第4話 妹の決意
華月に言い寄られて部屋の角まで追い詰められた俺は、中学生ファッションモデルとして活躍していた妹に睨み付けられていた。
「で? 兄ちゃんは何で、こんなくだらないイベントに私を出場させようとしてたの? まさか......」
「か、華月ちゃん。兄さんが困ってるから離れてあげてーーー」
タイミング良く、緋鞠が間に入るように華月を呼び止めようとする。
緋鞠が何かの事情を知っているような態度をしていたが、それを無視して話を持ちかけた俺に非はあった事から、口を出さないように怒れる華月にこれ以上、油を注がないように見守る事にした。
「華月ちゃん。兄さんは華月ちゃんの思ってる人じゃないって分かるよね? 兄さんがもしオタクだったら、私達の世話どころか仕事も行ってないと思うの」
ピクッと緋鞠の声に耳を傾けた華月の表情が元に戻っていく。緋鞠の顔見ながら、ムムッと少し難しい顔を見せた後に満面の笑顔へと表情を変える。
「そうだね! 兄ちゃんがクソオタクだったら、こんなに普通の生活を送れるわけないよね!」
自己解決するようにニシシと、可愛らしい八重歯を見せながら、ゆっくりと立ち上がると撮影でかいた汗を流そうと、華月は浴室へと向かっていく。
「助かったぞ。サンキューな緋鞠ーーー」
「兄さんに話してなかった私の不覚です。そ、それに兄さんは華月ちゃんも私の事もまだ出会って間もないので、わからないと思ったのでーーー」
何の事情かは知らないが、間に入った緋鞠に感謝するように頭を撫でながら、いつものように夕飯の支度の為にキッチンに向かって歩き出す。
約束通り、華月の大好きなから揚げを作ろうと鶏肉を特製のタレに浸しながら、油を温めようとコンロに火を付けて、他のおかずを作ろうと包丁で野菜を刻んでいく。
「華月ちゃんと私が、此処に来る前にちょっとした恋沙汰があったのです。華月ちゃんが当時好きだった子が遠くに引っ越すというので、送迎会のようなものを開いて喜ばせようとしていたんです。そこで事件が起こってーーー」
皿に盛り付けた野菜と、パン粉を広げて卵を搔き混ぜながら相手の話に耳を傾ける。
「華月ちゃんがその子に想いを伝えようとしたんですが、その子は既に好きな子がいて、その日の送迎会にも呼んでいたという事を華月ちゃんに告げたんです。華月ちゃんも好きな相手の好きな子だから興味があったんだと思います。 だから華月ちゃんがその子に聞いたんです。どんな子が好きなのかと......」
熱くなった油に卵にパン粉を塗した鶏肉を入れて、ジリジリと揚がる鶏肉を見つめながら、予想は出来ていた答えを待っていた。
「長い黒い髪でメイド服に身を包んでいた当時の私をゲームセンターで見掛けたらしくて、その子が是非とも私にも出席してほしいと頼み込んできたんです。同じクラスで影の薄かった私だとは、華月ちゃんも気がつかなかったみたいで一切の疑いを掛けられないまま、ヘイトは全てメイド服の姿をした黒い髪の子という事で話は終わったのですーーー」
噴き上がった、から揚げの油を削げ落とすようにペーパーラップの上に置いて冷まさせながら、相手と向き合いながら泣きそうになっていた緋鞠に目線を合わせる。
「その何処も誰だかわからない存在に魅力が、劣ってたと感じた華月に嚙み付かれるように張り付かれたんだな? アイツ、負けず嫌いだから特に恋沙汰となったらさっきみたいな形相してそうだな......」
着けていた料理用の手袋を外して、涙を流す相手の目から雫を拭き取ると、緋鞠を抱き上げては、ゆっくりと食卓の席に座らせる。
「兄ちゃ~ん! 飯はまだかー!?」
風呂上がりにタオル一枚で背中に突進をするように抱きついてきた華月が、ポカポカと背中を叩きながら、少し膨らんだ胸を押し付けていく。
「かげっ、お前もう中学生なんだから、そういうのは辞めろって話しただろ?」
