第11話 蘇る湖(上)

【殿山京香(山崎綾乃)68歳 】


「間に合わなかったな」と真が静かに言った。

「ええ」と私は気持ちを噛みしめるようにこたえる。

 川田かわた源蔵げんぞうは春を待たずにいった。


 一昨年の冬に源蔵との間であの山の売買契約が成立した。年が明けた去年の初めに決済を済ませ、私の湖を蘇らせる計画がスタートした。もし、湖が蘇ったならば必ず知らせて欲しいと源蔵は私に言った。


 そして念を押すように源蔵は、どんなことをしてでも、もう一度あの湖をこの目で一目見たいと言っていた。が、私は源蔵にその約束を果たしてあげることが出来なかった。


 昨日、今日と源蔵の通夜と葬儀に出席して悠美さんに挨拶を済ませた私たちは、真が運転する車で帰るところである。


「ところで、子供達と何してたんだい?」

「これよ」

「お守り?かい、随分と年季が入っているな」

「ええ、ほぼ一世紀近くの年季が入っているわね」




 葬儀場での葬儀が終わり源蔵の自宅に挨拶に行くと、一足早く火葬場から留守番役の親戚の人と子供達だけが先に帰っていた。


 悠美さんが火葬場から帰るのを待たせて貰って居る時に、小学校一年生と四年生の兄弟二人がリビング入り口から見える柱の陰に隠れて、とても真剣に、とても思いつめた顔をして私を手招きした。


 その二人の真剣だがとても可愛らしく思う表情に対して、私が心得たとばかりに周囲を気にしながらリビングを出て近づくと…。


 二人は、それは、それは大変な秘密を持っているかのように周囲に目を配りながら、そっと口に人差し指を立てて私に小さな可愛らしい声でつぶやいた。


「シィー、静かに、内緒だよ。来て!」と真剣な顔の兄が私に言った。


 それから私は緊張した面持ちの二人に手を引かれて廊下を歩き、源蔵の部屋に連れて行かれた。

 二人は、そっと源蔵の部屋の襖をあけ、誰かに見られてはいないかともう一度振り返った。そして誰もいないことを確かめると、急いで私を部屋の中に押し込んだ。


 兄の方が音を立てない様に襖をそっと閉める。

 そして兄弟二人は、まるで泥棒のように抜き足差し足しで、あのキセルが入った煙草盆へと近づき、再び私を手招きした。


「なにが有るの?」と私が聞くと、

「大きいじぃじに頼まれてるんだ」と兄の方が誇らしげに言った。

「うん、頼まれてるんだ」


 弟が兄の真似をして同じ台詞を口にする。その姿が可愛らしくて自然に私は二人を見て微笑んでいた。


 そして兄の方が、そっと煙草盆の下の引き出しを手前に引いた。弟も黙ったまま兄の手元をじっと見ている。


「これ、綾乃さんが来たら誰にも内緒で渡しておいてって!大きいじぃじと秘密の約束したんだ。だから持って帰って」と兄の方がにっこり笑って私に言った。


「約束したんだ。秘密の!だからね、持って帰って」と弟の方も兄の真似をして嬉しそうに私にそう言った。

私は、あの日見た源蔵のお守り袋を手に取り二人にこういった。


「ありがとう。確かに受け取ったわ」

 私の言葉に、秘密のミッションをやり終えた二人は満足そうに頷き微笑んだ。







 ☆-☆-☆


「失敗だったのか」

 私に背中を向けたままの源蔵は、キセルでたばこを吸いながら素っ気なく言った。


「はい、駄目でした」

「そうか、一度失ったもんを蘇らせるというのはなかなか出来んということか」

 源蔵は顔をあげ、縁側から見える山の方を見ながらそう言った。


「ええ、そうだと思います」

 私は静かにこたえた。

「だが、あんたは諦めん。そうだろう」

 振り返った源蔵は私の目を見て言った。


「はい、可能性があるなら出来ることをしていきます」と私はこたえる。諦める気などないからだ。


「それでええ。それでええんじゃ。出来れば、この爺さんが死ぬまでに出ればいいがのう。それは贅沢というもん。わしも待てるだけ待って・・、それで駄目ならしかたい。それもわしの運だ、縁というもんだろう」


