『プロローグ02』


 ――『ワームホール』。


 今自分の目の前に広がっている、まるで揺れ続ける水面のような、宙に空いた虫食い穴のような、無数の星が螺旋を描いて渦になっているかのような、そんな時空の歪み。

 これをがなんと思っているのかは知らないが、ではそう呼ばれているらしい。


197テッドザインアレフ368ヴァヴヘットギメル524ベートダレットヘー、準備はいいか?』


 脳内に声が聞こえる。

 おとこおんなかという性別で分けるなら、『おとこ』の声だ。

 今や絶滅寸前まで個体数が少なくなってしまった、貴重な存在だ。


197テッドザインアレフ368ヴァヴヘットギメル524ベートダレットヘー、準備完了」


 自分はそう答える。

 自分という個体をおとこおんなかという性別で分けるなら、一応『おんな』だ。


 自分は今、に乗っている。


 本当は戦うためので、自分とは姿形は全然似ていないけれど、細胞同期は済ませているから、もう自分とあまり変わらない。


 自分のすぐ近くでは、外では『戦争』が起きている。

 いや、もう『戦争』とは呼べないかもしれない。


 何故なら、自分達はもうなのだから。


 永い永い戦いが、もう少しで終わりを迎えようとしている。


 頭の触角を通して聞こえてくる、仲間達の断末魔。

 その声は、どれも『おんな』の声だ。


 今こうしている間にに乗り込み、時間を稼いでくれている仲間は、誰も彼も『おんな』だ。


 『おんな』しか残らなかったのだ。自分達の種族は。


 それほどまで、自分達はなってしまった。


『……頼んだぞ、197テッドザインアレフ368ヴァヴヘットギメル524ベートダレットヘー。お前が……最後の『希望』だ』


 『おとこ』はすがる様な声で言う。

 これでもこの『おとこ』は、自分達の種族の中では偉い立場

 もっとも、それももう関係ない。


「了解……〝転移〟を開始する」


 自分は特に思う所もなく答える。


 これが自分にとってであり、となる。


 自分は、目の前で蠢く時空の歪みへ入ろうとした。


 だが、その時だ。


 自分の背後にあった壁が、突然砕け散る。


 同時に、〝何か巨大な物〟が自分に襲い掛かってきた。


 自分は応戦しようとした。でも、間に合わなかった。

 〝何か巨大な物〟はそのまま自分に激突する。

 そして自分は、〝何か巨大な物〟もろとも時空の歪みへと放り出された。


 自分の意識は――――そこで途切れた。

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