第4話『出撃』
16番
荷台には相変わらずシートが掛けられており、機体の全容を見ることはできない。
循庸はLW
そしておもむろに大きなシートを引っ張り、荷台から引き剥がすと――――そこに隠されていた
それは兵器としての耐弾性能や装甲圧を意識し、重厚な外観となった【48式
全体的に銀に近い白色で、頭から脚の先まで完全に新規製作され、ロールアウトされたばかりの完璧な新型機。
頭部には2本のアンテナ、空気抵抗を考えて流線を帯びた各部外部モジュラー装甲、脚部には高速移動するためのローラーダッシュホイール、そして何よりも目を引く――――右肩の
それはLWの身の丈ほどもあり、並みのLWなら一撃で切断できそうな重量感がある。
「す……スッゲエ……完全な〝格闘専用機〟だ……」
循庸は感嘆の息を漏らした。
ハッキリ言えば、このご時世に〝格闘専用〟の兵器を作るなど異常と断言していい。
銃やミサイルで戦う時代に、軍事企業が実戦用の刀と鎧を作りましたと言うような物だ。新型機を一から製造するという莫大なコストと労力を注ぎ込んで時代遅れな機体を作り上げるなど、端的に言って非常識極まる。
現実的に考えて新型機の性能を売り込むためのデモンストレーション機、というのならば分かるが、この機体は明らかに違う。根本的に〝白兵戦〟を意識して設計されたデザインなのだ。
――――〝アレは、お前のために作られた専用機だ〟
葦田の言葉が脳裏を掠める。
循庸は、一瞬でも胸の高鳴りを抑えられなかった。
何故なら今目の前にある機体は、自分の理想を具現化したような造形をしているのだから。
――――循庸は急いで新型機によじ登り、コックピットハッチを開ける。
コックピットの中は、思いのほか広く取られていた。居住性を考えてのことなのかもしれないが、これなら設計し直せば〝複座仕様〟にも出来るだろう。
そう思いながらもコックピットの中に入り、ハッチを閉じる。
内部は基本的に【48式
循庸は期待に胸膨らませながら、マスタースイッチを〝ON〟にした。
直後、眼前の三面パネルが立ち上がり、映像を映し出す。
その起動画面には、この新型機の名称らしき物も書かれていた。
「〝ジャック〟……【ジャック・チャーチル】、それがお前の名前か」
おそらくは人名から取られたのであろうが、これがこの機体の〝名〟らしい。
続けて、機体の合成音声が話しかける。
『搭乗者を確認。【MLW-X ジャック・チャーチル】、起動します。搭乗者は、安全バーで、身体を固定して下さい』
「はいはい、分かってますよ……っと」
その合成音声のアナウンスに従って循庸は安全バーを下し、同時に設置してあるセンサー内蔵ヘルメットを頭に被る。
そして画面のタッチパネルを操作し、
「OSは……【火志摩
OSまで新規実装されているのは、流石の循庸も開いた口が塞がらなかった。
ハードウェアである機体を作るのと比べ、それを操るための新しいソフトウェアを作るのはその何倍もの労力を要する。
火志摩校にもソフトウェアを作る専門のプログラマーやソフトウェアエンジニアを育成する部門が存在し、それらの職業はLWに関わる中で1、2を争う高給取りであるということからも、LW業界がOSの開発をいかに重んじているか分かるだろう。
しかしどうにも腑に落ちないのは、火志摩重工には優秀な【火志摩
【火志摩
循庸がVR(バーチャルリアリティ)訓練で無理な格闘を慣行し、【火志摩
だというのに、火志摩が自慢の傑作OSを捨ててまで新しいOSをこの機体に搭載したのは、一体何故なのだろう?