 源蔵はそういうとカーンと良い音を立ててキセルの灰を捨てた。

 湖を蘇らせるための調査、掘削作業とどれも上手くいかない。手前で止まる。前に進みたくても進めないでいる。八方塞がりといっても良かった。


「なぁ、綾乃さん、奇跡を待つことだ。それがいつになるかはわからんがな」

 源蔵の目が優しく笑っている。

「はい」

 それから二人で黙ったまま随分長い間庭の桜の木を眺めていた。




 去年一年、源蔵と交わされた会話を思い出しながら、私は省吾の待つ別棟へと向かう。

 省吾は庭が見える広い縁側の籐の椅子に座り、まだほころびかけるにも早い梅の花を眺めていた。



「ただいま」

 私の声に省吾は微笑み、こちらを見た。

 どれ程の月日が流れても、その笑顔は変わらない。私は省吾の隣に立ち、源蔵のお守りを手に持ち見せた。


「今日、小さな可愛らしい彼の密使が私に渡してくれたのよ」

 あの日、源蔵がそうしたように、お守りを開けて中に有るものを手のひらに出してみた。


 トントンと二回軽くお守りを振ると中ならコトリと音がして、小さな少し干からびたようにも思う鈍い光を放つ鱗が出て来た。



「これは、省吾のもの。そして、源蔵さんにあげたもの」と私が言うと…。


『そうだ』

 そう言って省吾は、私の手のひらにのる鱗をつまんで立ち上がった。そしてガラスのテーブル真ん中に置かれたバカラのアラベスクボウルの中にポチャンと微かな音をさせて入れた。


 鈍い光を放つ鱗は淡い黄色に輝く石の上へと、まるで木の葉がゆらゆらと舞い落ちるようにゆっくりと水の中へと沈んでいった。そして、鱗が石の上に舞い降りるとき水が柔らかな光を放ちだした。


 私はボウルに近づくと、その光の正体を確かめたくて上から覗き込んだ。その光の正体は白銀に輝く美しい鱗だった。



 あの、源蔵のお守り袋から出て来た鈍い光りを放つ鱗が水を得、光の石に触れたことで本来の輝きを取り戻したのだと分かった。


「綺麗…」

 私は吐息のような言葉を口から滑らせていた。

 省吾のひんやりとした体温が私を後ろから包むようにからめとる。白くて瑞々しい手が私の目の前で息づく、その美しい手に、そっと自分の手を添えてみた。


 だが、私の目に映る無残な光景に悲しくて、寂しくて、心細くて、自然とやるせない言葉が漏れた。


「もう、私…、しわしわのおばあちゃんになっちったわ」

 ひんやりとした省吾の気配が私の耳元を捕らえて、ゆっくりと呟いた。


『我が愛したは、そなたの光り。器ではない』


 省吾の言葉が私の身体の奥をとかしていく、ゆっくりと…熱く…とかしていく。涙がほろりとこぼれた。この言葉を、私はずっと聞きたかったのかもしれない。


 長い月日をかけて私は、人が安易な気持ちで口にする嘘の言葉では無い真実の言葉を、省吾の口から聞きたかったのかも知れない。


 私が省吾に愛されているのだということを証明してくれる、省吾の口から滑り出る真実の言葉。

 多分、聞くことは出来ないのだと、それまでずっと諦めていたその言葉を、省吾の心をのせた本当の言葉を私は聞きたかったのだ。



 まどか、

 まどかのいう様に人の心の奥から出る本当の涙は、人に見せる為では無い、自分の激しい感情の為に泣く汚い涙が殆どなのかも知れないけど…。


 でも、まどか、その想いの奥の奥には、気づかれずに眠っているのは、人に見られる為の綺麗な涙でも、そして汚い涙でもない。


 自分が本当に望む想いの涙が一粒、眠っているのだと分かったわ…と、もう会う事の無い友に、私は心の中で語りかけていた。






 ☆-☆-☆


「水は、あるにはあるんですが、すみません。お役に立てなくて…」と彼は言った。

 水脈はあるにはある。だが湧き上がるほどの勢いも量も無いようだ。

 もう諦めた方が良いのではないですか?うちは仕事ですからやれと言われればやりますが、費用ばかりがかかりますよと、こちらを気遣いながらも遠回しに言いたいのだろう。


「そうね、少し休みましょうか」と私は言った。

「分かりました。では、ご連絡をお待ちしています」

 誠実そうな現場監督の彼はぺこりと頭を下げて作業員のもとに走り去っていった。


 歳月は私を弱気にさせる。

 昔の私なら何が何でも結果を出そうとして一分一秒を惜しんだだろう。しゃにむに突っ走っただろう。現実という前しか見ずに…。


 だが、今は源蔵が言った〝奇跡〟を待ってみようと思う。起こるか起こらないか分からない奇跡。

 でも、既に私には省吾という奇跡が目の前にいる。

 熟すのを待とうと思う。

 きっと何かのきっかけがあるはずだ。

 しるしがあるはずだ。

 起こるはずだ。

 そう信じようと私は思った。


 後は時間との勝負なのだと、私はともすると折れそうな自分の心に、自分で自分に噛みしめるようにゆっくりと言い聞かせていた。




 早いもので、梅の蕾が固く結ばれていた源蔵の葬儀の日から今日は数えて四十九日。


 忙しくて遠方に居る親戚や兄、体調のすぐれない姉とは葬儀の時に同時に済ませたが、もしよければ悠美さん家族だけで行う祖父の最期のお別れの席に…、お坊様も呼ばない内々だけのものだが来ては貰えないかと連絡を貰った。


