第21話 ガールズ&アンサー

夏の暑さにも負けず、秋の涼しさを通り越して、長袖が必須になってきた今日は、マスターと一緒の仕事場。


内容は、クイズ番組で水着による撮影と聞かされてやってきたテレビスタジオには、体調を脅かさない為の暖房が布かれて、出演した私達も問題なく打ち合わせ通りに環境に身体を馴染ませながら、撮影の始まりを待っていた。


組み合わせは、二人一組で早押し形式で出題されたクイズを答えていく。


最終的な結果で負けたチームは、この季節には辛い冷水の詰まったプールに叩き落されるという地獄が待っている。


勿論、負けるつもりはないと気合を入れたこのツインテールに誓いながら、意気揚々とそのクイズ番組は始まりの火花は、切って落とされた。


「クイズーーー」


「ガールズ&アンサー!!!」


司会者に合わせて、私達の掛け声で収録が始まる。


テレビでよく見た芸能人などが集う中で、スタジオで先ずはゲスト席に座りながら、会話を聞いていく。


「それじゃ、ゲストのアイドル諸君に自己紹介をお願いしようかな?」


司会者の合図で、Kaleido sistersの自己紹介が終わったら、私と胡鳥さんの番であったが、ガタガタと今までに見せた事の無い程の絶望に打ち拉がれている隣の彼女につられて自分も緊張を堪えきれないまま、私の番となった。


「Kaleido sistersのお二人、ありがとうございました~。それでは次のアイドルは、なんと同じプロダクションからやってきた若き新人です!」


司会者によるKaleido sistersの後輩という強調の高い説明から、胡鳥さんと手を繋ぎながら震える足と、鳥肌になってしまった身体をカメラに向ける。


「ひ、ひひひーーー」


「ひ?」


司会者や会場内全体が、私を注目しているという事もあり、ボルテージも高ぶってとにかくマスターから教わった自己紹介だけでもと目を回しながら口を大きく開く。


「ひれ伏すがいいデース! シナプスに抗う愚鈍な者達よ! 我こそは、この世界に君臨せし、神の遣い結城ベアトリーチェ。人の世に災い有れデース!!!」


口走ってしまった一言目に会場内は、沈黙し両隣にいたマスターと胡鳥さんがそれぞれに座るように水着の上に着ていたパーカーを引っ張る。


「げ、元気な子でしたねー! 流石アルプロの新人といったところでしょうか!? それでは次のアイドルさんどうぞ!!!」


胡鳥さんの番となり、やらかしてしまった私に代わり汚名を返上してもらうには、頼りない程に涙と武者奮いで顔が引きつっていた。


「あ、アルプロから...き、ききき、来ました.......。紅坂胡鳥でふっ!?」


大事な部分で舌を咬んでしまった事に、私同様の沈黙が訪れてしまうが、他のゲストの紹介もある為、長引かせるわけにもいかないとそのまま収録は続いていく。


「さぁ、自己紹介も終わったところで、運命のチーム決めです! お手元のスイッチから抽選をコンピューターが行い、決定した人と組んでクイズに挑んでもらいます!」


壮大なBGMと共に抽選の結果が表示される。必死に自分のパートナーを表示された映像に顔を向けながら、捜そうとしていた直後に背後から肩を触る相手におそるおそる振り返る。


「やぁやぁ、結城さんと組むとはアルプロ魂を見せ付けなくちゃいけないね!」


話しかけてきた華月さんは陽気なまでに、満面の笑顔をしていたが、これから起こるクイズ番組の結果の先にその笑顔は、悪魔の囁きにも似た未来が私にもわかっていた。


順々にチームを組んでいく中で、マスターも胡鳥さんもクイズで有名な芸能人の人と組んで挑む様子を伺う。


「華月さんは、クイズ得意ですか?」


「全然!」


わかりきっていた回答に不安しかないまま、収録は続いていく。


「それでは第一問いってみましょう!」


こうなればヤケクソで、わかる問題を早押しで答えるしかないと、ボタンの上に手を近づける。司会者に熱い視線を送りながら、出題された問題に答えようと闘志を燃やしていた。