循庸は一瞬考えたが、疑問よりむしろ火志摩が新しい〝格闘専用OS〟を開発したという感動の方が大きく、
「へへ……期待させてもらうぜ……?」
余計なことを考えるのを止め、いよいよ両脚のブーツを鋼鉄のペダルにベルトで括り付け、操作レバーをしっかりと両手で握る。
そして両脚のブーツを鋼鉄のペダルにベルトで括り付け、操作レバーをしっかりと両手で握る。
最後に、循庸は大きく息を吸い、
「よぅし…………行くか! ジャック!」
ペダルとレバーの両方を動かした。
瞬間、【ジャック・チャーチル】の
全身のギアが稼働し、まず脚が動いて地面につく。
次に腕が動いて身体を支え、上半身を起こす。
十数トン巨体が徐々に起き上がり――――そして燦然と直立して見せた。
そんなさりげない挙動だけでも分かる、不安一つ感じさせない完成度の高さ。
弥が上にも循庸の期待値は高まっていく。
【ジャック・チャーチル】は循庸の操作の下歩き始め、
三面モニターに映る外の景色。
しかし、さっきまで大暴れしていたはずの4体の巨大ミドリムシの姿がどこにも見当たらない。
「アイツ等、どこに消えた……!?」
循庸は画面の向こうにその影を追っていると、北の方角で砂煙の柱が上がった。
「あそこかッ!」
そこ目掛け、循庸が【ジャック・チャーチル】を駆ろうとした時――――
『待て! たった1人で、一体どうする気だ?』
機内の無線に、そんな声が入ってきた。
すると――――循庸の乗る【ジャック・チャーチル】の下に1機のLWが近づいてくる。
その機体は【48式
外観から分かる限りで機体構成を説明していくと――――
【48式
日本、火志摩重工【48式
日本、火志摩重工【48式
肩部
重装甲に守られ、高い安定性と姿勢制御機能を持つ。
日本、ナンブ技研の対戦車砲。
ナンブ技研が戦車の主砲をLW用に転用し、対戦車
た
各種戦車砲弾がそのまま転用でき、あらゆる
反面、予備
るため砲弾を変更するためには
1
右肩
左肩
日本、ナンブ技研の
5個の予備
背部=予備電力バッテリー
大容量予備バッテリー。
――――といった風な機体構成となっている。
四脚は山岳などの不整地における走破性や大重量の火器を運用するために設計された脚部パーツで、射撃時においては二脚よりも遥かに優れた安定性を持つ。
また脚底のアンカーを打ち込むことで垂直な壁などに張り付くことができ、あらゆる場所からの射撃が可能な射撃戦重視の機体だ。
しかしその反面で、直線における機動性は二脚に劣り、またどうしても幅をとってしまうため閉所など狭い環境での戦いは苦手で、接近されると二脚に対して一方的に不利になるなど長所・短所がハッキリしている。
そんな【48式
「先生!」
「お前の悪い癖だ。すぐに1人で突っ走ろうとする。LWの戦闘で大事なのは味方との連携であってスタンドプレーではないと、何度も教えたはずだぞ」
いつも通り小言を、しかしいつもよりも優しい声で言う葦田。
『そうだぜ循庸? そんなだから俺にケツを取られんだよ』
『そうそう、ほんっと突撃馬鹿なんだから』
そんな無線と共に、続けて葦田機の後ろに現れる2機のLW。
1機は標準的な構成の【48式
どうやら、その機体にはヒデトが乗っているらしい。
もう1機はナオミが乗り込んでいるようで、【45式改 ディフェンダー】という旧式LWの脚部に戦車の車体を流用した〝火力支援機〟だ。
この機体をよく知る者達には、『タンク』という愛称で呼ばれている。
具体的には――――
【45式改 ディフェンダー ナオミ機】
日本、火志摩重工の【45式改
【45式改
特化させたモデル。
日本、火志摩重工の【45式改
【45式改
たモデル。
これにより防御力が向上し、
動の自由度低下という事態も招いている。
日本、火志摩重工の【45式改
大重量&高負荷に耐えられるように関節部強化を施したモデル。
これにより、両腕部の前腕部
兵装を装備可能となっている。
日本、火志摩重工の【32式戦車】の車体。
かつて自衛軍でも正式採用されていた旧式の【32式戦車】の車体を流用し、L