 私は、そんな大事な席に招待して貰える心をありがたく受けて必ず伺わせてもらいますと返事した。


 川田家に到着すると庭の桜は満開の頃をほんの少し過ぎたかのように風にその姿をはらはらと散らし、まるで訪れる者には結界をはり、これより先にいく者を自分が選ぶのだと言いたげに淡い花びらの風が私と真の足を止めさせた。



 悠美さんと旦那さん、二人の子供達。

 そして私と真の6人だけのささやかな源蔵とのお別れの席。私は、悠美さんの手料理が並ぶキッチンで盛り付けのお手伝いをする。


「私、兄や姉とは年が随分離れているんです。それで祖父母にというか、祖父に育てられたんです」


 何度かこの家には来たが殆どは必要なことしか言わない源蔵と話をしていたので、私が悠美さんとゆっくり話すのはこれが初めてかも知れないと思った。


 そして私は、料理を盛り付ける手を止めて悠美さんに聞いた。

「そうなの?でも、お祖父さんに育てられたって言うのは?」


 お祖母さんはどうしたのだろう、病気?それに悠美さんの父親と母親はどうしたのだろうか。

私の疑問は、どうやら顔に書かれていたらしい悠美さんが笑いながら、


「そうですよねぇ、不思議に思いますよね。父親と母親はどうしたんだ。お祖母さんは、なにしていたんだって思いますよねぇ」


「ええ、ああ、ごめんなさい。余計な詮索をしてしまって」


「いえ、いいんです。誰だって不思議に思いますもん。あれは私が小学校3年生でした。その時、兄は働き始めて2年目じゃなかったかな。姉が確か大学4年でしたから、多分そうだと思います。二人とも地元を離れていましたから」


「悠美さん、本当に、お兄さんやお姉さんと年が離れているのねぇ」


「はい、幼稚園の頃、母に連れられて兄のところに遊びに行くと、よく兄の子供に間違われました。兄も半分は面白がって、よく私を連れて歩いていました」


 小さな妹を連れて、「こんな大きな子がいたのか!」と、出会う人の驚く顔を見て悪戯ぽく笑う青年の顔が浮かぶ。その楽しさに、ふふっと二人で目を合わせて笑った。


「兄は、その年仕事の成績が良くて、思った以上に夏のボーナスが良かったらしいんです。それで、ずっと子育てと家事をしてきた母と、自分達の為に働いてきた父に旅行をプレゼントしたんです」


「そう、優しい、良いお兄さんね」


「はい、優しい兄です。姉もアルバイトで得たお金を父と母に、お小遣いだと言って渡していました」


「そお…」


 今度は嬉しそうなご両親の笑顔が浮かんだ。

 でもそのすぐ後で、まるで幸せの端に、知らぬ間にズルズル嫌な音を立てて静かについてくる得体のしれない嫌な思いも浮かんだ。


 どうも不動産という家族に直接かかわる仕事をしてきたせいなのか、職業病なのかも知れないが、色んな情報を繋ぎ合わせて答えを導き出そうとする悪い癖が私にはある。だが、今は当たらないで欲しいと思った。


「二人とも私に、お土産はなにがいい?と聞いて出かけていきました。でも・・・」


「でも?」


「でも、それっきり、父と母は帰って来ませんでした。海での事故です。遺体は上がりませんでした。私は小さかったので何が起こったのか理解出来ませんでしたし、兄は自分を責めて随分苦しんだと思います。母は一人娘でしたから、祖母はそのことがショックで体調を崩してしまい、入退院を繰りかえしました。それから一年後に亡くなりました」


 私は、私の勘が当たった事に呪いの言葉を吐きたい気持ちになっていた。


「でももう昔の事です。気にしないでください。それから私は祖父に育てられたんです。今でも一番に覚えているのは遠足のお弁当です」


「遠足のお弁当?もしかして?お祖父さん、源蔵さんが作ったお弁当?」


 あまりにも源蔵とは結びつかないかけ離れた言葉に想像ができない。源蔵が作った小学生の遠足のお弁当。

まして、女の子のお弁当。


「想像出来ないでしょ?」

 悠美さんは、鼻をきゅと小さく上げてしわを寄せると悪戯子のような顔をして笑った。


「ええ、無理だわ!」

 とても源蔵が遠足のお弁当を作っている姿など想像出来ないと、私は悠美さんに言った。


「お弁当のふたを開けると、そこには海苔で切った眉毛がついた。ううーん、多分鬼の顔、の、まん丸おにぎりが二つ。それから土と草と石が入った泥団子みたいな色のミニハンバーグ…。

