第1話『ランド・ウォリアー』
『
機械的な合成音声が、抑揚のない声で残酷な現実を伝えてくる。
「……
『【火志摩 M44
男は硬いシートに座り、安全バーでしっかりと身体をシートに固定されている。
両手には大きな操作レバーが握られ、両脚のブーツは鋼鉄のペダルにベルトで括り付けられている。
密閉される男の周囲には
それらの機械にぎっちりと囲まれているおかげで、男はとてつもない
そして頭には、脳波を通じて機体に意思制御を伝達するためのセンサー内蔵ヘルメット。
これがなければ、男がどれほど大量の機械や機材に囲まれていようとも、男が乗る〝鋼鉄の巨人〟を御することはできない。
「……
『了解。
同時に
その直後、カイザーナックルの形状をしたB兵装が青く点滅し、〝
「行くぞ……ッ!!」
男はそう意気込むと――――レバーを切り、思い切りペダルを踏む。
刹那――――ビルの影から〝鋼鉄の巨人〟が飛び出した。
場所は東京のど真ん中、無数のビル群に囲まれたコンクリートジャングル。そこを一気に走り抜ける。
【
それが男が駆る〝鋼鉄の巨人〟、つまり『二脚機動兵器』の総称だ。
男が乗るのは【48式
この機体を知る者達は、親しみを込めて〝ヨンパチ〟と呼ぶ。
全長6メートル、重量15トン、軽量合金で全身を構成し、人体同様に二腕二脚があり、腕には
全体的に角ばった如何にも戦闘用というデザインで、色も全体的にダークブラウンという渋い色使いだ。
特徴的と言えば、両肩の装甲が大きく凹んでおり、追加で兵装を搭載できる
また肩装甲の色のみ
そんな機体が、道路の上を全速力で走る。
1歩、また1歩と地面を踏み締める度に、関節の駆動系が激しく機械音を発し、油圧シリンダーが前後する。
銃などない。身を守る盾もない。
装備される兵装は、右手に握られたブロソー社製のLW用の
走る。走る。
すると、目の前のビルに隠れていたLWが姿を見せる。
機体は男と同じ48式
その機体はこちらの機体を見るなり、いきなり
【火志摩 M44
48式
しかし――――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
男は被弾に臆することなく、ひたすら前へと突き進む。
無鉄砲、命知らず、猪武者、今の男を表現するなら、そんな言葉がぴったりかもしれない。
突撃、突撃突撃突撃――――。
そして男の駆る48式
そこは、格闘武器の間合いだ。
「おおおおおおおおおおおおおッッ、ラアアアッ!!!」
男の48式
15トンという巨人の全体重を乗せた、鋼の拳。
その拳は敵が盾で防御するよりも早く――胴体へとクリーンヒットする。
そして――――〝爆発〟。
【ブロソー ERAブロウ】に仕込まれた複数の
この衝撃で敵の48式
「へ、へへ……ざまーみろってんだ……」
男は冷や汗を流しながら勝利の美酒に酔いしれる。
目の前のモニターには、胴体から煙を上げて倒れる自分が殴り倒した敵の姿が映る。大変な優越感だ。
「さーて……あとは、ヒデトの奴だけか」
そして次の得物を探そうとしたが――――
『俺が……なんだって?』
機内の無線機からそんな声が聞こえた瞬間、ボロボロになった男の48式
「へ……?」
『悪いな
気が付けば、男の48式
それが、
そして、俗に言うフリーズコールという物を宣言された瞬間、
『訓練終了! ブルーチームの勝利!』
機内に教官の声が響き渡った。
いや、男からすれば、それは〝先生〟と呼べる存在か。
「ッッッだああああッ! チクショオオッッ!!!」
男は天を仰ぎ、声を大にして絶叫する。
英語なら「
一通りコックピットの中で暴れ回ると落ち着きを取り戻し、ヘルメットを脱いで安全バーを上に上げる。そしてシートから立ち上がり、横にあるドアから外に出る。
するとそこは――――屋内だった
コンクリートジャングルのビル群など何処にもない。
当然である。男は今まで〝本物の48式
「あーもう……あと一歩だったのに……」
男は悔しそうに頭を掻く。
