ミルクティー

自分で理解した上で保護欲を掻き立てさせるような子が好きな自分が嫌いだから、どうかその子に後生遭遇しませんようにと願うよ、と悪びれることなく彼は言う。そうすると彼の正面に座る女性が不快感を露わにする事を知っているのだ。その口振りはまるで、私には保護欲をそそるところが無いみたいじゃない、とわざとらしく期待を含めて問いかけると、彼はやっぱり悪びれることもなく、だから俺は、君といると心の底から楽しいと思えるよ、と言い切った。私は想像の中で彼の顔に濡れ雑巾を思いきり投げつけ、何事も無いように会話を続ける。楽しい相手としてみられているなら光栄、と不自然にならないだけの返事は出した。やっぱり何一つ、わかっていないのだ、彼は。

その何一つわかってはいない彼は、テーブルの上に置かれた熱々の紅茶を掻き回す手を止める気は無いらしく、このまま彼の話を七割ほど聞き流せば幾分後にはつめたくなったミルクティーを本当に彼は飲むのかどうかを確かめる事ができるだろう。気付けば、止まらない話は下らない人間論にまで進む。話の聞き流しを八割に変更して、私は片付けなければならない資料とわかっちゃいない上司の顔を頭の片隅に浮かべた上で、上司の顔に雑巾を投げた。

彼もついに、甘くぬるい飲み物を飲み終え、手持ちぶさたに濡れ布巾を折りたたみつつ近代文化を語り出した、しばらく辟易して話を一割だけ聞いていた私は不意に、彼に程近い濡れ布巾を手に取って、


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