2週目

病院に大事なのは清潔感だろう。誰も汚れてる病院で治療を受けたくないだろう。信用出来ないからだ。病院の内装が白いのはどの色より清潔と人に思わせるからだ。

僕はだからかは分からないが白という色が嫌いだ。白という色は僕にとって死を連想させる色になってしまった。

「あ、勇樹君。こんにちは」

「上田さん。どうもこんにちは」

優花の見舞いに来て時々あう看護師の上田美優さんだ。向こうも覚えてくれて会うと話しかけてくれる。

「今日もお見舞い?」

「まあ僕が体調悪くて来てないのならそうなりますね」

「…わざわざ照れ隠しにひねくれた言い方しなくてもいいのに」

上田さんは苦笑しながらそう言う。自分としてはひねくれたつもりはなかったがそうは捉えてもらえないらしい。

「いつもお見舞来てくれて、優花ちゃんは愛されてるねえ」

「愛だなんて......そういうのじゃないですよ」

愛と言われてつい頭を掻いてしまう。兄妹......いや姉弟のように育った僕達にとって愛と言われると気恥しくむず痒いものだ。年頃だがこの感情は恋愛よりも家族愛だと思う。

「君は恥ずかしがり屋だね。受付の紙書いておくよ」

「いいんですか?わざわざすいません」

「いーのいーの。その分少しでも優花ちゃんと一緒にいてあげな」

手を振りながら上田さんと別れる。そのまま丁度きた近くのエレベーターに乗り込み目的の階を押す。目的の階まで止まらずそのまま目的の階で降り、病室に向かう。病室の表札には優花の名前だけがある。本人は嫌がったが未知の病の言うことで親と医師に説得されここに入った。

「優花。入るぞ」

ノックをしてドアを開ける。優花はベッドに座って窓の外を見ていた。

「......何か面白いものでも見えるのか?」

「ううん。鳥を眺めてたの」

「鳥?」

言われて窓の外を見れば雀が手すりで休んでいた。

「楽しい?」

「別に楽しくないよ」

そう言ってこちらを向く。優花は少し痩せた。いや、やつれたか。最初に優花に現れた症状は吐血だった。すぐに病院に行き検査をするが原因不明。次の日には足の自由が利かなくなった。これもまた原因が分からず、神経に異常か?と診断された。そしてここ数日で急に呼吸困難の発作がでるようになった。医師には原因が分からずどう発展するかも分からない。覚悟はしておいて下さいと含まれてる。

「勇樹は学校どうだった?友達は出来た?」

「どうだろう。友達って言う線引き次第だけど明日からも話せそうな人は1人いたかな」

鮎川の事を思い出す。彼なら僕からでも話しかけることが出来そうだ。

「そっか......良かった。勇樹は人付き合い、苦手だもんね」

優花の後についていた僕を思い出してか優花は少し笑った。

「僕だって変わるさ。成長しないとね」

鞄を置いてパイプ椅子に座る。ギィっという音が鳴る。僕はこの音が好きじゃない。

「勇樹は毎日来てるけど私のことは気にしないでいいんだよ?」

「別に......優花といるのは落ち着くから」

「そっか」

それを聞いて優花は嬉しそうに微笑む。

毎日見舞いに来てるのは僕だけだ。僕と優花の親は仕事でなかなか来れない。中学の友達も来たりするがそれぞれの高校に分かれ忙しくなればそれもわからない。

「入院って暇だと思ってこれ持ってきたんだ」

鞄から小説を取り出して渡す。内容はファンタジーもの。僕はそこまで好きではないが優花は小説はファンタジーを好んでいた。

「わざわざありがと」

「欲しいものがあったら遠慮しないで言ってくれよ」

「遠慮するよ。お金あんまり持ってないんだから」

「いやいやバイト始めるから遠慮すんなって」

高校入学と同時に新聞配達のバイトに受かっていた。学校生活が落ちついたら始まる。

「そうだけど自分の事に使って?」

「うーん.........自分の事って言うのがあんまりわからないかな。それに僕は優花のために使う方が嬉しいよ」

「......あっそ」

そう言って優花は俯いて本を読み始める。僕も自分の本を取り出す。僕のは推理小説だ。少し小難しい方が僕は読み応えがあって好きだ。

2人の間に会話はない。ただ一緒にいて本を読むだけ。僕はこれが心地よかった。

「ゴホッゴホッゲホッ」

「優花!」

迷わずナースコールを押す。優花はまだ咳き込んでる。咄嗟に本を投げたらしくベッドの足下にあった。

取り敢えず効くかは分からないが背中を摩る。その時に手についた赤い色を見てしまう。

「優花ちゃん大丈夫!?」

来たのは上田さんだった。咳き込む優花を見て状況を把握したらしく、すぐ吸入器を用意した。

「ほら、優花ちゃん。吸ってー吐いてー」

優花は咳き込みながらも上田さんの指示通りに吸入を吸っている。僕はこの時は見ていることしか出来ない。それが歯痒くて仕方がない。

「優花ちゃん落ち着いてきた?」

「なん......ゲホッ...とか」

「そっか...良かった...」

何とか収まったようで僕も胸をなで下ろす。

「勇樹君すぐ押してくれてありがとね」

「いえ、そんな......」

「ううん、ありがと勇樹」

余りにもお礼を言われすぎて気恥ずかしくなってしまう。

「ごめん、そろそろ僕帰るね」

「分かった。そんなに毎日来なくていいからね?」

「あっれーそんな事言っていいの?勇樹が来た時の優花ちゃん嬉しそうじゃん?何時も勇樹君が来るまでソワソワしてるじゃん」

「上田さん!!」

優花が真っ赤になって上田さんに抗議する。僕はそれについ苦笑いしてしまう。

「上田さん、余り優花を興奮させないで下さい」

「いや、ごめんね。照れる優花ちゃんが可愛くてね」

「あーもう、勇樹は帰るならパッと帰る!ほら!」

はいはいと手を振って病室をでる。そうして思い切りため息をついた。

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