聖人の頭蓋をすする乙女【五百文字】

 絵を描くことは救いだった。

 もはや彼女はこの世界から失われたのだから。

 私自身が、そうしたのだから。


 ゆえにこそ、眼前の荒く、世界から削り取られた少女の像を私は見つめる。

 あの日、まだ生きているあなたと言葉を重ねながら描いた下書き。

 本当は綺麗なものにしてあげたかった。正しい位置で飾られるような肖像画を捧げたかった。

 けれもそれはもうできない。彼女はもう私と入れ替わってしまったから。

 瞬きの内省から戻り、下書きを見つめ、強く筆を立てる。何度も色を重ねて、キャンバスに穴を開けそうなくらいに塗り込んで、厚さを増していく。


 あれ、あれ、あれ!

 少女よ、我が前にあれ。

 これこそ我が信仰の形であると、私は薄暗く仕上がっていく乙女てんしの絵を見つめるのだ


「綺麗だよ」

 キャンバスに浮かびあがった少女を目にして、私は涙を流す

 ドクロの山で嫣然と微笑む少女は、恐ろしい悪魔のよう。

 そう、彼女は悪魔だった。

 だから殺した。この手で。そうしなくてはななかったから。

 だからこれは失われたものの絵。

 我が愛を閉じ込めた偶像。

 最愛の人と混ざり合った私の一部。

 ああ、そこから私を見つめていて。

 我が生涯、その果てに成すものを。


【聖人の頭蓋を啜る乙女】

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