――男の名は、
『火志摩工業専修高校』。通称『火志摩高』に通う高校2年生だ。
歳は17。背丈は170より少し高いくらいか。
血気盛ん、青春真っ盛りなお年頃であるため、顔は比較的可愛らしい優男。
髪は短い黒髪。生粋のアジア人であることがすぐに分かる髪の色だ。
服装は比較的ゆったりとしたパイロットスーツ。
まあ、その見た目はスーツというより〝ツナギ〟に近い物があるかもしれない。
そんなツナギみたいなスーツを着た
歳は40半ばで髪は白髪と中年を思わせるが、180を超える長身痩躯は筋肉質で引き締まっており、髪もカッチリと整えられている。目つきも鋭く、平たく表現すれば〝かっこいいおっさん〟といった風貌だ。
「……
中年の男はギロリと
その眼光は、カエルを狙う蛇に近い物があるかもしれない。
「や、やだなあ先生。今回はちゃんとチームワークを重んじたじゃん。その結果に、ちゃんと最後はヒデト1人まで追い詰めたワケだし」
「そうではなく、だな……」
中年の男は目頭を指で押さえ、露骨に怒っている様子を見せるが、その口から言葉がさらに出る前に――――
「くぅぉ~~~~ぬぉ~~~~
1人の女子が猛ダッシュで走り、その勢いを一切殺さないまま強烈なドロップキックを
「ふぬぅッ!?」
ぶっ飛ぶ
しかしその女子はぶっ飛んでぶっ倒れた
「なぁんで最後に接近戦なんて仕掛けたの!? あそこでたった10分持久戦に持ち込んでれば、アンタ倒されなかったのよ!? 最悪引き分けにできたかもしれなかったのにぃ!!」
「い……痛ぇよ……ナオミ……」
呼んで字の如く彼女は元々中華系オーストラリア人で、ヨーロッパ系白人であるオーストラリア人の父とアジア系である中国人の母を持つハーフである。
現在は日本に国籍を持っているれっきとした日本人だが、人種という意味で日本人離れしたハーフらしい端正な顔立ちと栗色の髪の毛は人目を引きやすい。
歳は
そんなナオミは、
彼女も、ついさっきまで
しかし彼よりも早く倒されてしまい、残りの時間はモニター越しに訓練を観戦していたのだ。
その結果、最後の最後に敵に向けて突撃する
「だ、だってさ、やっぱり最後は格闘で決めたいじゃん? 格闘はロマンだって色んなロボットアニメでも――――」
「アンタのロマンなんて聞いてないわよ! おかげでヒデトとの賭けに負けちゃったじゃない! 今夜のブルーチーム4人分の学食、アタシが全部奢ることになっちゃったのよ!? この責任どう取ってくれるのよぉ!」
もはや半分泣きが入った表情で、
「わ、分かった、俺も半分払うから、許して……」
このままじゃ頸椎が折られると本能で危険を察した
それを聞いたナオミは手を止めるが、怒りと共に滲む涙は納まらない。
「うぅ~……先生も何か言って下さい!」
「……いや、私が言いたいことは、たった今君が全部言ってくれたよ。というより、君もLWの訓練を賭けの対象にするのは止めなさい」
相変わらず目頭を指で押さえ、ため息混じりにそういう中年の男。
それを聞いて「むぅ~」と膨れるナオミ。
すると、
「よう
今度は、長髪を結った男がそう話し掛けてくる。
同じくツナギ状のスーツを着ており、身長は
「ヒデト、お前……最後の狙ったな……?」
「別にぃ? まーお前なら、あの状況じゃ突っ込む以外の選択肢を考えないだろーなー、とか思っただけだよ」
「やっぱり狙ったんじゃねえか……」
悔しそうに歯を噛み締める
この長髪の男は
「まあ勝ちは勝ちだ。俺達の晩飯は盛大に奢ってもらうぜ、ナ・オ・ミ?」
「ぐうぅ~……
「か、格闘はロマンなんだよ……」
3人がLWの戦闘訓練を追えると、だいたいこんな感じでカオスな寸劇が披露される。
そんな光景を見た中年の男は、
「……君達、後で職員室に来なさい」
ため息混じりにそう言った。
――――西暦2056年。○月×日。
こうして、
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