文字パネル

高来 和良

文字パネル

 ある日の……今ではもう見慣れた光景になっているが、駅の広場には赤い罰印で彩られたマスクをしている人々が看板や書名簿を持って座っていた。

 彼らが持つ看板には何枚にも渡って色々な要求が書いてあるが一言でまとめるとこう記されていた。


「我々の言葉を返せ」


 今から十数年前のことになるか、ある科学者が人間の言語能力をパネルにして管理する技術を開発した。

 これにより政府や民間企業、さらには一般人まで言論の自由を盾に取ったり匿名であることを良いことに誹謗中傷やデマカセを使ったヘイトスピーチを繰り返す者達の口を簡単に塞げるようになった。

 方法は簡単、問題行為を繰り返す者がよく使っている単語に使われている文字が書かれたパネルをコンピューターで制御された金属の板から外すだけ。

 それだけでその者は日本語だろうと英語だろうとその他の言語だろうと一切関係なしにそのパネルの文字を口に出すことも書くこともキーボードで打つこともできなくなる。漢字の場合は音読み訓読みどちらかに1文字でも入っていたらアウトだそうだ。

 パネルを外すには裁判所の判断を仰ぐ必要を義務付けていたことがあってか、人々がネット上の度重なる暴言妄言に霹靂していたこともあってか、この技術を導入することは概ね好意的に受け入れられた。

 しかし処分が解かれない限り一生文字が使えなくなると分かっているのに繰り返す連中はそれなりの数を出し、現在国民の1割は使えない文字が1つ以上あるという状態になっている。

 駅で座り続けている彼らもおそらく自らが無責任に発したことが原因で言葉を使う能力を失ったのだろう。もしくはそんな人々を哀れに思って集まった暇人かもしれない。

 だけど自分の身から出たサビは自分が受け止めるべきであり、今まで匿名だから、正体はわからないからと調子に乗っていた制裁だから悪くないと自分は思う。

 そんなことより問題なのは他人ではなく自分のことである。

 つい1週間前、言語管理に不満を持つ過激団体によって文字パネルを管理している施設の1つが襲われ、何千枚ものパネルが強奪された。

 その中には自分のパネルが1枚混ざっており、現在も使えない状況に陥っている。

 政府からの発表では今回の襲撃事件ではパネルの強奪だけでなく受刑者のリストも盗まれてしまったそうで、現在過去の裁判記録と照らし合わせながら本当に盗まれてしまった方々のパネルを導き出す必要があるらしく、復旧にはかなりの時間がかかるらしい。

 犯人は見つかって逮捕されたが盗まれたパネルとリストは未だに見つかっておらず、一部では他の手に渡ったと報じられている。

 だけど今のところ生活に困った点は出ていない。1文字だけなら似たような意味の別の言葉を代用して対応できるし料理だってメニューを指差して「これください」といえばなんとかなる。辛うじて困るのは人と話す時に人名が出てきた時ぐらいだ。


 そこで皆さんに問題だ。

 私が盗まれた文字のパネルはどれでしょう? この文はその文字を一切使わずに書くことが出来た。

 当てても景品は出ないけれど、ね?

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文字パネル 高来 和良 @k_takarai

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