「え~? でも兄ちゃんは嬉しそうだし、それに緋鞠ちゃんばっかりズルいよ~!」
ぷく~っと膨れながら、自室に戻っていく華月を目で追うとため息を着いて、キッチンへと戻っていく。
から揚げとサラダを並べながら、着替え終わった華月も含め三人で食事を始める。
トラウマが箸を進ませないのか、余りご飯に手を付けない緋鞠を見ながら、いつものように華月の何気ない会話で食事を終える。
緋鞠はトボトボと自室に戻り、華月はバランスボールに乗りながら、毎日の運動を絶やさずに淫らな姿でゴロゴロしていた。
俺も流石に明日の仕事に向けて、そろそろ身体を休めなくてはと、風呂場に向かいながら眠気を我慢しながら、一通りの浴槽に浸かるまでの工程を終える。
結局、緋鞠の問題は何一つ解決しないまま疲れを癒そうと、浴槽に入りながら天井を見上げると暫くの間、目を閉じて心を落ち着けようとする。
「...さん、兄さん。お風呂で寝たら逆上せてしまいますよ?」
目を開けた先には、髪を後ろで纏めながら上から覗き込む美少女の姿がある。驚いた勢いで水しぶきを相手の顔にかけてしまう。
「わぷっ!? 私です! 緋鞠ですよ」
相手をよく見つめると、見知った声に長い黒髪で緋鞠だと判別する事が出来た。
「お前なんで風呂場に...てかタオルを巻けタオルを!!!」
相手の隠すつもりの無い姿に声を上げながら、自分のタオルを緋鞠に突き出す。
首を傾げながら身体を隠すと、髪の毛を洗い始める相手を凝視するようにその姿を見つめている。
「俺もう上がるからゆっくり浸かってろーーー」
「待ってください兄さん! お話があるのです」
出ようと言葉を掛ける俺を呼び止めるように声を上げた相手に驚いて、大人しく浴槽に浸かっている。
髪の毛と身体を洗い終えた緋鞠が、浴槽にゆっくりと浸かる。
一人用の浴槽である為、俺の股の上にちょこんと座る形ですんなりと入る事が出来たが、これはこれで問題の光景である。
「兄さん。私、イベントに出ようと思うのです。恥ずかしいですが、華月ちゃんに頼る事は出来ませんし、他人の力で勝っても嬉しくないと思うんです」
こちらに身体の向きを変えた緋鞠の顔を見つめながら、妹とはいえ理性が飛びそうになる程のきめ細かな肌や、華月に比べて発育の進んだ胸を見ていては、俺の男性としての本能が渦巻いている。
「そ、そうか。緋鞠はそれで大丈夫なのか? 人前に出る事も難しいだろ?」
「はい。だから兄さんに私の在りのままを見てもらおうと...わ、私だって兄さんの事好きですし、華月ちゃんに負けてられませんーーー」
ゆっくりとタオルを外して抱きついてくる緋鞠に硬直してしまう。相手の体温と心臓の鼓動、それに胸の柔らかさが直に伝わってくるのが分かる。
「に、兄さん。私だって、いつまでも引きこもりでいるつもりはありません。今だって凄く恥ずかしいですが、外に出る事の方がもっと恥ずかしいです。人に見られる事、人の気持ちを考える恐怖に比べたら、信用できる兄さんにこうして触れられる事が出来ないなら、イベントを推してくれたリスナーさんにも華月ちゃんにも合わせる顔はありません...だから......」
「わかったから離れろ! 兄妹とはいえ、これ以上は俺だって理性がーーー」
相手を突き放すように肩を掴んで、怒鳴るように声を出しながら身体から引き剝がすと、相手の火照った顔を見ながら欲情しかねない状況に困惑しながら、逃げるように風呂場を後にする。
妹の決意に淫らな気持ちを抱いた自分が腹立たしく、最後まで聞いてやれなかった事を悔やみんだその夜の月は綺麗で見惚れていたんだと思う。
ベッドに着いて見上げた星空を眺めながら、俺は中々眠りにつく事が出来なかった。
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