雨に溶けたあなたにもう一度【三七〇文字】

 雨に溶けた彼女を取り戻すために、私に何ができるだろう。


 降りしきる雨の中、彼女は今も笑っている。

 小さく、小さく、バラバラになって。けれど、たしかに雨の中にいる。

 見えないくらい小さくて、たくさんの不純物に囲まれて。

 降って、降って、照らされて、蒸発して、また天に帰る。


 雨の溶けた彼女を取り戻すために、私に何ができるだろう。


 溶けてしまったのなら、まずは雨を分離しよう。

 ぐるぐる、ぐるぐる

 回って、回して、彼女だけを取り出すんだ。

 だから私は雨の中で回る。

 くるくる、くるくる……遠心分離機みたいに、くるくる、回って。


 少しずつ彼女を取り返す。

 また声が聞きたいから、また顔が見たいから。


 だから彼女を集めよう

 だから彼女を組み立てよう


 もう一度だけ、彼女に出会うために。

 ありがとうって、伝えるために。

 愛してるって伝えるために。


 あの日あの時、言えなかった言葉を伝えるために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る