのに……っ」

「泣かないで」

 頬の涙を拭う。

「亜矢ちゃん、あたしのこと、好き?」

「……好き」

 亜矢ちゃんは小声で、でもはっきり言った。


 亜矢ちゃんとあたしは、その夜結ばれた。

 いろいろぎこちなかったけど、この上ない幸福感だった。他のひとで初体験したことを後悔したが、それはもういい。


 高校最後の夏。

 本当に好きなひととカップルになって過ごす夏。

 受験勉強もあるから楽しいだけじゃ済まないけど、人生最高の夏になる。

 きっと。

                      FIN

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いちばん好きなひと 西山香葉子 @piaf7688

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