 でも、このミニハンバーグが荒く切った玉ねぎの甘さと、外はカリカリした歯ごたえがあるのに中のお肉が柔らかくてジューシーで、とっても美味しかったんです。

 おにぎりも、私の好きなおかかと梅干しがはいっていました。それと祖父は彩りを考えたんだと思います。半分に切ったゆで卵と、プチトマト、黄色と赤です」


「まぁー」

 あのゴツゴツとした大きな手で小さなおにぎりを握り、海苔の眉毛を作る為に小さくハサミを動かしている源蔵の姿を、お弁当の中の彩りを悩みながら考えている源蔵の姿を想像すると自然に涙と笑いがこぼれた。


「おかしいでしょー。それから私にとって祖父は、祖父であり、母であり、父でした」

「幸せだったのね」


「ええ、幸せでした。高校をでて大学に行くかと聞かれましたが、祖父と離れたくなかったし、この土地を離れたくなかったからここに残り就職しました。

 主人と結婚する時も、祖父と一緒に住んでくれる人でなければ結婚していなかったと思います。幸い、主人は次男だったのと、向こうのおじいさんが、源蔵のところの孫娘なら仕方ないと言って養子に入ることも許してくれました。

 兄も姉も、私が結婚して養子をもらい、この家を継ぐことがきまると財産放棄してくれました。たぶん、私に対して負い目が有ったんだと思います」


「そうかも知らないわね。でも、きっと、お兄さんもお姉さんも、悠美さんを愛していたのよ。そして、源蔵さん、お祖父さんを愛していたんだと思うわ」


「ええ、私もそう思います」

 悠美さんの言葉に私は大きく頷いた。


「ママぁー!お腹すいたぁー」

「ボクもぉー」と、幼い子ども達が待ちきれずにキッチンへと入ってくる。

「あらいけない」と悠美さんが慌てた。

「おしゃべりに夢中になりすぎたわねぇ」

 そう言って私は悠美さんと二人、大急ぎで食事の用意をして子供達に出来上がった料理を源蔵の部屋に運んで貰う。


 いつも源蔵が座っていた縁側に陰膳を置く。

 魂は四十九日の間家の屋根の上にいるというから、きっと源蔵は今、屋根の上から降りて来て最後の…、家族との食卓を囲んだあと、彼は、源蔵は本当にあの世に旅立って行ったのだろうと私は思う。


 孫娘を愛し、孫娘から愛された心を持って…。





 食事の後、なんの話だったか分からないのだが、意気投合した真と悠美さんの旦那さんが、どうしても欲しい本が有るから探しに行くと大型ショッピングセンターの本屋に出掛けるついでに、悠美さんも夕飯の食材を買いたいといって三人は一緒に出かけて行った。


 いつも、どこかへ出かけるときは必ず一緒について行くと言い張る子ども達が珍しく今日は家でお留守番するというので、私が子どもたちと家に残ることを申し出た。

何か、私には彼らに企みが有るように思えたからだ。


 子供の考えることは楽しい。

 私に子供はいないが、妹の子ども、甥っ子が小さい頃はいろいろと楽しませてもらった。

自分から捨てた縁だが、今頃どうしているのかと、ふっと思い出して懐かしくなっていた。



 悠美さんが用意してくれた子供達にはドーナツと牛乳。私には紅茶。

 私と子どもたちがダイニングテーブルを挟んで向かいあわせに座り、下の子が両足をプラプラさせてドーナツにかぶりついている。


 上のお兄ちゃんが私の顔をちらちら見ながらドーナツを先に食べようか?それとも、何かほかにしたいことが有るのか思案しているように思えた。


「ねぇ、この前の秘密だけど、中にこれくらいの綺麗な鱗が入っていたの、それを水のはいったボウルの中に入れると綺麗な白銀に光り出したの。二人に報告しないといけないと思っていたから、今日、話せてよかったわぁ。ありがとう」


