第4話

 ステータス画面。

 ファンタジーゲームでなくとも、レベルや装備が一括で確認できたりするお約束。

 そんなものが今、自分の目の前に現れていた。

 しかし目の前のそれには、簡素なものしか表示されていなかった。

 名前欄、年齢、種族、性別、職業。

 お決まりのLv、HP、MP、LUKなどなどの、そういった用語は書かれていない。

 名前は空白だし、年齢は享年17歳から継続だし。

 種族は……なんて読むんだ?真人族とあるし、性別は女性。

 職業はメイド。ただしメイド・オブ・オール・ワークとある。

 メイド・オブ・オール・ワークとはメイドのある意味最高階級職である。

 メイドを取り仕切る家政婦。

 女性や女主人の身の回りの世話をするレディス。

 レディスの補佐に位置するウェイティング。

 厨房を管理するコック。

 コックを補佐するキッチン。

 厨房の掃除を行い、駆け出しメイドがやることの多いスカラリー。

 部屋の整備をするチェインバー。

 接客を担当し専用の服が与えられるパーラー。

 お茶会を管理するスティルルーム。

 乳母のような役割のナニー。

 オールマイティだが専門する分野がないハウス。

 酪農女中とも呼ばれバター作りや搾乳に秀でたデイリー。

 お洗濯担当のランドリー。

 一週間ほどの雇われメイドであるステップガール。

 そういったありとあらゆるメイドの職を一手に引き受ける、すべての役割を一人でこなすメイド。それがメイド・オブ・オール・ワークである。


 ともあれそんなことはどうでもよく、次にどうすべきかを考える。

 今の目的はおっちゃんが助かることだ。


「べえぇ」


 ラムが一声なく。

 またもや、と言っていいのやら分からないが、

 空白の名前欄を叩く。

 名前欄は広がり、ノートPCのキーボード状になった。

 使ったことのある、というかこれは僕のノートPCじゃないかな?

 形状も配列も一緒。ならば普通のローマ字カナ入力か?

 どうやらそうみたいだ。ありがたい。

 名前、名前……悩んでいる暇はない。おっちゃんを助けなきゃならないんだから、適当に決めても良いだろう。あとで変更できるなら変更すればいい。


「べぇ」


 分かってるってば。じゃあアレだ。君たちからとるぞ。

 メイ。鳴き声からとる。とった。

 エンターキーを押すと欄は縮んでカチリ、と音がした。

 なにかが、じぶんのなかに、はいってくる。

 ぐるり、ぐるり、ぐるり。

 目が回る。

 べちゃっと地面にすっ転がった。リバースはさっき散々したのに、新たなる吐き気の境地へ到達しそうだ。そんな境地嫌だが。

 分からないのに分かるって時点で僕が僕じゃなくなりそうなのに、これでおっちゃん治せないとかだったりしたらマジで酷いからな!覚えてろよ!えっと、えーっとマッチョ神このやろう!


「お、おい大丈夫か嬢ちゃん」


「何がどう大丈夫だよ、ほい来たコレ!」


 思わず柏手かしわで一つ打った。意識するだけでこれでもか!これでもか!と違う世界が広がるんだから魔法スゲー!

 おっちゃんの話も適当に流して患部に手をかざし、意識を集中する。

 途端に半透明の薄い板が出現。ステータス画面に似てはいるが、これは状態を示すだけのものだ。


???/35/ドワーフ/男/???

・状態異常:出血(切傷)

・闇属性に対して有効な光属性攻撃を受け、心身ともに困憊している。

・出血量が多く四肢の末端に麻痺あり。


 簡潔にも程がある。

 はてな表記は名前と職業。というかおっちゃん意外と若いな。いや、ファンタジーによくある「男はヒゲモジャ、女はボサボサ髪のドワーフ」なのかもしれない。

 対処するために状態異常という表記に触れる。


・状態異常:出血(切傷)

 聖剣により切り付けられた傷。強い聖属性の加護が込められており、光属性で緩和するか闇属性で打ち消す必要がある。


 うんうんナルホドー……って僕自身何ができるかは書いてないんかい!

