第13話・想いが重なり
想いを通じ合わせた日から、毎日のようにカイルの愛を全身で受け止めて。
敵対関係にあるベペアヴァム国の兵が国境を越えて騒動を起こす頻度は高くなっていたが、二人はジェスを失った喪失感を乗り越え、心穏やかに日々を過ごしていた。
けれど二ヶ月近く経つと、晶子の体調に変化が現れ出した。
だるさに熱っぽさ。一日中感じる眠気。
僅かに吐き気もある。
そして、何より、遅れている月のもの。
「──晶子、もしかしたら」
すぐに考えに至った二人。
カイルと親しい医師が、人前にあまり姿を晒す事が出来ない晶子のためにわざわざ家まで足を運び、診察をしてくれた。
そして──。
「おめでとう。妊娠7週目だよ」
新しい命が晶子の腹に宿っている事が判明した。
胸にじわじわと温かいものが広がり、晶子は、そっと自身の腹に手を触れる。
「……赤ちゃん」
まだそこにいると分からない程に平たい腹。
けれども確かにある命。
カイルは晶子の前に膝をつき、先にある手の横に並べるようにして彼女の腹部に触れた。
「……ここに俺達の子がいるんだな」
感慨深げなカイルは顔を上げて、晶子を見つめた。
「俺達で護って行こうな」
「──はい」
愛する人に望まれて授かった命。
これから大切に、大切に守り育てて行く。
「くれぐれも無理はしないように」
医師はそう言い置いて、帰路に就いた。
玄関で見送り、家に二人だけとなると、カイルは背後から晶子をその身で包み込む。
優しく安心出来る温もりに、晶子は、そっと瞼を下ろした。
「ありがとう、俺との子をその身に宿してくれて」
「カイルさん……」
「少しでも体調に異変があれば、すぐに言うんだぞ?」
「──はい。ありがとうございます」
気遣いの言葉に、晶子は顔を綻ばせた。
──その日からカイルは、時間があると晶子の腹に触れるようになった。
それは、とても優しい手付きで。
宿った命のために身体を重ねる事は出来ないけれど、不安はなかった。
常に寄り添い、腹の子諸共包み込んでくれるカイルの心に、抱くのは安心感だけ。
「……二人に子が出来たなんて、めでたいねぇ。ジェス爺さんも喜んでるよ」
「──はい」
家へ様子を見に来たセラが、優しく目を細めた。
それに瞼を伏せて晶子は頷く。
「……しっかし、まぁ……」
ちらり、とセラは晶子の背後で茶を淹れるカイルを見やる。
「……ぷっ……」
「……何か、すみません……」
吹き出したセラに、晶子は微かに頬を赤く染めならが小さく頭を下げる。
あはは、と笑いながら、セラは手を振る。
「いやいや、何謝ってるんだい。……しっかし、本当にまぁ、随分と過保護になったねぇ……」
今までも十分に過保護だったけれど、とケラケラ笑うセラの、その瞳は嬉しそうで。
晶子の妊娠が判明してからというもの、カイルの庇護欲と言うのか、それが増し、あまり家事をさせたがらなくなった。
何でも代わりにやりたがり、晶子を休ませたがる。
少々目に余るそれに晶子は抗議し、結果隣に並んで共に行うようになったが、しかしセラが訪れた今、これ幸いと晶子を座らせ、カイルはせっせと茶の用意を行っていた。
「よっぽど晶子と腹の子が大事なんだねぇ……」
感慨深げなセラの呟きに、晶子は嬉しそうに頬を緩ませた。
大切にされているという自覚はあるが、それが人の目から見てもそうなのだと知れると喜びも
「──大事に決まってるだろ」
いつの間にか傍に立っていたカイルが当然の事のように告げた。その手の上には、カップが三つと茶菓子が乗せられた盆がある。
「カイルさん」
「ん、茶、淹れた」
「ありがとうございます」
二人の前にそれぞれカップを置き、自身も一つそれを取って晶子の隣にある椅子に腰を下ろす。
肩と肩が触れ合う程近くに座るカイルに、セラは苦笑した。
目を細めてカップを口に運んだ晶子はそれを一口呑み、カイルに顔を向ける。
「美味しいです」
「良かった」
晶子の感想に、カイルも頬を緩めた。
仲睦まじい二人の様子に、セラの表情も自然と緩む。
(──ジェス爺さん。貴方の愛した二人は幸せそうに笑ってるよ。安心しておくれね)
──そっと、心の中でジェスに語り掛けた。
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