 その瞬間、兄の目がキラリと輝きた。

 何か私の言葉に響くところが有ったようだ。

 弟の方は目を丸くして、ドーナツで膨れた頬がまるで驚いたリスのようで可愛らしい。


「あのね、僕、夢を見たんだ」

 兄の方が私に真剣な顔を向けて言った。


「夢を?」と私が聞き返した。

「うん」

 大変な夢を見たんだという様に、兄の方は私の問いかけに大きくうなずいた。そして、はやく次を聞いてくれという様に目が話しかけている。


「どんな?夢をみたの?」

「大きいじぃじが、出て来たんだ」

「大きいじぃじ、源蔵さんが出て来たのね」

「うん」


 子供と話をするときは時間を急いてはいけない。

 子供の頭の中は、ある意味、神様と同じで時間の観念が無いからだ。代わりに色んなものが一か所に詰め込まれている。


 だからこちらがゆっくりと時間をかけて順番が繋がるように、一つずつ引き出してあげないといけない。

 それと、混乱させない様に、子供の話す言葉をそのまま使う事だ。



「そう、それで大きいじぃじが出て来て、何してたのかしら?」

「大きいじぃじが学校の藤の花の下にいて、僕に教えてくれるんだ。もうすぐ藤の花が咲くから、そしたらこれを持って行きなさいって」

「そう、藤の花が咲く頃ってもうすぐね。で、何を持って行けっていうのかしら?大きいじぃじは?」


 そう兄の方に夢の話の続きを聞きながら、私の心は、なんだかワクワクしだしていた。


「鱗だよ。龍の鱗」と兄の方が私に言った。

「鱗、龍の?」

 私は聞き返す。


「うん、だって学校の藤の木は、僕が一年の冬休みに切られて鉄棒が出来たんだ。でも夢の中で大きいじぃじが、これも龍の鱗で生きかえったんだって言ったんだよ。

 でねぇ、切られた藤の木が本当に綺麗に咲いてた。僕が知ってる、学校にあった大好きな紫の花が、たくさん咲いてるのを下から見上げて、綺麗だね、良かったねって大きいじぃじと言ったんだ。夢の中で大きいじぃじと一緒に見たんだ」と兄の方が嬉しそうに目を輝かせて私に言うのだ。


「そう、龍の鱗で、切られてなくなった大好きな藤の木が生き返って、綺麗な紫の花を咲かせていたのね」

 私は話の内容を短くまとめて兄の方に聞き返した。


「うん、それから大きいじぃじと山にいたよ。そしたら大きいじぃじが、岩がこぉーんなにいっぱいゴツゴツある中に、龍の鱗をポン!て落としたんだ。そしたらピューって大きな水が出てきて、僕はびっくりして逃げた。

 でも大きいじぃじが笑いながら大丈夫だ。見てごらんって言った。そしたら岩が無くなっていて、見たら綺麗な湖があったんだ。

 それに、そこには白くてキラキラ光る龍がいた。龍と大きいじぃじが、僕にもう帰りなさいて言うから。うん、って言ったんだ。そしたらね、大きいじぃじにバイバイって言ったら目が覚めたんだ」