W用の脚部に転用した物。
二脚や四脚とは比べ物にならないほどの可搬重量を誇り、LW用ならばあらゆる
兵装を装備できる。
さらに
御力は一般的なLW以上。
平地での走破性と直線の移動速度は二脚や四脚を上回り、射撃時の安定性も抜群
に高いが、運用環境が限定されるなど総合的に見てやはり汎用性は劣る。
25ミリ砲弾を発射する砲身を2門備えた機関砲であり、対LWから対空まで幅
広く対応できる。
1門につき毎分500発の
量、さらに大量に弾薬を消費するため別途に弾薬庫が必須となるため、二脚のL
Wでの運用は難しい兵器となっている。
また高レートを生かし、歩兵掃討用や家屋ごと内部の敵兵士をなぎ倒すなどとい
った使い方も可能。
右腕所持兵装と同様。
右肩
光波ホーミング誘導機能を搭載した撃ちっぱなし式対戦車ミサイルを3つ搭載
しており、対LWから対戦車まで対応できる。
左肩
日本、火志摩重工のレーダーシステム。
小型レドームとレーダーを備え、索敵・追尾・通信など様々な機能が搭載されて
いる。
これらの機能を有効に使うために、搭載機は指揮官機・通信機として部隊の中心
となることが多い。
背部=ナンブ技研【3式 背部大容量弾薬バックパック】
日本、ナンブ技研の弾薬収納コンテナ。
両腕の【M24 ダブルヘイル 25ミリ二連装機関砲】にベルトフィードで繋がる大
容量給弾システムであり、兵装の火力を支える。
――――元々【45式改 ディフェンダー】は旧式化し、汎用機としての役割を【48式
脚部を地面との設置面積が広い戦車の車体に換装し、汎用性を殺したのは対
もっとも、【45式改 ディフェンダー】は廃品を再利用するために旧式LWと旧式戦車をニコイチ化したという側面もあり、その低コストから相当数が生産、配備されている。
ナオミの乗る【45式改 ディフェンダー】は、その中でも火志摩高の訓練用に配備された
「ヒデト! ナオミ!」
循庸は葦田のみならず2人までもがLWに搭乗して現れたことに驚きを隠せなかったが、
「な……っ!? お前達、逃げろと言ったはずだぞ!」
2人の登場により困惑したのは、葦田の方だった。
「これは訓練でも遊びでもない! ましてや、〝アレ〟はお前達でどうにかなる相手ではない!!」
「やだなあ先生、そんなの分かってますよ。だから俺達は、距離を空けて支援に徹します。ようは時間を稼げばいいんでしょ?」
怒りを抑えられず怒鳴る葦田に対し、ヒデトは相変わらず飄々とした声で言う。
「そういう問題では……ッ!」
「止められたって付いてきますよ。先生も、俺達に〝目の前の学友を見捨てて逃げろ〟なんて言いたくないはずです」
「…………」
「大丈夫ですよ、無理はしません。別に俺達だって、フツーに死にたくないですからね。なあ、ナオミ?」
「あ、ああアタシは循庸が無茶しないようにって、み、見張るために来ただけなんだから! か、かか勘違いしないでよね!」
ナオミはいつも通り気丈に振舞おうとするが、その声は明らかに恐怖で震えていた。
循庸はそんな彼女を気遣おうと、
「おいナオミ、お前――――」
「大丈夫! だ、大丈夫だから……! 足手まといになったり……しないから……!」
循庸の言葉を遮り、声を張り上げるナオミ。
「……ナオミなら平気だよ。だから連れてってやろうぜ。いつもみたいに……3人でよ」
ヒデトが、ナオミを庇うように言った。
もっとも、循庸も2人を突き放すつもりがあったワケではない。
むしろこの2人こそが、循庸にとっては最も信頼に足る〝仲間〟であった。
「……バーカ、分かってるよ、そんなこと。頼りにしてるぜ、ナオミ」
「ふぇ!? あ、う、うん!」
循庸は決意を固めると、機体ごと葦田のLWへと向き直る。
「そんなワケなんで……あとはどうアイツ等を倒すのか、指揮をお願いしますよ、先生」
そんな言葉を受けた葦田は、僅かに笑ってため息を吐いた。
「……お前は、本当に良い仲間を持ったな、循庸」
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