「第一問! 世界で一番長い川はなんでしょうか!?」


簡単な問題に解答しようとボタンを押そうと、手に動けというシグナルが送られる前に中学生とは思えない程の馬鹿力で、私の手の上から華月さんに叩かれて回答権を奪われてしまう。


痛みに悶絶する私を構わずにニコニコしながら、答えを口にしようとする相手を止めれずに私達が進む地獄の一歩に足を踏み込んでしまった。


「はい! 華月さん、御答えをどうぞ!!!」


「利根川!!!」


不正解の音声と共に-1のポイントの表示と共にスタートしてしまった。


隣にいたマスターのチームがボタンを押して回答を行うように回答権を奪われて、一人寂しく叩かれた手を押さえてその様子を伺う。


「ナイル川」


正解の音声と共にポイントが付与されるのを見ながら、その後の私でも分かる問題を華月さんは、ことごとく手の甲を潰す勢いで叩きつけながら、マイナス点を増やしていく。


10問が終わった辺りで既にトップとの差は15点となり、私の両手も限界を迎えながらも進む問題に苦戦していく。


華月さんがわからない問題を解いて、何とか点差は10点まで縮まりつつもマイナス点のまま。残された問題の中で答えられるものは含まれているのかといった緊迫した状況の中迎えたボーナス問題の時間。


「さぁ、ボーナス問題の時間です! マイナスの結城、華月ペアには頑張ってもらいたいですね!!!」


最後の希望も華月さんに邪魔されるわけにはいかないココは意地でもーーー。


「ビスケット生地を用いたメレンゲにちなんで呼ばれるようになったパンを何と言うでしょうか?」


咄嗟の反応に自分が驚く程の速さで私より先に押した華月さんの姿が目の前にはあった。まるで回答権を譲ってくれるような期待のピースで、感動に涙が溢れそうになっている。


そう、これはチームで行うクイズ番組。二人で協力すれば成せない事は何もない。


「さぁ、御答えをどうぞ!」


「メロンーーー」


「あんぱん!!!」


会場がその無垢な笑顔に、どれだけ救われただろうか。私の希望は失われ、元の負債生活に戻ったかのようなマイナス点の多さに、世界で一番不幸なのかもしれないと悟るまでに至った。


華月さんとクイズ番組という時点で、勝ち目はなかったのかもしれない。


沈んでいく意識に見えた微かな写し身の自分が、ため息をついてバトンタッチをしたように見えた。



...き...ゆ...き......うき...結城.......。


お兄ちゃんの声で意識を取り戻した私は、ゆっくりと周りの様子を伺う。いつの間にか、昼の収録から夜景の綺麗な横浜ベイブリッジの見える道路を走る車の中から、出演したアルプロのアイドルみんなと帰っていた。


「しゅ、収録はどうなったデスカ? まさか延期になったとか?」


「いや、お前の...お前達のおかげで、ディレクターの人から評価を受けてな。社長がご馳走を用意して出迎えてくれるそうだ」


相手が何を言っているのか分からずに、疲れ果てて肩を枕代わりに眠っていた華月さんに何故か身体を震わせて寒そうにしているマスターと胡鳥さんを見ながら、東京に向かっていく。


後から出演していた番組を確認したが、気絶していた間の映像も紛れもなく自分本人が回答をしていた。不思議に思う気持ちは、他にもあるが回答権をしようとする華月さんを威圧で抑えつけていた私の表情はカメラで捉えられる事はなく、一方的に笑顔をカメラに向けていた。


そして完全勝利を収めた証として、マスターと胡鳥さんを含む、他の出演者はお茶の間の笑いの餌食となって、その後もクイズ番組の出演に私は呼ばれ続けた。

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