 兄の方は不思議そうな顔をして私にそう言った。



「そう、その夢はいつ見たの?」

「今日だよ、今日の朝見たんだ」

「そうなの、でも、どうして私に教えてくれるの?」

「あのね、大きいじぃじが教えてあげなさいていったの」


 それまで、口に入れたドーナツが邪魔をして黙っていた弟の方が、私に向かい元気よく答えた。


「私に?」

 今度は弟の方を見て聞き返す。

「うん」と二人同時に声を揃え、間一髪を入れずに同時に頷いた。


 奇跡を待つしかないと源蔵は言った。

 その源蔵が亡くなり、その四十九日の朝に、ひ孫二人がどうやら同じ夢を見た様だ。


 その夢のポイントから、龍の鱗で消えたものが生きかえる。ゴツゴツした岩の中にその鱗を入れると水が噴き出し、岩が湖に変わる。


 たぶん意味は一つだろうと思う。龍の鱗を使えば、あの湖が蘇るということだ。


 時期は藤の花が咲く頃、4月下旬~5月はじめ…、丁度今くらいだ。もうあと二週間もすれば、そろそろ早咲きの藤の花が美しく咲き始めるころかも知れない。


 機が熟したという事を亡くなった源蔵が二人の夢の中に現れて、今だと教えてくれているのだろうか。


 もしそうなら、いえ、そうで無くても一か八か、この子ども達の見た夢にかけてみるのも悪くないかもしれない。

 何の欲もない、ただ素直なだけの幼子二人の話を聞いた私はそう思った。

 そう思うと、不思議な事だが自然に笑みがこぼれてきた。


「そう、分かったわ。大きいじぃじの夢の知らせを教えてくれてありがとう」

 私は、なんだか嬉しくなって二人に微笑んでいた。


「うん、ねえ、それでどうするの?」

 真剣な顔の兄が、きつい目をして私に切り返す。


「そうねぇ…、どうしょうかしら。そうだ、よかったら二人に手伝って貰っていいかしら?」

「うん。いいよぉ、ねぇー、お兄ちゃん」

 かじりかけのドーナツを両手に持ったままの弟が、にっこりと顔中で笑って見せる。


「いいよぉ」

 兄の方は当然という様に答えた。

「ありがとう。じゃ、お願いするわね」

「うん」

 これも二人同時に返事が帰って来た。

 兄の方は、それでやっと安心したのかドーナツを美味しそうに口にほおばり、私に向けて顔中で笑顔を返してくれていた。






 ☆-☆-☆


「何もおこらないねぇ?お兄ちゃん?」

「うん、おかしいなァ?大きいじぃじがこうしたら…、水がビューってすごく出たのに?」

 二人は不満げな顔をして〝どうして?水はでないのか?〟と私に無言の問いかけをしていた。


 どうしてだろう?と私も思う。

 確かに子供の夢を信じて、そんなことが起こると本気で思っていたのか?と言われれば返す言葉は無い。無いが信じたかった。

 だから私は信じたというのが私の正直なこたえだ。

 三人の沈黙を破るように悠美さんの声が上から私達三人を呼ぶ。


「ねえ、そろそろ上がって来てお昼にしましょう。亮、裕、綾乃さん」

「ええ、そうね」

 私は悠美さんにそうこたえてから、ゆっくりと周りをみまわした。


 ゴツゴツした石が、ゴロゴロとそこいら中に転がり、ぽっかり空いた無残な姿のその大きな穴は、以前は美しい水を湛えた湖だった。


 だが今は、水がない殺伐とした石だらけの窪んだ後地に私達は立っていた。あのお守りから出ていた鱗を、兄弟たちが見た様に石をよけて落として見るが…。

 何も起こらない。


 それはそうだろう夢と現実は違う。

 それで水が湧いたなら世の中何でもできる。と妙に腹を立てながら私は思った。


「つまんない!」

 口を尖らせた弟の裕君が、足元に転がる無数の石をジャリジャリいわせて、すり鉢状になっている、かつては湖の底から上に向かい登っては滑り、登っては滑りを繰り返しながらもひとりで登りだした。


「ねえ、あそこに入れればいいんじゃない?」

 兄の亮君が、掘削されたパイプが地面から無機質に顔を出している場所を指さした。


 確かに、そこに入れるのが一番確立の高いような気はするが・・。

 だが、一度入れてしまえば二度とは取り出せない。

 夢を信じていると言いながら、私は土壇場になって躊躇っていたのだ。


「そうね、それが一番かもしれないけど。入れたら最後、今みたいに目の前の石の間に鱗を落とすのとは違って、水が出なかったからといって拾うことは出来ないわ。龍の鱗はこの一枚だけだから、よく考えてからでないとあの中に落としてはいけないと思うのよ」


亮君は、少し考えるようにしてから口をへの字に曲げると、私に向かい少し怒ったように「分かった」と短く言いい、弟の後を追って上へと上がりだした。


 細かな石が足を置くたびに、ジャラジャラと音を立てて滑り落ちて行くので、二人はなかなか上に上がれないでいる。


・・アリ地獄のようだわ・・と私は思った。


 そんな二人を見かねた悠美さんの旦那さん、亮君と裕君の父親である一馬さんが二人を助け上げに降りて来ていた。

 私は真に手を差し伸べて貰い、何とかこのアリ地獄から上に這い上がった。


「綺麗なところですね。風も気持ち良いし」

 悠美さんが大きく息を吸ってから笑顔で私にそう言った。

「ええ、湖がある頃は優しい水の香りがしていたわ」と、私も笑顔で悠美さんに遠い昔を思い出しながらそう言った。


「優しい水の香り、祖父も嗅(か)いだんでしょうか?その香りを」と悠美さんが言う。

「ええ、多分」

 私がそう言うと悠美さんは遠い目をして空を見上げた。

 もしかしたら、この空のどこかに源蔵が居るのではないかと思ったのかも知れない。



「ママ、卵焼きとから揚げ!」

「あっ、お兄ちゃん狡い。僕が先!」

「もぉ!喧嘩しないの、二人ともママが取ってあげるからちょっと待ちなさい」

「どれ、パパも取ってやるよ!裕はこれか?」

「うん!パパ、ありがとう!」

「どういたしまして、お兄ちゃんは・・、とぉ」


 一馬さんが二人にから揚げを取り分けている。

 優しい旦那さん。

 私には手に入れなかった微笑ましい幸せがそこにはあった。



「先生もどうぞ、遠慮なさないで」と、悠美さんが真に美味しそうな唐揚げや、卵焼きにおにぎりと山盛りのお皿を渡している。


 真は恐縮しながらも、それを嬉しそうな顔で取ると一口食べて、「美味い、悠美さんの作る料理はどれも美味しい。一馬さんも子ども達も幸せだ」と嬉しそうにいい、幸せそうな顔をして食べている。