 当たり前と言えば当たり前だけど、これじゃあ手の施しようがないじゃん?


「めー」


「おいおい、こりゃあ……浄化の力じゃねえか。しかもこんな高位の……」


 ウールが一声鳴いて、傷口が淡く光を放つ。

 慌ててそこを見つめると、出血が弱まってる?

 なんだよ僕いらない子ですかい?さすが最高の羊だぜまったく……泣いてないやい。


「おい、嬢ちゃん。突っ立ってないで俺のポーチからポーション取ってくれや」


「うぇ?こ、これかな」


「そうだ……ありがとよ」


「いや僕なにもしてないし」


 状態異常の欄を確認すると、四肢末端麻痺が消えているうえ、出血のほうは聖剣で切り付けられた部分以外ない。


「べえ!べえー!」


「ヴェエ……」


「ちょ、ま、オイ待って何!?」


 両肘を押されて腕はまっすぐ伸びた。

 ああ、またコレだよ。やつだ。

 うちの羊さんたちはスパルタですねえ、習うより慣れろ方針ですか。


「だーくひーる?じゃねえ《ダークヒール》!」


 うおお、地味に僕から何か吸われていく?

 あたまいたい…いたくない、だいじょうぶ。大丈夫。大丈夫!

 おっちゃんのほうが痛そうだ!絶対痛い!

 僕が音を上げてどうするんだ。

 正直傷口が再生していくの超気持ち悪いけどな。

 異世界がなんぼのもんじゃー。

 こちとら花も恥じらう男子高校生改め異世界転生メイドだおりゃー。

 なんとか傷口がふさがった。

 やってみるものだなあ。二度とやりたくない。

 必要ならやるけれど。

 必要ならね。


人族ヒュムノが俺を癒すなんてなあ」


「めー」


「そのヒュムノとかいうの僕のこと?意味わからん」


「分からんなんて事ァ無えだろ、俺たち魔族デモニスと嬢ちゃんたち人族は昔っから戦争してんだ。こうして手当されてなきゃあ何しに来た!?ってふん縛ってるところよォ」


「いや僕ついさっきここ来たばかりなんで」


「常識なんだが?」


「僕にとっては非常識なんだわ」


「何言っとるんだ嬢ちゃんは……」


「あー……なんて説明したもんかなあ。あっちの森から来ました」


「あっち……あっち!?死の森からだと!?嘘つくんじゃねえ、嬢ちゃんみてえ生っ白い女が一人で歩ける場所じゃあねえぞ!?」


「1人じゃねえし、コイツらいるし」


「まあ、聖域の羊なら……ってそんなわけあるか!」


 良く分からない単語に分からない単語が重なって訳ワカメ。

 おっちゃんは完全じゃないけどある程度回復。ヒールとポーションの効果のどちらか知らないけど。

 血は、拭くものが無いからエプロンで拭いた。

 綺麗さっぱりってわけにはいかないけど、それなりになったんじゃない?

 すわ血みどろエプロンか、と思って見ると白いままだし、謎。

 謎が謎を呼び過ぎだよ。

 事件が迷宮入りだよ。

 僕は探偵じゃないんだぞ、メイドさんだ。


「ったくよォ、何だってんだ。まあ、とにかくありがとうよ、俺はジェフってんだ。ジェフ・ガドリーム。魔王領近衛騎士団大地のジェフたあ俺のことよ」


「あ、僕はメイ。それとごめん、騎士団とか何それカッコイイ。ごめん知らない」


「本当に何も知らないんだなあお前さん」


「とりあえずジェフのおっちゃんがピンチだったぽいのはわかったから助けたというか、知りたいことは今おっちゃんが喋ったというか」


「……何?」


 うわーお。いきなり殺気だっちゃったよ……。

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