一週目
僕と優花は同じクラスだった。事実がそうあるだけで実際がそうなってるとは言えない。優花は入学と同時に休学扱い。優花としては入学辞退としたかったらしいが母が説得して休学にしたらしい。どちらにせよ知ってる人間がいないこの教室で1人というのは鬱々してくる。元々対人能力が低い僕は小学生の時から友人と呼べる存在がなかなか出来なかった。
「天羽君、難しい顔してどうしたの?」
そんなことを考えながら帰る準備で鞄に荷物を入れていたら声を掛けられた。
「いやなんでもないよ。………えぇと」
「さっきクラスで自己紹介したじゃん、私は
そう言いながら秋野は快活な笑顔を向けてきた。僕も軽くはにかみ返す。
「自己紹介、あんまり聞いてなかったんだ。ごめん。こちらこそよろしく」
「うんうん、よろしくよろしく♪でね、カラオケいかない?」
「2人で?」
「違う違う、クラスの何人か誘って親睦会みたいな感じかな。ねっねっ?どうかな?」
秋野がチラッと目線を向けた方向を見ると5人くらいの男女が固まって談笑していた。なるほど、彼らが既に誘われたクラスメイト達だろう。
「あー……この後は既に用事あるんだ、ごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
あまり乗り気ではないし用事があるのは事実だしやんわりと断っておく。この秋野と言う奴はクラスの中心タイプだろう。下手に目をつけられても面倒だ。
「そっか、じゃあまた今度誘うねー」
そう言いながら集団に混じっていく。話の途中だった集団にすんなり混じって話に参加している。対人能力が高いのだろう。素直に羨ましく思う。
「惜しいなぁせっかくの秋野からの誘いなのに」
後ろから背中を小突かれる。少し驚いたがとりあえず振り返る。
「あー俺、鮎川玲二って言うんだ。これからよろしくな」
さっきの秋野と僕の会話を聞いていたからだろう。わざわざ名乗ってくれた。
「わざわざありがとう。惜しいってどういう事?」
「いや俺秋野とは同じ中学なんだけどさ、あいつから男に声かけるなんて滅多にないんだぜ?」
「?さっきの面子に男、いたと思うけど」
「あれは秋野が誘った女子が誘った男だよ。中学の時もいろんな奴が告白して断られたんだぜ?そんな秋野がわざわざ声をかけるってことはもしかするともしかするぜ?」
つまりこの鮎川が言いたいことはそういう事だろう。まさか、と一笑に付しつい笑ってしまう。
「ないって、ないない」
「いやー分かんねーぞ。案外天羽みたいなのがタイプかもしれないぜ?」
案外って暗に容姿が良い訳では無いと言われてる気分だ。まあ容姿に自信がある訳では無いが。
チラリと時計に目をやる。時間の確認.........という意味合いもあるが鮎川がさっきの話を聞いていたなら予定の時間が近いと思って話を中断してもそこまで不快感を与えないだろうという微妙な試みた。
「ん?用事の時間近いのか?」
「ん.........まあね。じゃあ僕はもう行くよ」
気が利くのか利かないのかいまいち分からない奴だ。
「せっかくだから途中まで一緒にいいか?」「.........学校出た瞬間右と左で別れるかもね」
「そのときはそのとき」
別段拒否する理由もないのについ壁を敷こうとしてしまう。それが分かってても気にしないのか鮎川立ち上がる。
「ほら行こうぜ」
鮎川が良い笑顔でそう言う。ここで無視して行くほど僕も終わってない。
「そうだね、行こうか」
立ち上がり教室を出る。1年生は1階の教室なのですぐに校庭に出れる。
「天羽はこの学校に同じ中学からの奴っているのか?」
「.........いるよ」
つい言葉に詰まってしまう。鮎川にその詰まった間を大して気にした様子はない。そのまま歩いて校門を過ぎながら話を続ける。
「違うクラスだったとか?もしくは仲良くもなかったとか?」
「別にそういうわけじゃないけど.........と、いうか何でそう思ったの?」
「いやー教室で独りだったし」
「中々に毒舌じゃないか.........」
そう言いつつ目を逸らす。何とも痛い部分の話だ。同じ中学と言えば僕には優花しかいない。鮎川が事情を知るわけもないから仕方ないが優花の話題は僕にとっては余り表でしたい事ではないのだ。小さい針でチクチクゆっくり刺されるような痛みを覚えてしまう。
「余り人付き合いは得意じゃないんだ」
「そうか?これだけ話せれば十分だと思うけどな」
「鮎川から話しかけてくれたからね。他に人がいたり、僕から話しかけたりは中々できないかな」
意外と僕みたいなタイプの人は多いと思う。自分からは話せないけど話しかけられれば話せるタイプの人。
「そんなもんかねぇ」
「そんなものだよ。.........僕は目的地に着いたよ」
「用事って病院だったのか」
立ち止まって目の前にあるのはこの街で1番大きい総合病院だ。優花が入院している病院でもある。
「どっか悪いのか?」
「そう言う訳じゃないよ」
優花の事をわざわざ言うつもりはない。そのうちバレるだろうが自分からいうことではないだろう。
「まあいいや。俺の家向こうだから。また明日な」
そう言いながら手を振る鮎川に僕も手を振り返す。鮎川が手を振るのを辞めて前を向いたのを確認して僕は病院に足を踏み入れた。
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