「うん、ママのご飯は世界中で一番美味しい!大きいじぃじも言ってた」

「言ってたぁー」

 兄の言葉にすかさず弟が答える。悠美さんの目に薄らと涙が浮かんでいた。



 悠美さんと源蔵は似ている。

 孫娘は幼くして父母を失い。

 祖父は、源蔵は、自分と同じように幼くして父母から引き離された悠美さんを心から愛した。


 それはたぶん、二人には血の繋がり以上に私達には分からない同じ心の色を持つ者として、見えない信頼関係で固く繋がれているからではないのかと私は思っている。


 ふっと横を見ると真以上に幸せそうなゆるい顔をして、美味しそうに一馬さんがおにぎりをほうばっていた。

 これもまた何とも言えない無防備な顔であると私は思った。そんな一馬さんの幸せそうな顔を見て、私は思わず笑いが込み上げて来た。




「僕の顔?なんかついてますか?」

 ご飯粒でもついていますか?という様に一馬さんが口の周りを手で触れて、お箸を持ち直すとから揚げをつまみ上げた。


「いえ、なにもついてないわ。無防備に幸せそうな顔をしたから羨ましくて笑えたの」

 私は一馬さんに向かい笑いを堪えながらそう言った。


「そぉすか!僕、幸せですよ。大きいじぃじがいなくなったのは寂しいけど。思い出はいっぱいありますから、いつでも引き出しから出してこれます」と一馬さんが言った。

「まぁ!素敵なひと言ねぇ。じゃ、一番の思い出はなに?」


 一馬さんは、一口から揚げをほおばりモグモグと口を動かして、幸せそうな顔でゴクンと飲み込んだあとに遠い昔を思い出すような目になり言った。


「悠美との結婚を許して貰った時かなぁ。近所じゃ有名だったんですよ、うちのじいちゃん。頑固者で気に入らないと梃子でも動かない。気に入らないヤツとはひと言たりとも口をきかない。へたすりゃ、こっちが用件を話す前にパシンと叩かれて、出て行けって怒鳴られて追い出されるのがおちだと思ってました。


 おまけにね、うちのじいちゃんは若いころ、やくざの親分と対等に喧嘩してスカウトされたって噂があったから、こっちとしてはそれこそ命がけですよ。それにうちのじいちゃん、若い頃は男前だったらしくてよくモテたそうです。

 俺、あんまり顔に自信が無かったから、うちのじいちゃんに、おまえみたいな男になんか悠美をやれるかとかなんかって言われたらどうしょかとドキドキしてたんですよ」


「まぁ?あの源蔵さんが男前で、やんちゃくれぇ?」

「ええ、今でいうところのニューハーフが毎朝家の前にいて、うちのじいちゃんの後を一日ついてまわったって話は有名です。僕のばぁちゃんが教えてくれました」


「へぇー、あの源蔵さんがねぇー、ニューハーフの人に」

 真が妙に感心したように箸を止めて一馬さんの話しに耳を傾けている。


「あら、真だって負けて無かったと思うけど?」

 真は剣道と柔道の有段者だ。今も昔も無駄な肉などどこにもついていなかった。それに、中学でいなくなるまで真は女の子たちに人気があった。



「そうですよね。先生、若いころはそうとうな男前だったと男の僕でも分かりますよ」

「おいおい昔はかい?お二人さん。今はどうなんだよ。それに僕のことはいいから、一馬君のプロポーズ大作戦はどうなったんだ」と真が苦笑しながら言った。


「そうなんですよ。僕は、その日、死ぬ覚悟で悠美の家に向かいましたよ」

一馬さんが真剣な顔で真にこたえた。


「あなた、おおげさよ」

「いや、悠美、君は知らないかもしれないけど僕ら同世代には、川田源蔵といえば避けて通れと言われていたんだ。それくらい怖いじいさんだったんだぜ。うちのじいちゃん」


 怖い怖いといいながら、彼の中ではもう〝うちの〟が上につく愛情がある。源蔵との沢山の思い出がすべてを変えていったんだろう。



 その日、カチカチになって源蔵の前にでた一馬さんは前日の夜、お兄さんを相手に家で練習をして来た台詞は一つもでずに焦って口から出たのが、

「僕が養子に入ります。川田の家も悠美さんも僕が守ります」という、養子に入るなどと一馬さん本人が考えてもいなかった一言だった。


 確かに、一馬さんは次男坊で養子に入るには問題はなかった。だがその日まで一馬さん本人には、源蔵を目の前にするまでは、その気はなかった。


 勿論、悠美さんからは結婚するには養子に入るのが条件だと言われてはいたが、いざとなれば気が変わるだろうくらいにしか考えていなかったのだそうだ。

 なんと、ちゃらけた軽い男である…と私は思わず一馬さんの顔をまじまじと見てしまった。


「で、口に出した以上は男ですからね、仕方ない。兄貴には笑われるわ、お袋には泣かれるわ。姉貴には、あんたバカじゃないのと思いっきり怒られるわで、家の中は大騒ぎになったけど、男が一旦口にしたことを戻せないでしょ。

