卒業の日に【三七〇文字】

 顔のない人々が歓声を上げる。拍手で作られた花道を、女王は薄ら寒い笑みを浮かべて駆け抜けた。

 向かうは楽園の出口。彼女は今日、六年間閉じ込められた監獄から解き放たれるのだ。

 そうして彼女は門のところで振り返る。

 涙を流して見送る後輩たちへ微笑んで。

「さよなら、私の可愛い子たち」

 そして、迎えようと待つOGたちへ歯を剥いた。

「さよなら、私が手に入ると思っていたおバカさんたち」

 言葉の意味が飲み込めないOGたちを砕くように、破裂音が響く。

 頭上から降り注ぐクラッカーの嵐と轟音。

 見上げれば、そこにはヘリコプター。

 投げ落とされた縄梯子に手を添えて、女王は空へと消えていく。

 彼女を愛した全てを置いて、嘲りの笑いを降らせながら消えていく。

「さよなら、さよなら!」

 その後の行方は、並み居る名家の誰もが知らぬ。ただ二人、迎えにくると告げられたもの以外は。

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