 そう言ったらうちのじいちゃんが、よその娘なら許さんが、源蔵のところの孫娘なら仕方ない。一馬、養子に行け。行った限りは立派に家を守り通せって、親父もそれでいいといってくれて無事に婿にこれることになりました」


 なんとちゃらけて頼りないが、一馬さんにはどこか源蔵に似ているところがあると、この話を聞いて思った。

 少し頼りないところはあるが、源蔵に似た男気のある一馬さんに私はちょっとだけ感心していた。



「ところで綾乃さん。チビ達に聞いたんですけどね。まあ、夢の話しですから何とも言えないけど、正夢ってことあるじゃないですか?」と一馬さんが突然話を変えた。

「ええ」


 ばかげていると、話を頭から否定しないところがこの人のいいところだと思う。だから子ども達二人も素直なのだろう。


「僕、思ったんですけどね。まず湖が蘇る前に藤の花が蘇っているんですよ。それで、僕の同級生に聞いてみたんですよ。そしたら、どこの家の子も学校にあった藤木を『なんで切ったの?可哀想』と言っている子ども達が多いらしくて。

 一人、僕の知り合いの教師をしている奴にも聞いてみたら、一部の職員を除いては、そいつも切ることさえ知らされて無かったらしいんです。それに切った後で結構な数のクレームが有ったらしいんですけど。まぁ、切っちゃた後じゃ仕方ないですもんね、どうにもできないって、そいつもぼやいていました」と一馬さんが言った。


「ええ、そうね。切る前なら移植するとか出来ても、切ってしまうともうおしまいね」と私も一馬さんの意見に同意した。


「バカなんですよ、あの校長。県会議員の弟だかなんだか知らないけど…。なんでも自分の思い道理にしたいみたいでね」

「あなた、子ども達の前よ」


 悠美さんに怒られて、一馬さんは「ごめん」と小さく謝ってから私の方に顔を寄せると、

小さな声で…、

「でも、そのせいかどうかは知らないんですけど、校長のところの、今年二十歳になる娘さんが体調を崩してしまっていて、今はせっかく入った大学を休学して家にいるらしいです。 

 みんな、藤の木の祟りじゃないのか、恐ろしいことだなんて言ってるみたいです。

 この辺はまだ村ですからね。

 昔からある村の名前が無くなって、合併して町になったけど。どんなに名前の呼び名が変わっても、昔からのお話が本当のことみたいに生きていたりする村ですから…」と一馬さんが言った。


「ええ、そうね」


 確かにそうかもしれないと私は思った。

 だから私は省吾と出会えることが出来たのだ。

 村のみんなや一馬さんのいうとおり、この村には、まだまだ昔の物語が、伝説が密かに生き続けているのだ。


「それに僕は思うんです。いきなり切られた藤の木も痛かっただろうし、毎年、毎年、綺麗な藤の花を見るのを楽しみにしていた子供達や、近所の人にしたら、なんの権限があってお前が勝手に切るんだ!て言う怒りみたいな見えない感情が塊になったら・・」と一馬さんは言いかけて、それ以上言うのをやめた。


「祟りになるかもしれない?」と私が聞き返す。


「そう、それ、それですよ、綾乃さん。するどい、もの言わぬものの思いは怖い・・って昔の人が言うように、人の心は怖いてことだと僕は思います」

「そうね、一馬さんのいう事も一理あると思うわぁ」


「でしょ!それで僕は考えたんですよ。学校の藤の木を蘇らせるのが、この枯れてしまった湖の水を蘇らせる呼び水になるんじゃないかな?って。おかしいですかねぇ」

 少し不安げな顔をして一馬さんは私に尋ねる。


「いいえ、おかしくないわ。考えてみる必要はあると思うわ」


 確かにそうかもしれない。夢の話を信じるなら、湖が蘇る前に藤の木が蘇り花を咲かせるのだ。

 私は、湖のことばかりを考えていて藤の木のことはすっかり忘れていた。相変わらず自分のことが一番の欲どおしい人間だと、私は心の中で自分で自分に毒づいた。


 そんな私の目の前で、私の返事に一馬さんが満足そうに笑い、から揚げをほうばると幸せそうに食べていた。


 横でその話を聞いていた真は、やれやれもう何を聞いても驚かないよという様に私に向けて肩をひょいと上げて笑っている。


 そして、


 亮君…、お兄ちゃんの方は何か怒ったような顔をして、おにぎるにかぶりついていた。


 裕君はと見ると悠美さんに再度卵焼きをリクエストして、嬉しそうに自分の皿を出して取って貰っていた。





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